第3話 魔法の代償と報酬
「イッテェんだけど?
「そう、痛いのはこれからだけどね」
私は踏みつけていた不良の足を解放すると、彼がフランくんにやろうとしたように、そのまま
顎への衝撃は脳を揺らす。
「は? おいおい、教師が暴力なんて振るって良いんですかぁ?」
「事件だ事件だぁ。へっへぇ!! 面白くなってきたぁ!!」
「つーか、女の蹴り一発で伸びるとかザッケェなぁ! ヒハハハハハハハ!!!」
不良の一人を倒したことで、周りの不良たちが湧き上がる。
仲間がやられたっていうのに薄情な奴らだな。
「これは正当防衛だから問題ないよ。どう見ても悪いのはそっちでしょう?」
「そっかそっか。それじゃあしょうがねぇなぁ。んじゃ、俺たちも怖〜いお姉さんから身を守る為にせいとーぼーえいしちゃいまーす!」
ゲラゲラゲラゲラ、と不良たちが汚い笑い声をあげる。
数は一、ニ、三……十人か。
ちょっと多いけど、問題はないね。
愛すべき子供たちが背にいる。
それだけで私は誰にも負けない最強になれるんだから。
「かかっておいで。魔法使いが相手をしてあげる」
「いつまで夢見る少女のつもりかなぁ!!」
不良の一人が殴りかかってくる。
思ったより喧嘩慣れしてるのか、その速度は速い。
だけど、
「今の私には止まって見えるよ」
視力感度三〇〇〇倍。
ボクサーの動体視力は一般人のおよそ二〜三倍と言われている。
ボクサーでそれなのだ。
三〇〇〇倍という数値が
とはいえ、上がっているのは視力だけ。
相手の動きが止まって見えても、こっちが早く動ける訳じゃない。
止まったように遅い時間の中で、止まったように遅い動きで動けるだけだ。
感度三〇〇〇倍にしたのが視力だけならね。
「筋肉感度三〇〇〇倍」
筋肉は脳から放たれる生体電流によって動いている。
なら、筋肉の受信感度を上げてやれば、それだけで通常の三〇〇〇倍の速度で動くことができる。
身体に無理を強いてる訳だから、後の反動が怖いけどね。
「だから、速攻でカタをつけさせてもらうよ」
私は止まったように遅い時の中で不良その一の拳をかわして、その頬に拳を放つ。
私に殴られた彼は、私にとっては三〇〇〇分の一の速度でゆっくりと吹き飛び始める。
「時間ないから次行こうか」
不良その二、三、四、五、六と、次々に蹴りや拳を叩き込んでいく。
一発程度で倒せるのか? と思ったそこの君!
光の速度で蹴られたことはあるか〜い? ってやつだよ。
光速でこそないにしても、彼らにとっては常人の三〇〇〇倍の速度で殴られているのだ。
それぞれ一発ずつでお釣りがくるというものだ。
そして、最後の一人を殴ろう。
そう、拳を放つ直前で身体に悲鳴が走る。
「——ッッカハッ!!」
声にならない痛みが全身を駆け巡る。
クソ! ここで活動限界か!!
痛みにより魔法が切れて、周囲の時間が再び動き出す。
「ぶべらばぁ!!?」
「ぶげら!!?」
「あじゃぱぁ!?」
「ちんぎすはぁん!!?」
汚い悲鳴をあげて九人の不良が車にでも
痛みを
二人にとったら急に不良たちが吹き飛んでいったんだから当然と言えば当然か。
「て、テメェ何しやがった!?」
最後に残った一人が辺りを見渡して
「言ったでしょ。魔法使いだって」
って強がってみるけど、もう喧嘩ができるような元気はないんだよね。
全身が酷い筋肉痛で、ゆっくりと身体を動かすのがやっと。
それでも全身を突き刺すような痛みが走るけどね。
「どうする? まだやるの?」
できれば、これで退いて欲しい。
もう私に戦える力は残されてない。
襲いかかってこられたら終わりだ。
「やるに決まってんだろ。落とし前つけてやらァ!!!」
「落とし前って……、ヤクザじゃあるまいし……」
呆れた眼差しを向ける私に不良が拳を振りかざす。
当然、反撃するだけの力は私には残されていない。
まぁ、正攻法ならって話なんだけどね。
「性感度三〇〇〇倍」
不良の性感度を三〇〇〇倍にまで引き上げた上で、最後の力を振り絞って不良の拳を受け流す。
その接触だけで、不良は絶頂を迎えた。
「あふんッ!」
不良は地面に倒れて、その衝撃でまたもや絶頂する。
ビクン、ビクン、と跳ねる度にその衝撃で絶頂するという無限連鎖に陥っている
そんな汚いものを子供たちに見せる訳にはいかないので、目に触れないように自分の身体で隠すようにして振り返る。
「さぁ、お家へ帰りましょうか」
◇
後日、私は教頭と学年主任である
「あのね佐々木先生。正当防衛と言い張るにはやり過ぎです。不良たちは皆何処かの骨が折れていたみたいですよ?」
「う〜ん。ヤンチャは卒業したと思ってたんだけどねぇ。まぁ、やっちゃったものは仕方ないよね」
「教頭!! そうやって甘やかすとまたやらかしますよ! 彼女の為にもしっかり言い聞かせておきませんと! 逮捕されてからでは遅いのですよ」
「うっせぇハゲだな」
「ぬぁぁんですってぇ!!? どぅぁれがハゲちゃびんどぅえ◎△$♪×¥●&%#?!」
ボソッと呟いた一言に敏感に反応した
ホントハゲに敏感だなこのハゲ。
っていうか怒った顔怖すぎだろ。
「まぁまぁ、落ち着きなさい田中先生。化け物のような顔になっているからね」
「何気に酷い言い草ですね教頭」
私は教頭の容赦ない発言に苦笑いを浮かべる。
教頭の言葉に幾分か冷静さを取り戻したのか、
いや、だから怖いって。
「ま、田中先生の言葉も
「はい。ご迷惑をおかけしてすいませんでした」
教頭の言う通り、今回はなんとかお咎めなしで済んだけれど、次はどうなるか分からない。
学校から逮捕者を出すなんて、学校に迷惑をかけるのは当然として、子供たちへの影響も計り知れない。
事情が事情とはいえ、成長期の大事な時期にこれまで信頼していた大人が突然いなくなるというのは、大きな心理的喪失を生む。
子供たちを愛するものとして、彼らを悲しませる真似だけはしたくない。
それだけは、私の
それでも、また同じように子供たちが危ない目に遭ってたら、同じように助けるんだけど、次はもう少し穏便な対応を考えないとね。
「うん、でもね。僕はあえてこう言わせてもらうよ」
——よくやった。大事な子供たちを護ってくれてありがとう。
「…………!! はい!」
◇
そして、日常へ舞い戻った私は、放課後のグラウンドで子供たちがサッカーをする様子を教室の窓から眺めていた。
その中には私の推しであるフランくんの姿もあった。
「ぐ、ぐへへ。フランくんかわいいよフランくん」
だらしない表情をしている自覚はあるし、ボタボタと
けれど、今は教室に誰もおらず、グラウンドの子供たちもこちらを気にする様子もないので、私も気にする必要はない。
ああ、かわいい。
あの笑顔だけで全てが許される。
かわいいは正義である。
「せんせーい!!」
顔を溶かしてだらしない表情を浮かべていた顔を一瞬で元のキリッとした表情へ戻す。
感度三〇〇〇倍の魔法を使えばこの程度お茶の子さいさいだ!
筋肉痛で身体が超痛いけど。
そんな痛みも感じさせぬよう、笑顔を浮かべてフランくんへ返事を返す。
「なーにー?」
私が今いるのは校舎の三階だ。
だからよく聞こえるように大きな声で返事をすると、フランくんは屈託のない無邪気な笑みを浮かべる。
「一緒に遊ぼ!!」
その笑顔に一撃でノックアウトされた私の鼻から噴水が如く鮮血が舞い散る。
だが、倒れる訳にはいかぬ!
私にはフランくんと一緒に遊ぶという使命が残されているのだ!!
視力感度三〇〇〇倍、筋肉感度三〇〇〇倍を併用した超高速移動でグラウンドまで駆け降りて、鼻血を拭き、
全身には高速移動を行った反動で凄まじい筋肉痛が襲い掛かるが、フランくんの笑顔の前には無力だ。
早くフランくんと遊びたい。
その一心でグラウンドへ続く扉を開けて外に出る。
すると、グラウンドに出てきた私の不意をつくようにフランくんが抱きついてきた。
「えへへ! 先生だーいすき!!」
後から思えば、それは彼なりの感謝の気持ちだったのかもしれない。
だけど、抱きついてきた彼が浮かべたとびっきり輝くような笑みは、私には眩しすぎた。
空には再び、鮮血が舞い散った。
御歳30歳処女、魔法使い始めました!〜いや、感度3000倍にする魔法ってエロゲーじゃねぇか!!〜 ラウ @wako-bird
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