第12話 あぁ!?女神様!?

 「あの、遅いけど、何かあった?」


 私が襖から中を覗くと、そこには警察官と捕まった犯人が居た。


 「とっとと認めろ!!俺はあの時お前を見たんだ!」


 「ワタシがやったんじゃないわ!!

  刑事さん!!

  何度言ったら信じてくれるのぉ!!」


 「テメェ煽ってんのか!?

  俺は何べん希望しても刑事になれてねぇんじゃ!!

  こないだなんて後輩にも抜かされてよぉ!!」


 「エエッ!?そんなん知らないわよ!!」


 …止めなければ。


 話は、いや、取調べは終わりそうにない。


 「やめて!!早くここから出ようよ!」


 ハジメ君の腕を思い切り引くとようやく取調べが止まる。


 えぇ、というか手錠までかけてる…


 「我を失ってた…すいません…」


 恥ずかしながら冷静さを失っていた。


 それも仕方ない。


 目の前にいるのはやっと見つけた手がかり。


 モザイク人間を追っていたあの女だ。


 コイツには聞かなければならないことが山ほどある。


 しかし、この女、見た目があの時から何も変わっていない。


 異常に整った顔立ち。


 見間違えるわけがない。


 しかし、美人と言えど、あれから少しくらい歳食ってて良いんじゃないか?


 女の姿はあの時見たまさにそのままだ。


 違和感はあるが、とにかくコイツと話さなければならない。


 「まさか逮捕されるなんて思わなかったわ…

  ワタシは清廉潔白で美しく、聡明で、朗らかで、清楚

 で、かわいくて……えっと、完璧な所が取り柄なのに…」


 女は手錠をかけられた手を悲しそうに撫でる。


 途中でめんどくさくなってんじゃねぇよ。


 気を取り直して俺は聴取を続けることとした。


 「アンタ何者だ?」


 「人の子らよ!我が名は世界神ローラ…

  いや、アンタが何者なのよ!?

  勝手にワタシの家に入り込んどいて何様なのよ!?」


 「アンタ神って…

  いや、緊急事態なんだ、俺は見ての通り警察官だ。

  ここから出る方法を教えてほしい。」


 「って、今何時!?

  …あ、あぁ!!

  もう終わっちゃった!?」


 女は枕元の携帯の様なものを見て時間を確認したみたいだ。


 質問に答える気はないらしい。


 どこまでも、なんというか残念な女性の様だ。


 すこぶる美人だが。


 「あぁ、我が子らよ、ごめんなさい。

  危険な目にあってなければ良いのだけれど…」


 「どう言う意味だ?」


 「分かった、説明するわ。

  多分、あなたもそこの子も、巻き込まれてここにいるの

 よね。

  ワタシ、自分の責任を逃れる母になる気はないの。

  育児放棄になっちゃうものね。」





 …6月。


 ワタシの受け持つ世界の1つでは番つがいとなる子らが増える。


 ジューンブライドというらしい。


 フフフン、羨ましくなどないわ。


 ワタシに相応しい神あいてが居ないだけ。


 5、6千年前には言い寄ってきた神が掃いて捨てるほど居たもの。


 ただ、思うの。


 最近少し、寂しいなって…


 そんな時、『招待状』が届いたの。




 受付をお願いします。




 なんて書かれていたわ。


 ずっと独身仲間だと、2柱で夜通し呑みながら語り明かした親友、いや、神友からの知らせだった。


 あの子最近会ってないと思ったら!


 なんてことなの!?


 神は病気になどかからない。


 なのにこの吐き気はなに!?

 虚しさはなに!?

 このしょっぱい液体はなに!?


 玄関前に倒れ込むワタシ。


 肩を抱いて慰めてくれる友はもう居ない…


 その日からワタシは体調を崩し、仕事を休みがちになる日々。


 神の仕事は子らの住む世界の管理。


 ワタシが休み始めてから、不思議なウィルスが顔を出したり、変わった成長をしたバッタが世界を横断したりしてしまったわ…


 「オイ!待てや!!」


 「ちょっと、まだ途中なのよ!」


 意味が分からない。


 宗教の話をされても困る。


 神だのと。


 つーか、バッタもウィルスも全部お前のせいかよ!!


 「いいから最後まで聞きなさい。」


 神同士が番となるとき、それぞれが持つ世界を1つにするの。


 それは初めての共同作業。


 なんてロマンチックなの!?


 そこでワタシは思いついた。


 通常、神は1柱1つの世界を持つものなの。


 でもワタシは2つの世界を受け持ってるの!





 「あー、ローラクン、余はさ、常々思うんだけど、やっぱり世界もさ、キミみた

 いに美人で、タフで…やっぱりタフな神に管理されたいと思うのよ。

  だからさ、余の分も管理してみようよ!

  ホラ、勉強だと思ってさ!」







 どこかで聞いた言葉に少し泣く。


 コイツも苦労してるんだな。


 「アナタ、なんで泣いているの…?」


 まぁ良いわ、そんな訳でメタトロンさんの世界も管理しているワタシは、日頃から考えていたのよ。


 ワタシが結婚できないのは他の人の2倍働いているからだ!!


 「コレ、2つの世界を1つにしたら全部解決なんじゃね…?」


 決して共同作業に憧れちゃった訳じゃないんだからね!!


 そこでワタシはテストを始めたの。


 ちょっとずつ、2つの世界を1つにするテスト。


 世界を合わせると、どうしても大きな次震じしんが起きるの。


 だから、とにかくその世界の生命に被害を出さないように心がけたわ。


 もちろんテストの実行については、この世界で1番高度な文明を持ったニンゲンだけでなく、近い将来ニンゲンに復讐を始めんとするバクテリアの1匹に至るまでキズ1つ負わせてないわ。


 とても物騒な未来が聞こえたがなんとか聞き流す。


 「バ、バクテリアが私達に…」


 1人は聞き流せなかった様だ。


 実行の時、生命の1つずつは、ワタシが魔力を流して守るからケガは負わないの。


 でも、物理的に揺れは起きてしまう。


 か弱い我が子達は心乱されてしまうわ。


 だから命の出入りが無く、更に魔力の干渉が少なかった場所を次震じしんの震源の1つに選んだ。


 それで万事うまくいくはずだったのに、ワタシが寝てる間にアンタ達は何故か大量の命をあの場所に集めたのよ!


 「知るか!!

  全部お前の僻みが原因じゃねえか!!

  つーかさっきから神ってなんだよ!!」


 「アンタのことならなんでも分かるわ。

  前田 一年齢24歳独身。アラ、仲間ね。

  勤務態度は至って真面目、実績も上々。

  でも他人の都合で正当な評価を受けていないわ。

  このままだと定年まで碌な目に遭わないわね。

  アラ、こんなところまでワタシと似てるのね!

  後、妹の雫ちゃんがいるわね。

  本当に申し訳ないことをしたわ。

  あの場では救いきれなかったの。

  でも安心なさい、世界を1つにした後はいくらでも治す方法はあるわ。


 そしてさっきからバクテリアバクテリア…って呟いてるそちらの子はユキムラ…「待ってくれ。」


 「何よ。」


 「アンタの言ってることは全部当たってる。

  そこで聞きたい。

  雫は治せるのか。」


 「治せるわよ。

  それも割と簡単なの。」


 青天の霹靂だ。


 預言者みたいにズバズバいろんなことを言い当てる自称神が雫が治ると言い切った。


 しかし、果たして信じていいのだろうか、モザイク人間の唯一の手がかりを。


 「で、ここから出たいのよね?

  その前にちょっとお願いしたいのよ。」


 声のトーンが変わった。


 「なんだ?」


 「アナタに『架け橋』をお願いしたいのよ。」


 「架け橋?」


 「そう、ワタシももちろんのこと、一つとなった世界をこのまま管理するわ。

  でも私達神って、あなた達が思ってくれるほどには絶対の存在じゃないのよ。

  例えばハジメさん、アナタよ。」


 聞けば、世界というのはバグの様なものが必ず出てくる。


 原因は様々。


 そういったものに気づけば、神は修正を与える。


 確率は収束する、という言葉がある。


 人生山あり谷あり、という言葉がある。


 そういった言葉は、神が不幸な者を救った時に生み出された言葉だという。


 神が言うには、俺は不幸への振れ幅が異常に大きいという。


 「良い方向に管理しようとするのがワタシ達、神。

  悪い方に管理する者もいると言ったら信じるかしら?」


 自称神の話は続く。


 「あー、ニブルヘイムとか、ヘルとか、ロキとか聞いたことあるかしら?」


 神話だったか。


 「神話として伝わっているのが本人だとか、場所、物がそのものという訳じゃな

 いけど、近い存在は実在するのよ。

  それらが私達と敵対しているの。」


 「それらはミッドガルと呼ばれているけれど、

 雫ちゃんを刺したのもその一員なの。」


 ミッドガル…


 モザイク人間の尻尾をやっと掴んだ!!


 まぁ、この自称神の言うことが事実で有れば、だが。


 「世界にはそれらの干渉が必ずあるの。

  ワタシ達は気づけなければ救えない。

  あなたにはその干渉の発見の手助けないし解決の一端をお願いしたいのよ。

  特にアナタはこれまで長いことミッドガルの干渉を受け続けている。

  そういった命は干渉への気づきも多いの。

  もちろんタダじゃないわ。」


 理解の次元を超えた話に混乱してしまう。


 「ワタシの力を与えます。

  それらを使えば物事の解決に大いに役立つはずよ。」


 ペテン師みたいなことを言い始めたな。


 「まだ疑っているのね、いいわ。

  外に出ればきっと分かるから。」


 「出られるのか?」


 「出ることは簡単よ、信じたら『架け橋』、考えてくれるかしら?」


 「分かった。

  信じられたってことはつまり、ミッドガルのことも事実ってことになるだろ?

  なんでも協力するさ。」


 「ありがと。」


 そう言うと女は手錠で繋がれた俺を連れ立ってベッドの柱の赤いボタンを押し込む。


 するとベッドが裏返り、物々しいコックピットが現れた。


 「揺れるから捕まるのよ。」


 俺達が戸惑っていると、急に部屋全体を気持ち悪い重力が包み込む。


 まさか、コイツ、神とか言っときながら、魔法とかじゃなくて物理的に!?


 爆発的なエンジン音とともに、部屋は地面に向かって急浮上を始めた。

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異世界(ムコー)から来た時のPM事情! 早川 ゆういち @hayakawayuuichi

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