死神のみちしるべ

安形 陸和

第1話

何の才能もない、生きている価値もないようなそんな私だが、どうにも死ぬ勇気だけは持つことが出来なかった。私は自分に絶望して、ますます自分が嫌いになった。そんな私が行きついたのは、世界を攻撃することだった。そうしなければ、私は私を保つことが出来なかった。

才能がある奴が妬ましかった。それを磨こうとしないのにも腹が立った。選ばれた人間でしか夢を追う資格がないというのなら、選ばれた人間はそれに向かって努力する義務があるはずだ。私には挑戦権すらないのだ。

結局こんなことを考えていても、逃げているだけなのだ。そんなことは分かっている。それで、私はますます自分が嫌いになって、この世から消え去りたくなる。

いっそ私のことを誰か殺してくれないのだろうか。

「私がお手伝いいたしましょうか」

後ろから声をかけられた。あわてて振り向く

そこには、黒いスーツを身にまとい、年は三十もいかないくらいの見た目の男性が立っていた。

「あんたは誰だ」

「申し遅れました。私、死神の鎌野と申します」

「死神?おちょくってんのか」

「いやいや、私は本物の死神ですよ」

「でもまあ、あなた方が想像する死神とは少し違うかもしれませんが」

鎌野と名乗る男は怪しいながらも、妙に厳かな雰囲気を纏っていた。

「あなた方が想像する死神というのは、人の命を奪いにくる、厄介なものという認識でしょう。しかし、本物の死神というのは、そんなことをしません」

「じゃあ、何をするんだ」

「私と契約をしてほしいのです」

「契約の対価に命を差し出せってか。俺らの認識と何ら変わらねえじゃねえか」

「いえ、命はいただきません。いただくのはあなたの大切な何かです」

「友人かもしれないし、家族かもしれない。財産だということもあり得ます。内容は契約満了後に判明いたします」

「対価は分かったが、こっちのメリットは?」

「人生をやり直すことが出来ます。今の記憶を持ったままで」

「そして、やり直した人生において、あなたの大切なものを”お一つ”いただきにまいります」

「一つだけなのか」

「はい。どうせ死にたいと思っている命なんです。どうです、契約してみませんか」

男は脊髄反射的にこう答えた。

「契約させてくれ」

「かしこまりました。では、こちらにお名前と、生年月日、そして、やり直したい年齢をお書き下さい」

契約書を渡された。必要事項を記入していく。

「高橋様ですね。現在28歳で、戻りたい年齢は18歳でお間違いないですか」

「ああ」

「かしこまりました。ではこの内容で、ご契約を承りました」

「では、よき人生を」

男の顔は怪しく笑っていた。

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死神のみちしるべ 安形 陸和 @yudouhu79

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