アイ クル シ
@Hashiya-Kare
第1話 アイによって
≪一日目≫
<初心>
何事も 最初は緊張するものである
サッカーのリフティングや 卓球のサーブなんかは
手足がガタガタ震えて 全身が渇いていくのを感じるんだ
私は この初心でもって 詩を書くこととする
現に私は 手をカタカタと震わせながら 文字を書いている
今どき スマフォがあるのだから それでよいのに
お堅い誰かさんが それを持っていないせいで
こんな目に遭わされているのだ
最後があるのか分からんが
孝太郎 お前さんは全うしてくれたまえよ
<初めてを見て>
新鮮なものであれよ ヒロトさん
常に俺を楽しませるような初々しさを持っていてくれ
幾度も言葉を重ねよう お前さん
これらは全て見られているのだから
遠慮してはバレてしまうからね
思ったことは脳から腕から手からペンから紙から脳から・・・
と
繰り返される
流れを途絶えさせてはいけない
石の上に草舟を置いてはいけない
息を吹きかけてでも
手で仰いででも
その舟を流れに入れてやらねばならない
俺は草舟であろうか それとも・・・
<クマさん こんにちは>
コンコンとドアを叩く音 ドアを開けば
そこには仏頂面のお堅いクマさんが立っていました
目を合わせようとしても 合わせてくれません
魚のように泳いでしまいます
キレイな瞳をしているのにもったいない
クスクスとアタシは笑って クマさんの手を取り
家の中へ 入りました
≪二日目≫
<先生>
担任は 歳のいった爺さん先生であり理科の先生
英語は プリントの端を舐めてから配るおじさん先生
国語は 眼鏡の紐がギラつくおばちゃん先生
社会は 早口で活舌のよいお姉さん先生
体育は サングラスで下駄のスキンヘッドな先生
美術は 大きなホクロが頬にあるおばさん先生
とにかく何かが気になってきた
見たものが 視界に入ったものが気になるんだ
何とか授業に集中するので手一杯だ
<臭い>
身に覚えのない痛み
身に覚えのない空
これは夕方の景色
普段は ここにいない
誰かに手を引っ張られたんだ
それは自分の意思ではない
まるで幽霊のような手つきだった・・・
しかし
それは毛むくじゃらの手だった
未確認生物のような不気味さ
ここに元からいたであろう
住み着いていたであろう
醜悪な怪物
階段を上るのですらも
給食を配るのでさえも
文字を書いているときでも
全てが
その不気味さに包まれているようで
とても生きている心地がしない
生きているのは
この強烈な臭いだけ
かつての臭さは何処へ
<クマさん また来た>
クマさん また来た
脂っこい笑顔で
二人の男女を迎える
「ここには 誰もいないし 静かだし 何より 空気がいい」
クマさんは 視線を眼前に落としながら
寂しいのか楽しいのか 感情の入り組んだ音色で語る
「ぼくの 寂しさを晴らしてくれるのは きみたちだけなんだ」
まるでお菓子をせびるような目つきと声の震え
ああ また 知らない臭いが・・・
≪三日目≫
<ふるえ>
孝太郎・・・
緑・・・
キミたちが学校を休んだのは
何か理由があるのか
これは私たち三人だけが楽しめる
唯一の方法ではないか
直接話すことも しなくていいんだぞ
だから この交換詩に
たんと 書きなさいな
※ 孝太郎と緑が、この日、書くことはなかった。学校にも各自の家にも、いなかったそうで、大きな騒ぎとなった。
≪四日目≫
<おそれ>
紙はどうした
文字はどうした
ペンはどうした
詩はどうした
孝太郎 どうした
緑 どうした
何故・・・何故・・・
このだだっぴろい白さを
少しずつ埋めていく楽しさを
教えてくれたのは キミたちだったろう
自由なのだろう
詩というのは
では 何故 書かない
何かあるなら 書けばいい
さあ 書いてくれ
私は 寂しくて
この白さを 醜く 灰色に染めてしまうかもしれない
涙で
※ この日も交換詩には、ヒロトの詩のみが書かれていた。二人の肉を感じる術は何処へ・・・
≪五日目≫
<おびえ>
うざったい公園のライトの下で
薄汚れたベンチに座って 文字を書く
つまらない
何て つまらないのだ
こんなにも一人が寂しく 恐ろしく
離れたいものであったなんて
キミたちは それぞれ 違うところにいるのか
それとも
同じ場所にいるのか
私が嫌になったのか
そうでなければいいな
どこかへ家出して そのうち帰ってくるといった
少し前の不良物語のように
その通りに 帰ってきてほしいな
だって まだ 仲良くなったばかりじゃないか
こんなさらっとしたお別れは 嫌だな
もう一度 会いたいな
頼む
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