第2話 クルによって
※ 二人の行方が不明となった。警察は百人態勢で捜査を開始し、ニュースや新聞でも瞬く間に情報は拡散された。学校側は詳しい発言を避けた。
≪六日目≫
<にげ>
逃げては いかんだろうか
逃げては キミたちが 私を良しとしないだろうか
文字を書くことに 重みを感じる
何故か キミたちの命の重みか
この重みが 消えたとき
それは すなわち・・・
※ 二人は遺体となって発見された。それも、学校のすぐ近くの空き家で、二人とも
首を強く締められて死んでいたのだ。容疑者は、学校に長年勤務する事務員だった。気さくな人で、仕事に熱心な人として周りの人からの信頼も厚かった。その衝撃たるや、想像に難くない。気分を悪くした生徒は、学校へ来ることはなく、転校を余儀なくされた者もいた。そのせいか、ヒロトのクラスも、随分と錆びれた様子であった。交換詩は、二人それぞれの机の中に、時間をおいて出したり入れたりしている。少しでも、交換している感覚を味わいたいのだ。ヒロトは、傍から見れば、気でもおかしくなったのではないかと疑われるほどに余裕がなかった。
≪七日目≫
<おもみ>
消えた 重みが 命の重みが
ペンが宙に舞い 楽し気に踊る
ぶん殴りたくなる そんな陽気な様を見せられたら
でも ペンは そんなこと 知らない
知ろうとしない
<あせり>
私が キミたちを殺してしまったのか
もしかすると
そんな気がしてきた
そんな気にさせてくれ
でないと
私は 私は この行き場のない何かを
どこへ放り投げればよいのだ
<ねがい>
ああ 生きていてくれ (死んでいるのに)
ああ 笑っていてくれ (苦しいのに)
ああ 私の手をとってくれ (そんなのないのに)
<ほんと>
ほんと は 首を絞められて 死んだ
ほんと は 指が食い込んで 苦しんだ
ほんと は 涎が目に落ちて 泣いた
ほんと は 毛が口に入って むせた
ほんと は 汗が毛穴に馴染んで 呼んだ
何を 助けを
誰を 大人を
襲ったのは 大人
キミたちは 子ども
<らく>
ユータナジュースを飲めばよかったかな
最近 若者に流行ってる
苦しまずに死ねるジュース
深夜の通販番組でよく流れている あれ
三人でいっせいのせーで飲めば
こんなにも苦しまずにすんだんじゃないかって・・・
キミたちに失礼か
<おれ>
ペンが 折れたよ
トラックによって
空が 赤いよ
血によって
私が 死んだよ
・・・
※ この日、いくつかの詩を残してヒロトは自ら命を絶った。
行方は分からない。この出来事は、未解決疾走事件として後世に伝えられるようになる。時がいくら経ってもその死因は、定かになることはなかった。
ヒロトの家族は、学校から遠く離れたどこかへと転居した。孝太郎と緑の家族も、同じようにして学校から遠く離れたどこかへと住処を移していた。
ヒロトがいなくなった翌日、ヒロト宅へ、一つの書類が届けられた。
届けた者も分からない。
茶色く包装されたそれには、右下の狭いところに赤い文字で小さく、孝太郎・緑と書かれていた。いざ、開いてみれば・・・
それは詩集であった。「交換詩」と赤く大きく書かれたシンプルな表紙。
ページを捲れば、そこには若々しくもおどろおどろしい内容の詩が集まっていた。
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