112.私だけのハーレム

「きゃあ! ちょ、ちょっとそんな下から風魔法使わないでよ!!」


(ぐへへへへっ、見えた、見えちゃったぞ〜! 少女の白いパンツっ!!)


クレストは魔法で巻き上げられたスカートの中からのぞいた生徒の純白パンツをデレデレと見つめた。


平和を取り戻したローシェル王国。

クレストは再びエルシオン学園の魔法講師として教壇に立ち、いつも通り魔道館で生徒達に魔法を教えていた。



「先生っ! 今、パンツ見たでしょ!?」


生徒が真っ赤な顔をしながら怒って言う。クレストが答える。


「何を言っているんだ。私は魔法講師。私の目には魔法しか映らない。君達の汗でぴったりくっついたピチピチの服や胸の谷間、真っ白い純白のパンツなんて私の目には決して映らない」


「せ、先生っ!!!!」


パンツを見られた生徒が顔を赤くして怒る。クレストが思う。



(スローライフもいいけど、こうやって適当に魔法教えながらいたいけな少女に囲まれたり、マリア先生の谷間眺めたり、程よく力抜いて労働しながら暮らすのも悪くないかもな……、ああ、でもそれじゃ『ハーレム』ではないなあ、ハーレムはどうしようかな……)




「おい、聞いているのか?」


「うるさいぞ! とっとと練習に行け……、うげっ? レオン!?」



いつの間にかクレスト隣にやって来たレオン。パンツを見られた女生徒だと思っていたクレストは思わず叫んだ。



「うげ、とはなんだ。失礼だな」


「いや、お前、いつからここにいるんだ?」


「さっきからだ」


「まったく……」


「まったくじゃない。どうせまたを考えていたんだろ?」


「うぐっ……、で、何か用か?」


レオンがクレストに言う。



「今日から新しく編入生が来るんでよろしくな」


「編入生?」


クレストが首を傾げる。レオンが言う。



「ああ、そうだ。……って、もう来たのか。ちょうど良かった。入って」


レオンはそう廊下の方に声を掛け、その編入生を魔道館の中へと入れる。その編入生、その少女を見てクレストは驚いて言った。



「シェ、シェリルぅ!?」


「クレスト様ぁ!!!」


そう言ってシェリルは皆の前で思い切りクレストに抱き着いた。

混乱するクレスト。シェリルはフレデリク王国の国王の娘であり、その昔、幼いクレストと結婚の約束をしたお姫様。先の訪問では変態貴族のアルベルトにストーカーされていたところをクレストに助けられており、そのシェリルがエルシオン学園の制服を着て抱き着いている。レオンが言う。



「フレデリク国王に頼まれてな。どうしてもこの子がうちの学園に入りたいと。ローシェル王からも頼まれたんで編入させた。知り合いだったのか?」


クレストが慌てて言う。


「いやいや、お前、彼女、シェリル姫だぞ!!」



「シェリル、姫? ……ああ、そうか。って、あのシェリルか!!」


レオンは昔訪れたフレデリク王国の恥ずかしがり屋の幼い少女を思い出して言った。クレストが言う。



「いや、お前、今まで気付かないって、どんだけ鈍感なんだよ!!」


レオンが言う。


「鈍感って、これだけ姿かたちが変わったら分かるもんか。同じなのは髪の色ぐらいだぞ」


「はあ、お前って奴は……」


クレストが溜息をついて首を振る。

そして騒ぎを聞いて集まって来るクレストの生徒達。フローラルが怒りながら言う。



「せ、先生。どなたですか、この女性。どうして先生に抱き着いているんですか!!」


「あ、ああ、そうだ。は、離れろ、シェリル」


そう言ってクレストから離されたシェリルは、笑顔で他の生徒達に挨拶をした。



「みなさん、初めまして! 私はシェリル。南方大陸のフレデリクから来ました!!」


レオンが言う。


「彼女はフレデリク国王のご息女、だ。みんなよろしくな」



『姫』と言う言葉に騒めく生徒達。

レイカがフローラルに小声で言う。


「ちょっと、何あれ? 可愛くて愛想よくて、スタイルもいい姫様だよ!! 勝てないよ、あんなのに!!」


「う、うん、先生、南方大陸行って、また女の子ひっかけて来たのかな……」


フローラルも悲しそうな顔で答える。

女生徒達の冷たい視線に気づき狼狽えるクレスト。そんなことに全く気付かないレオンが笑顔でクレストに言う。



「じゃあな、後は頼むぞ」


「お、おい……」


レオンはそのまま立ち去る。

生徒達の冷たい視線を受けながらクレストが何か言おうとした時、シェリルが前に出て皆に言った。



「みなさ〜ん、実は私、クレスト様のフィアンセなんです!」


「ぐはっ!!」



「フィ、フィアンセえええええ!?」


女生徒達から驚きの声が上がる。フェリルは両手を顔に当てて赤くして言う。


国王ちち公認の仲でして、ローシェルには魔法訓練と、その……、花嫁修業に来ました!」


「ぶはっ!!!???」



「は、花嫁、修行おおおおお!?」


女生徒達の声が大きくなる。そんな彼女らにフェリルがとどめの一言を放った。



「実はもう、私、ハダカも見られていまして……」


「どひゃあああ!!!!????」



「ハ、ハダカを見たあああ!!!???」


今度は女生徒達から悲鳴に似た声が上がる。クレストは変態アルベルトの部屋に囚われたシェリルの裸体画が掛けてあったことを思い出す。慌てて否定する。



「い、いや、ハダカって、あれは裸体画であって……」


「ええっ、先生、の裸体画を描いたんですか!!??」


「はっ?」



「信じられない……、あんな少女の裸を見て、変態……」


女生徒達から更に氷のような冷たい視線が送られる。クレストが言う。


「ち、違う!! 俺はハダカなんて……」



カーーン、カーーーーーーン!!!


そんなやり取りをしている内に、講義の終わりを告げる鐘が鳴った。助かったとばかりに荷物をまとめ魔道館を出ようとするクレストに、入口の方から声が響いた。



「クレストぉ!!!」

「クレ様ぁ!!!」


「げっ、あいつら、また来た!!」


魔道館の入り口から、用務員服を着たグラティアとアナシスタが笑顔で走って来る。

二人との戦いが終わった後、魔界にも帰りたがらない彼女らをレオンの好意で学校の用務員として雇って貰っていた。


実際のところは地上に来て街を破壊したくさんの人を殺したグラディアは、レオンの手によって厳しい処分が下されるところであった。しかし彼女の悪行は魔賢者スタリオンによる洗脳の一種だと判明し、今後悪行を行わないと誓わせた上で地上に留まることをレオンは許可した。

ただある程度予想はしていたが、学園に来たふたりは『クレスト専属の用務員』と化していた。



「グ、グラディア、アナシスタって、お、お前ら、またその格好!!」


ふたりの姉妹は学園から支給された用務員服を、胸や足が大きく露出するように着ていた。

マリア並に外された胸のボタン。小ぶりでも形のいいグラディアの胸からは見事な谷間が見えており、小さな胸のアナシスタはその全貌が見えそうで見えない際どさをを出している。スカートもほとんどお尻が見えそうなほど短い。

ふたりはクレストに抱き着きながら甘い声で言う。



「クレ様ぁ、グラちゃんが全部お掃除しますからね」

「クレストぉ、お腹減った……」


もはや用務員なのだか何だか分からない存在であった。さらに悪化する冷たい視線に耐え切れなくなったクレストが荷物を抱えて走り出す。



「じゃ、じゃあな! また明日!!」


「あ、先生っ!!」

「クレスト様あああ!!」

「クレ様あぁ!!」

「お腹空いたあぁぁ」


クレストは追いすがる女生徒達を振り切り学園の外に逃げ出した。





「ふうっ」


クレストはもう誰も追いかけて来ないことを確認すると、ひとりゆっくりと家の方へと歩き出した。そして歩きながら妄想し始める。



(まあ、色々あったが俺の『ハーレムwithスローライフ計画』も順調に進んでいるな。女生徒あいつらも今のうちにしっかりと手懐けて置いて卒業と共にハーレムに勧誘するかな。ぐふふふっ。まだまだガキだが体だけは一人前だしな。ぐへへへへっ)


クレストは歩きながら声を掛けられそうな女生徒の顔を思い出す。



(それから『魔族ハーレム』。これもありだな。アーニャはその筆頭だが、リリムとかサキュバスの、ええっとランジェリカとかサティアとかえっちな奴もいたな、確か。ぐふふふっ)


クレストはハーレムに魔族を加えることも考えにやにやと笑う。



(そしてやっぱりアマゾネスも外せないなあ。とにかく男に尽くすあの姿勢。ああ、まさにハーレム、パラダイス!! 強いし可愛いし、何て最高な種族なんだ!! 昼は寝てるだけでスローライフを満喫できるし、そして夜はハードライフ? げへへへへっ)


クレストとすれ違う人がそのだらしない顔を見て逃げるように離れて行く。そしてクレストの妄想は最も大事な妄想へと入る。



(ああ、そしてハーレムの最終兵器、生きる凶器の『マリア先生』!! ああ、何て甘美な響き。なんて艶めかしいお名前。私のハーレムに君臨する女王マリア。彼女がいなければハーレムなど完成しない。ああ、あの素晴らしき谷間。長くすらっとした足。そしてあの笑顔。もうどれをとっても最高の女性、ああ、マリア先生、マリア先生……)



「マリア先生えええええ!!!!!」


「ひゃい!! クレスト先生」


突如叫んだクレストに、マリアが答える。クレストが言う。



「ああ、マリア先生。こんにち……、わあああ!!!!」


「ひゃああ!!!」


突然叫ぶクレストに驚くマリア。クレストが驚いた顔で言う。



「ど、どうしてマリア先生がここに……!?」


マリアが答える。


「ど、どうしてって、学園からずっと……」


「へっ?」


「一緒に帰ろうとずっとお声を掛けていたんですが、クレスト先生全然お気づきにならなくて……」


「うぐっ!?」


クレストは自分の妄想へそれほど深く入り込んでいたことに驚く。正直全く気付かなかった。マリアが尋ねる。



「で、先程私の名前を大声で呼ばれていましたが、何かご用でしたか?」


「え、ええっと、あの……」


まさかハーレムに女王として君臨し、クレストの望むえっちな姿をさせていたとは言えない。クレストが汗を流しながら答える。



「い、いや、その、生徒達の、今後の教育方針をですね……」


それを聞いたマリアが少しつまらなそうな顔をして小声で言う。


「なーんだ、私のことじゃないんだ……」


「はい?」



「い、いえ、何でもないです」


マリアが苦笑いして答える。クレストは改めてマリアを見つめる。


いつも通り、いやそれ以上にボタンが外されたシャツ。マリアの最強凶器の巨乳が半分以上露出している。スカートも短く色っぽい足が惜しげもなく出されている。

普通の学園ならすぐに指導が入るレベルだが、鈍感なレオンは一度たりともそんな中をした事はない。クレストは改めてレオンに感謝をした。マリアが頬を赤らめてクレストに近付き言う。



「ねえ、クレスト先生」


「は、はい……」


マリアが言う。



「きょ、今日、シャツのボタンを、わざとあまり掛けないで来たの……」


「へっ?」


掛けない? い、いや、いつもと何の変りもないんだが。と言うか、この人、それに気付いていないのか?)


クレストは目の前で顔を赤らめるマリアを見つめた。マリアはクレストからの視線が自分と胸の谷間に向けられていることを感じそして小さな声で言う。



「ここのボタン、これ外しちゃうと、中身、全部見えちゃうんです……」


「うぎょぎゃはあへっ!!!???」


クレストの思考回路が止まった。

正確に言えば回路がショートした。それほどまでに強烈なマリアの口撃であった。マリアが甘い声で言う。



「外してみます、先生……?」


ガタガタと震えるクレスト。全身から汗を流し、そして動かない頭で必死に考え、その一言を絞り出した。



「い、いいんですか……、外しちゃって……?」


マリアが顔を赤くして軽く頷く。そしてクレストを見つめて言った。



「クレスト先生のハーレム、私、いいですよ……」


「え、ええっ、ほ、本当ですかああああ!?」


クレストが満面の笑みを浮かべて喜ぶ。そんなクレストにマリアが言った。



「でも……」


「で、でも……?」


マリアが言う。



「『私だけのハーレム』。私ひとりがクレスト先生にご奉仕するハーレム。それならいいですよ!!」



「えっ?」


クレストが思う。



(さ、最高の女性、マリア先生のハーレム。た、たったひとりでもそれは最高のハーレムだろう。あの素晴らしい体を毎晩……、ぐふふふっ。で、でも、そうすると体だけは一人前の女生徒ハーレムや、魔族ハーレム、アマゾネスハーレムの夢が……、う、ううっ……)


クレストが苦悩の表情を浮かべる。マリアはそんなクレストの手を取って言った。



「さあ、先生。この胸のボタンを外せば契約終了~。どうぞ、遠慮なく……」


そう言ってマリアはクレストの手を自分のシャツの胸のボタンに近付ける。



「ちょ、ちょっと待ってください!!!」


クレストはその手を振り切ってマリアから離れる。


「クレスト先生……?」


クレストが走りながら言う。



「ちょ、ちょっと考えさせてくださーーーーーいっ!!!!!」


「あっ、ま、待ってくださいよー、クレスト先生っ!!!!」


マリアは笑顔で逃げるクレストを追いかけた。

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沈黙の魔導士 ~引退後は年金でスローライフ!!なんて出来なかったので学園で女生徒に囲まれたり、ゲス弟子ぶっ飛ばしたりして楽しく過ごします~ サイトウ純蒼 @junso32

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