小鍋のおでん

 官公庁御用納めと同時に小山さんも仕事納めとなる。私もその時の勤め先がそうであったために、定時で切り上げると小山さんと合流した。年末の難波は肩をぶつけ合いながら、往来を行く。

 小料理屋の看板が明るいのを見て、無言で暖簾をくぐる。

 カウンターだったが、隅に二人で座れたから他の客は気にならない。私たち二人で満席となった。年の瀬に好きな店で過ごせることは幸運である。

「年末でもいっぱいやね」

「それでも皆さんおとなしいですな」

 外の喧騒とは別世界になっていた。

 その空気まで含めての呑みであると言わんばかりである。年始になればもっと騒がしくなるだろうが、店全体が無言の同意で年末を味わっている。

「けっこう寒くなったから、おでんがいいなぁ」

 小山さんは季節のものを逃がさないように指でメニューを追っている。

「ここではおでんを食べたことないですね」

「では一つ頼んでみよう」

 顔を上げると店員さんが静かに注文を受けに来てくれた。

「おでんは時間かかりますが、よろしいでしょうか?」

 二人して頷いた。

 おでんが来るまでは、どて焼き、銀杏、だしまきで過ごした。

「ここまでビールやったけれど、せっかくのおでんや。ポン酒(日本酒)を飲もう。君もいくか?」

 頷くと、冷やで一合頼んだ。

 少し腹が膨れた頃に小鍋でおでんが運ばれてきた。

 蓋を開ければ、しっかりと湯気が立っている。

 からしを少しつけて口の中に放り込むと日本酒をグイッと入れて冷ました。酒とおでんで身体が温まっていく。

「いやぁ、明日が大晦日だとは信じられませんね。年の瀬にお会いできて良かったですよ」

「俺も会えて良かったよ」

「良いお年を」

「良いお年を」

 数日後にはまた会って呑んでいると思うのだが、少し寂しい気がした。

 

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