3枚目
最後にもう一人、友人を紹介しても良いですか。手が止まらないのです…(笑)
その方を紹介する前に、こちらの世界に来てから最も驚いた事を紹介しなければなりません。
RPGゲームをご存知の方なら馴染み深い物だと思うのですが、クエストというものがあります。実はあれ、本当に困って掲示板に提示するものと、街の活性を狙って掲示するものがあるのです。
どういうことかといいますと、私一度だけマキア様の代わりに街会議というものに参加しました。その会議では、ヘルウェルで商いをする店主の方々が集うのですが(宿屋のスージーさん、鍛冶屋のハルバウさん、酒場のマイヤーさん、ギルドのルシェフさんなどなど)
その会議では、とにかく街に人を呼ぶための施策を練るのです。
その為に、ただギルドの掲示板に依頼書を提示するのではなく、ヘルウェルでしか手に入らない宝石や木材、あるいは食品などを懸賞として添える事で、旅人達を呼び寄せるのです。
時折、こんな素材集められるわけないだろう!と怒鳴り声を上げたくなるようなクエストがあると思うのですが、実はそこまで欲しているのではないのです。ただの話題作りの為なのです。
ですので、時折しれっと依頼を達成する凄腕のハンターがいるのですが、かなりの驚きです。
実はこういった背景があるのだと自分がその立場に立ち、ようやく気づくことができました。
話を戻しまして、ちょうどその頃、カリウス様の一件もあり、私は獣を用いた装備の製作に関心を抱き始めていました。
そしてとある獣に焦がれたのです。その名はヒアナ。鴉色の艶めきを放った翼を持つ大鳥です。ランクはS級、天空から町を見下ろし、金品を身につけた人々を鋭い足爪で掴み取り、大空を旋回するそうです。
人々が暮らす領域に簡単に侵入する為に、S級の中でも危険種として認定されています。
そんなヒアナの素材が欲しく、ギルドの掲示板にクエストとして掲示しました。
頼りになるのはハントする能力に優れた、あなた達だけなのです、と。
こうして提示してから半月ほど経った頃、一人の青年が店にやってきました。その青年というのが、キースという四人目の友人になります。
初めこそ私は彼に対して恐怖心を覚えました。なんせ、額の中央から眉間を通り、左頬まで伸びた大きな傷を持ち、鋭い切長な瞳は海底の青き深みがありました。
私がもし、マモンキー(桃色の毛並みのリスザルの様な生き物で、強者感知脳力に優れ、強者を目にすると、素早く逃げるか自分の宝物を手渡すという媚びる習性があります)だったなら、この店を捨て、逃げます。
無論、そんな私を逃さんとルクスの手が阻止しました。
妙に静まり返った店内で、初めに口を開いたのはキース様でした。
『依頼のモノは店の外に置いている』
キース様の一声に私は目を丸くしたのです。一瞬、何のことだ、と思考がままならなかったのですが、ルクスに手を引かれ、屋外に出た時、ハッとしました。
店の前には、ヒアナの亡骸が置いてあったのです。さらに、その亡骸を突くマモンキーがいました。(キース様の相棒だそうです。勝手についてきたと言ってました)
どうやら、キース様は獣を店に入れることを躊躇ったそうです。店先から店内を覗いた時にそう考えたそうで。
私は彼のうちに秘めた優しさに触れました。さらにキース様はマモンキーに頬ずりをされるほどに懐かれていたのです。
私は人を見た目で判断するものではない、と心に銘じました。
こうして素材は揃い、装備の製作に取り掛かったのですが、ふと私は思い出したのです。このクエストの報酬を???にしていた事を。
急遽、その装備をキース様に合うように製作し始め、あたかも初めからこれが報酬であったかの様にお渡ししました。
キース様はその装備を手にし、決して頬を緩ませるということはしませんでしたが、その装備を身につけてくれたのです。
顔には出ないタイプなのかな、と私は自身を慰めました。
しかし、キース様は店を去る前にこう言葉を残してくれました。
『もし、何か他に欲しい素材があったら言ってくれ。しばらくはこの街にいる』
こうして私はキース様との親睦を深めたのです。
キース様は装備製作に役立つ獣の知識も教えてくれたのです。例えば、群れで行動するエルファンという獣がいるのですが、彼らは非常に知能が高く、また、仲間意識が強い為に、エルファンの素材で作った装備で彼らの前に現れたとすれば、たちまち包囲され、袋叩きに攻撃されてしまう、と教えていただきました。
また、恐れを抱いていた狩へキース様と共に向かったのです。狩場でしか目にすることのできない自然に溢れた景色に触れる事ができました。
こうしてキース様と過ごす時間は、なんとも充実感に溢れ、あっという間に過ぎていったのです。
そして、別れは突然になってきました。彼が旅立つ日がやってきたのです。
これまで、アリッサ様やカリウス様、幾度か大切な友達を見送ることがありましたが、これほどの寂しい思いはキース様が初めてでした。
涙を堪え、見送る私にキース様は言いました。
『また、この街に戻る』と。
私はその言葉を信じ、日々洋服作りに勤しみ、再び彼に会う事に待ち焦がれています。
他にもこの一年、様々な事がありました。しかし、これ以上手紙の数を増やしてしまうとボトルに入らなくなってしまいます。
なぜ、こうしてボトルメッセージをしたためているかと言いますと、このヘルウェルという街で密かに噂されている都市伝説のようなものなのですが、ヘルウェルに流れる運河はやがて海に届き、その海は時空を超えた世界の海に通ずると言われています。そして、どの世界に送りたいか、その願いが強ければ強いほど望んだ世界、その手元に届くかもしれない、と言われています。
はたして、今この手紙を読んでいる方は、私が届けたいと願った方なのでしょうか。違うとしても、洋服屋リーリエの異世界転生での出来事を楽しんでいただければ幸いです。
早春の息吹を感じる昨今、どうぞ健やかにお過ごしください。
ヘルウェル中心街 洋服屋リーリエより
洋服店リーリエより 今衣 舞衣子 @imaimai_ko
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