完璧な奥山さん

完璧な奥山さん

　職場の先輩の奥山さんは背が高くて筋肉質で、彫りの深い顔立ちで、とにかくかっこいい。

　一目見て私は好きになってしまった。

　外見だけでなくて性格も良くて、優しくて心配りができてユーモアのセンスもあって、明るい人だ。

　服のセンスもお洒落で、特にすごいブランド物を身に着けているわけじゃないのにいつもサマになっていて、何でもお父様がデザイナーだとかで、ああ良い家庭に育ったんだろうなあっていうのが全身から所作から滲み出ていた。

　一流の大学を出てて友達も多くて、仕事もできる。どこから見ても完璧な彼に、凡庸が服を着て歩いているような私が告白をした。

　すると奥山さんは、困ったような顔で、

「ごめんね。僕、好きな人がいるんだ」

　ととても申し訳なさそうに言った。

　脈ナシなのはわかってたから玉砕してもちょっとしか悲しくなかった。……でもやっぱりちょっと悲しかった。しばらく泣いて過ごした。

　涙が少し乾いた頃、風の噂に聞いた。

『奥山さんは完璧に見えるけど、唯一、欠点があるらしいよ』

　ある日、奥山さんが会社の前で女性にカッターナイフで刺された。

　喚き散らしながら警察に連行される彼女を見る奥山さんは、それまでで一番幸せそうな表情をしていた。

　後にわかったことだけど、その女性は彼の恋人で、刃傷沙汰ももうこれで五回目らしかった。

　でも奥山さんの方がぞっこんで、いまだに愛しているらしい。

　私の涙は完全に乾いた。