洋服店リーリエより
今衣 舞衣子
1枚目
拝啓
淡雪から
こちらの世界では初春にヒルシュフという、鹿によく似た生き物が春の挨拶にきのみやくるみを届けてくれるそうです。
きのみはジャムにして、窓辺に飾り、くるみは保存食として蔵に納めるという慣わしがあるそうです。とても素敵な世界です。
さて、
異世界転生と気づいて、何やら不思議な能力を手に入れ、勇者様や魔法使い、そういった仲間と共にドラゴンを倒すと思っていたのですが、こちらのハローワークを尋ねたところ、私にはその様な方達と旅ができるほどの特別な能力がない様で、趣味であったコスプレ衣装作りを活かし、商業の栄えた街ヘルウェルの洋服店で働かせて頂いてます。
店主のマキア様には日々、愛あるご指導をいただき(褒めて伸ばしてくれるタイプです)私も伸び伸びと衣服作りを行う事が出来、さまざま試練がありましたが、なんとか乗り越え、この春、二号店を営む事となりました。
何かと仕事は順調です。また、私生活の方でも順調です。あまりの手紙の量にきっと苦笑してるのだろうな、と思いながら筆を握っております。
さて、この一年を振り返ると多くの素敵な出会いと別れがありました。私の記憶を彩る、素敵な友人を紹介します。
まずはルクスという守護魔法を使う少年です。彼、とても小さくて可愛らしいのに(本人に言うと不貞腐れる)すごく逞しいのです。
聞いた話では、どうやらヘルウェルは魔法使いの数がどの街よりも少なく、ルクスはヘルウェルに代々住まう守護魔法一家の生き残りだそうです。
父と母、また兄弟を亡くしたルクスはこの街の外れでひっそりと暮らしていました。
時に賞金稼ぎのハンターがルクスの力を借りたいと旅に誘う事があったそうなのですが、彼は莫大なイエン(通貨になります)を要求し、ハンターは流石に払えないと諦めるのです。
皆が本当はルクスは魔法の力を持っていない。だから協力しないのだ、と噂を流していました。しかし、勘違いしてほしくないのです。彼は正真正銘の守護魔法を操る少年なのです。
私が彼の力を借りようと、彼の住まう森に足を運んだのですが、なんせ無知で能力のない私は、そこが獣達の住まうフィールドだという事を知らず、案の定、猛獣に襲われました。
これ終わったなって絶望を悟った時、ルクスが現れ、何やら白いふわふわとした光の透明な壁?を出し、今に襲い掛かろうとした獣を跳ね返してくれたのです。お陰で私は体に傷を負うことなく、助かったと言う次第です。
ルクスは決して恐れているわけではないのです。ただ、大切な人が傷つけられる姿を見たくない、その様な思いがあって旅や狩には付き合わないと打ち明けてくれました。しかし、私は折角の彼の能力が不憫だと思いました。
そこで私は彼を洋服屋で一緒に働かないか、と誘ったのです。
と、ここでまぁ、なぜ守護魔法使いが洋服屋に?と思うかもしれませんが、洋服屋だからこそ守護魔法なのです。
実をいうと、狩、旅に出る方は、とても軽装を好むんです。つまり、ダイレクトに言うと露出狂が多いのです。
とくに初めて私にオーダー注文をした、アリッサさん(二人目の友人です)彼女は踊り子として旅人一行の放浪に同行したり、狩を楽しんだり、一人でふらりと世界を回ったりと、そんな自由気ままな女の子なのですが、その子の要望というのが
『私は踊り子だから体を自由自在に動かせる、くびれたお腹と胸元の大きく開いた、あと華やかに揺らぐお洋服が欲しいの』
だったのです。
まだ十六歳の女の子です。私は体に傷を作ってほしくない、と思いました。さらに踊り子ならば体が命ではないか、と思ったのです。そして、ふと洋服に守護魔法をかけたら良いのではないかと閃いたのです。
この様なことの次第で、ルクスにお願いしました。初めこそ、彼は鼻で笑うばかり。ただの洋服屋が何を言っているのだ、と。
しかし、私はめげませんでした。だって、私の背丈よりも小さな男の子にそんな生意気なことを言われても何も怖くありませんから(ルクスにばれたら大変です)少しずつ彼との距離を詰めました。
例えば、温かな出来立てのシチューやスープを届け、一緒に食卓を囲んだり、彼が一日をどう過ごしているのか、同行したりなど、しつこく彼に付き纏いました。しばらくしてルクスは私に聞いたのです。
なぜそこまで必死なのだ、と。
私はこう答えました。
『あなたの力を無駄にしたくない。けれど、だからといって魔法使いとして狩や旅にいかなければならないとも思はない。もし、あなたがその力を誰かの為に役立たせたいと願うなら、この街で一緒に洋服を作りませんか』と。
するとルクスは初めて笑ってくれました。
こうして私はルクスと共に洋服作りに励んでいます。火、水、土、風、それぞれの属性に特化した洋服を作ったりなんかして、瞬く間に売れ行き好調です。
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