2枚目

 しかし、そんなある日の事です。一人のハンターがやってきました。背が高くひょろりとした体なのですが、その肩には巨大なケタルク(黄金の鱗を持ったアルマジロの様な、たぬきの様な感じの獣です)の亡骸が乗っていて、どさりとカウンター前に落としたのです。

 そのハンターの名前をカリウスと言います。(3人目の友達…?)

彼は私に言いました。


『あんたは装備作りが上手いと聞いた。金はいくらでも払う。この黄金甲目コガネコウモクを俺に似合う装備に変えてくれ』と。


 材料さえ揃っていれば作る事が出来ます。ただ、カリウス様は更なる要望を付け加えたのです。


『ケタルクの何ともけたたましい唸り声。俺様をまなこにとらえた途端、こいつの双眸は真っ赤に染まり上がった。黄金の鱗が一瞬にして逆立ったよ。俺様はこれまでにないほどに痺れたね。こいつは俺だ。俺と同類だ。俺様が目にしたこいつの勇ましい姿を再現してくれ』


 そう言われた途端に、私は途方に暮れました。ケタルクの姿など目にした事もない。その迫力も、亡骸を目にして想像することも困難でした。しかし、カリウス様は引き下がらず、ルクスまで、私なら出来ると鼓舞するのです。結果的に引き受ける事となりました。


 さて、どうすべきか。まずは生き生きとしたケタルクの姿を見なければなりません。私はルクスに連れられ、街の中心にある図書館に行きました。

 そこにはこの世界に存在する獣の図鑑があります。数多くの図鑑の中でウェインという魔法使いが描いた図鑑が凄いのです。

 どの様に凄いかというと、描かれた獣達が動くのです。

 どうやらウェインは魔法使いらしく、世界を旅しながら、旅先で出会った獣達をスケッチし、描いた獣達に魔法をかけ、まるで本の中で生きているかのように魅せているそうです。

 確かに、その動きには躍動があり、生を感じますが、やはりセピア色のケタルクからは確かな迫力を見出すことが出来ませんでした。

 そこで私は意を決して、カリウス様に狩の同行を申し出たのです。

 時に私が大胆な行動をとることをあなたはご存知でしょう?

 するとカリウス様は


『俺様は守ることは知らねぇ。ただお前達の前にあいつが現れたなら、その目に捉える前に仕留める』

 と言ったのです。


 それも守ることの一つですよ、とは口にはしませんでした。

 こうして、カリウス様の狩にルクスと共に同行させていただきました。

 ちなみに、この世界では獣達がランク付けされています。その基準は凶暴さや生息数によって決まるのですが、どうやらケタルクはA級の獣だそうです。S>A>B>C>Dという様な感じです。


 ケタルクの住処である山岳地に赴いたのですが、やはりレア物だそうで、なかなか出会うことが叶いませんでした。

 しかし、こうして気を抜いた時が危険なのです。ケタルクは突然に姿を現しました。

 カリウス様は、ケタルクの心を煽る様に雄叫びをあげました。(心の底から、やめてやめてやめて‼︎と叫びました。今思うと、まるで私も共鳴しているようです)

 私はルクスの手を引いて、岩陰に身を潜め、カリウス様とケタルクの戦いを眺めました。

 どちらも非常にけたたましく、どちらがケタルクでどちらがカリウス様なのか分からなくなるほどでした。

 時にケタルクの鋭い爪先がカリウス様の体をかすめたり、カリウス様の剣がケタルクの逆立った鱗を削いだりと、凄まじい戦いが目の前で繰り広げられたのです。

 私は目を逸らすことなく、一瞬たりとも見逃してはならない、と凝視しました。

 ケタルクの巨樹の幹の様な足。黄金で覆われた肉体。闘争心に燃える真っ赤な瞳。

 タケルクから感じ取れる全てを、記憶し、この手で作り上げなければならないのだ、と私も使命感に駆られたのです。

 そして、その闘いは何の憂いもなく、終わりを迎えました。カリウス様はケタルクを仕留めたのです。

 最後の力を振り絞り、天に向かって声を上げたケタルクは黄金の雨を浴びる様に、鱗を煌めかせ、地に落ちました。


 街に帰ってからはもう無我夢中で装備制作に取り掛かりました。鮮明に目に浮かぶうちに作らねば、と思ったのです。

 そして日夜睡眠を惜しみ、知らぬ間に日が過ぎていく中、ようやく装備は完成しました。

 それをカリウス様が身に纏った時、とてつもない感動を覚えました。ケタルクの姿を確かにこの目に感じたのです。

 カリウス様も大層満足げにニヒルな笑みを浮かべてくださいました。

 こうして、カリウス様は次なる獲物を捕らえる為の旅に出ました。

 それにしても、もう二度と狩には出たくありません。ただ、一つ気づいた事があります。

 ハンターは獣達に恐れを抱いていないのです。獣達との闘いを楽しんでいるようでありました。さらに目の前で朽ちた命に黙祷を捧げるのです。

 私も直接に殺めるわけではありませんが、獣の一部を用いて商いをしております。感謝の気持ちをより一層と感じられる体験でした。

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