第3話

「ただ……ホゲェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!」

 

 玄関の扉が開く音が聞こえ、お父さんが帰ってくる。

 ……うめき声が聞こえてくる。

 根性ないなぁ。さっきまでの方が遥かにひどかったんだぞ?

 これでも換気に空気清浄機をガンガンに行い、なんとかしたんだよ?

 結構マシになったんだよ?


「くっさ!なんだこれ!」


 お父さんが臭い臭いとうめきながら、リビングの方にやってくる。

 あなたが言いますか?ワキガであるあなたが言いますか?いつもとんでもない悪臭を振りまいているあなたが言いますか?

 ちなみにだが僕の家族、お父さんもお母さんも瑞稀もワキガである。家の体臭は地獄である。

 まぁ瑞稀は言わずもがな。お父さんもワイルドなイケメン。お母さんだって美人なので許されている。イケメンで、美人なら許されるのだ。

 僕は許す。ただイケメン。オメェはだめだ。お前もう船降りろ。

 いやー、良かった。俺がワキガを遺伝しなくて。フツメンである俺がワキガを遺伝していたら犯罪だったよ。

 僕とかお母さんと目元が少し似ている程度なんだから。


「なんだ?何があったんだ?」

 

 リビングで瑞稀とゲームしていた俺にお父さんは尋ねてくる。


「お父さんの体臭じゃない?」


「んなっ!!!」


 俺はばっさりと切り捨てる。

 イケメンにかける慈悲はなし。


「お、お、お、お兄様!」

 

「ん?」


 頬を赤らめ、動揺しまくった瑞稀が僕のことを呼ぶ。


「流石はお兄様ですね!全然敵いません!」


「いや、すごくないよ……。ずっとやっているゲームだしね」

 

 僕はずっと家にいるのだ。今一番ハマってやり込んでいる格闘ゲームで今始めたばかりの妹に負けるのは恥ずかしすぎる……。

 ……結構ギリギリだったけど。

 俺の妹がチートすぎる……。


「そんな事はありません!お兄様は最高です!私の全てです!」


 ……瑞稀はいちいち過剰に僕のことを褒めてくる。

 ……ヤンデレ?

 いや、ないか。現実に兄のことが好きな妹なんていない。

 さっきの奇行も臭いという言葉に錯乱したからだろう。

 瑞稀はとても自分の匂いを気にしているし。



「あ、夕飯はもう出来ているから待ってね。お母さんが帰ってきてからね」


 僕は一旦ゲームを止め、二階の自分の部屋で着替えてリビングに降りてきたお父さんに声をかける。

 

「おう。いつもありがとな」


「いいよいいよ。これくらいは当然のことだよ」

 

 ニートしているくせに家事もやらないとかもう人間として失格だろう。

 俺の夢はいつか出来るである妹の子供のおむつを取り替えてあげることだ!

 


「ただ……ホゲェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!」

 

 お母さんも帰ってくる。

 そして、予定調和のように呻く。

 瑞稀の顔は真っ赤に染まっていた。


「お兄様……」


 恥ずかしそうに小さな声で俺のことを呼びながら、もたれかかってくる。

 うちの妹が可愛すぎる件について。

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