第11話 邂逅、逢瀬、出会い
灯りは少しずつ大きくなる。
不思議とここは揺れない。
もしかしたら地震は止まったのかもしれない。
「あの、」
「ありがとう、もう、歩けるから。」
見えない地面があることを足で確かめてからそっと彼女をそこに下ろす。
「また助けてもらっちゃった。」
これまで彼女を1度も助けた覚えはないが、先程ライブ前に話したことだろうか?
話を合わせる。
「いえ、当然ですよ。」
「でも私のところに来てくれたのはハジメ君だけ。みんな逃げちゃった。」
「…」
俺は何も言えなかった。
警察官として最悪の姿だった。
要救助者を見捨てて我先に逃げるなど、言い訳もできない。
何かエリートさんの弁護ができないか、頭を巡らせるが俺の頭では何も出てこない。
頭を使いすぎて名前を呼ばれたことに違和感も感じない。
「あ、ドアがある!」
いや、ドアなんてある訳…
団地のドアだ。
銀色の、ちょっと古臭い上側に磨りガラスがはめ込まれたドアが何もない空間に浮いている。
Kinoを下がらせてドアを引く。
するとなんの手応えもなくすんなりドアは開いた。
その先には生活感満載の和室が広がっていた。
足の踏み場はかろうじてあるが、床上に空のペットボトルだとか、丸まったティッシュだとか、雑誌だとかが転がっている。
流し台には空のカップラーメンの容器が3列タワーになっている。
汚ねぇ…
いや、文句は言えない。
非常事態だ。
なんとかこの部屋の主に助けを求めなければならない。
幸いカップラーメンなんかがあるんだ、部屋の主は地上に出ているはず。
その方法を聞けば良い。
ゆっくりと部屋の中を進む。
和室の先には襖で仕切られた別間があるようだ。
音を立てぬように襖を引く。
そこは寝室のようだ。
今まで気づかなかったが、アラームが鳴り続けている。
アラームに近づくと、そこにはベッドがあり、布団がモゴモゴ蠢いている。
「ウフフ、ウフフフフフ、幸せね、アナタ。」
と、とてもまともではない寝言が聞こえる。
ここを立ち去った方が良いのではないか。
そんな考えが巡る。
とりあえずコイツはヤバそうだ。
ヤバい奴だが頼らねばならない。
意を決して声をかける。
「すいません、警察なんですけど…」
「やめて!!まだ何も悪いことしてないの!!」
急にベッドから跳ね起きた主と鉢合わせる。
「アラ、イケメンが居るわ。」
その顔を見た瞬間。
俺は主に手錠をかけた。
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