第10話 壊れる今まで ③
日本は地震が多いと言う。
しかしこの揺れは、今まで経験したもののどれよりも大きい。
ある者は何かに捕まりながら、ある者は四つん這いになりながら少しずつ警察官の指示に従って避難をしていく。
幸いライブ会場に屋根は無い。
倒れてくるものにさえ注意できれば、空から物は降ってこない。
ガシャン、重量感のある落下音。
そちらを向くと、ステージがあった。
この日のために設置された照明装置。
今だけはただの凶器となっていた。
その下には先ほどまでは歌姫がいた。
しかし今は、一人の少女がいる。
大きな揺れのせいですくみ上がって動けない様子だ。
その近くにエリートさんが突っ立っている。
「オイ!桜井さん!早く助けろって!」
叫ぶがエリートさんはこちらに向かって全力疾走をしてくる。
止まる気配はない。
「アンタ!」
「私には家族があるんだよ!どけ!」
静止も聞かずに誰よりも早く走り去る。
足腰の強いこった。
なんのために鍛えてるんだか。
再び落下音が響く。
今度はステージの足が折れた様で、巨大なステージが右に大きく傾いている。
タナカの言葉が思い出される。
「大事なパーツが抜けてたりして笑っちゃいましたよ。」
最悪だ。
管理官まさか安全性の確認を依頼してないとかないよな?
ただでさえ大きな揺れのせいで動きづらいのに、傾いたステージの上でKinoは立ち上がれない。
ステージがどれだけ持つかも分からない。
行くしかない。
俺はKinoの元へ走り出す。
たどり着いたら抱えて走る!
とりあえず行かなければ!
まだ揺れは止まらない。
本当に地震なのか?
地震というのは、地球上の地面のプレートと、他のプレートの接合部分の摩擦によるものと学校で習った記憶がある。
それが嘘でなければ、摩擦が終われば地震も終わる。
これではまるで摩擦がずっと続いているようではないか。
ステージ上にたどり着いた俺はKinoの元へ駆け寄る。
安堵するのも束の間、Kinoを抱え上げる。
走り出そうとした時、謎の浮遊感に襲われた。
ステージの崩壊だ。
いくつも亀裂が走り、床が無くなる。
落ち着け、ステージの高さは5メートルほどだ。
怪我はするかもしれないが、なんとか耐えて見せる。
そしたらまたKinoを抱えて走ればいい。
もし俺が走れなければ、1人で走ってもらおう。
俺は、、まぁいいや。
しかし、いつまで経っても地面がやってこない。
暗くて辺りが全く見えないが、抱え込んだままの少女の重みはしっかりとある。
これはますます先に落とす訳にはいかないな。
抱え込む力を強める。
雫ごめんな、兄ちゃんはお前を治してやれそうにないよ。
覚悟を決めたが、ゆっくりと俺は着地した。
急に重力が無くなったみたいに。
見えないが、そこに地面はあって、まるで大理石の上を歩くような靴音が鳴る。
遠くにぼんやり灯りが見える。
上を見上げるが、光はない。
どれだけ落ちたのか。
となると灯りに向かっていくしかない。
残念だが、穴の中でのサバイバルは勉強したことはない。
一刻も早く脱出して、震える重みを安心させなければならない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます