アゴ酒
もう秋も暮れというところで、小山さんが「頼まれた」という所へ行くのにつきあったが、思ったより早く用事が済んで、まだ午後の三時というのに飲みに向かった。
「秋本番には、秋味がないんや」
小山さんの酒愚痴を聞きつつ、上本町へと足を向ける。
このへんまで来れば、この時間から空いているイイ店もあるだろうとふんでのことだ。
「こっちはあまり来ませんねぇ」
「根城はミナミやからなぁ」
まだ飲み屋街も起きる前でのれんは出ずに店の椅子はテーブルに上がっていた。この静けさもいいなと、二人で言い合った。もう数時間経てば、ここは人でいっぱいになるのだ。
二人で店を物色して、店前に生け簀がある良さげな店に入った。この時間から女子会なのか、酔っ払ったお姉さん方が大きい声で男の愚痴を言っている。どうにも合コンで失敗したようだ。
小山さんはその人らを「うるさい」と気にすることもなくメニューを見ていた。
「懐が、な。寒いもんで」
いつもは気にせず好きなものを頼むのに、余程持ち合わせがないのかウンウンと唸っている。
それでもどうにか注文すると二人して下品な会話を小声でした。
側の女性陣の耳にでも入って絡まれたらたまらない。そういう気分ならばいいが、今日は二人で静かに飲みたい気分だった。
「これ飲んでみよか」
小山さんが指したのは「アゴ酒」だ。
中々のいい値段で、猪口を二つ頼むのを躊躇ったほどだ。出てきたアゴ酒はアゴが土瓶に入っていて、これを熱するらしい。
「ちょっと湯気が出てきた時が飲み頃です」
店員さんの指示にしたがって、二人して待つ。
小山さんが高山で飲んだという岩魚酒の話を聞いている内に湯気が出てきた。どれどれと二人で啜ると、出汁もあって旨い。ほっとするような味だ。
「これは後から味が濃くなっていくやつやな」
その通り、後から口にしたものはアゴの味が濃くなって、味の違いを楽しめた。
「最初に頼んだ鯖の塩辛はこのタイミングやったなぁ」
笑うと、「今日は面白いもんが飲めたからいい日やったな」と別れたがまだ日も暮れたばかりだ。もう少しブラブラしよう。その後は私一人で楽しんだ。
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