第3話 シによって

≪孝太郎の詩≫


<舟のありか>


舟のありか それを知るのは 灯り

しかし ここには そんなものはない

ただただ暗く ただただ臭う

朝から零れる 光は もったいないほど

この空き家に降り注ぎ

隣の芝生を青くする


<漂流>


自分の 不健康な肌の白さを襲うのは

ヒレを震わす 海の獣

ここは 一つの島

出られない 不落の塔

ベッドの埃は 波しぶきであろうか

使われない椅子は

死体となったクジラであろうか

自分に降りかかる 殴打は

突如のタイフーンであろうか

横にいる人魚は

荒れることのない穏やかな波

浅瀬のウミウシを喜ばす

健気で明るい水 そのもの


<漂着>


億劫な水の流れ

森の奥から海の彼方まで

流れつく

日々の名残は 洗い流される


退屈な時の流れ

机とイスから人と縄へ

行きつく

日々の汚れは 清められる


無限な快楽の流れ

母の腹から自分の尻まで

通りいく

日々の後悔は 改められる


<なった>


自分の指が おしゃぶりになった

自分の髪が 筆になった

自分の目が 排泄器官になった

自分の口が 快楽の入り口になった

自分のうなじが アロマになった

自分の腋が バターになった

自分の毛穴が 型になった

自分の汗が 人の汗になった

自分の爪が 固いパンになった

自分の足が 食卓になった

自分の腹が 母になった

自分の手の平が ホテルになった

自分のくるぶしが 葡萄酒になった

自分の耳が ガムになった

自分の鼻が ペットになった

自分の穴が トンネルになった

自分の笑顔が 写真になった


≪緑の詩≫


<クマさん いじわる>


クマさんの手が もぞもぞと アタシの服をいじめる

クマさんの声が ひそひそと アタシの耳をいじめる

クマさんの足が ごそごそと アタシの口をいじめる


<くまさん こわい>


どうして そんなに こわいかお をするの

あたし なにも わるいこと してない

かわいい のが わるいこと

なにを いっているのか わからない

くまさん こわい

くまさん こわい









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アイ クル シ @Hashiya-Kare

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