第4話 思い出したように滅ぶ魔王


 勇者の生み出した新たな秩序の一つ。ガンマ線バーストの放たれた方角。その40億光年の彼方には惑星が存在した。

 

 ここに、宇宙最大の魔王がいた。魔王の名はクサイ。この惑星における魔王は無謬の存在。魔王クサイがイエスだと言えば、配下の人間がそうなるように法を捻じ曲げ、海に通り道を作れと言われれば、道が建設された。魔王クサイが気に入ったならば、それは彼のものであり、魔王クサイに否定されたなら存在ごと抹消される。自分よりフォロワーの多い俳優や芸能人、アイティーストの活動に圧力をかけ、ゲームだの漫画だのは精神の麻薬だと言って禁止した。特に、最近では黄色い熊のぬいぐるみが嫌いであり、現実世界からも電脳世界からもその存在を消し去ろうと躍起であった。


 彼は、もともと魔王ではなかった。


 民の対立を巧みに利用し、反感の目が自分に向かぬように偽りの争いを起こし、そして、自分に反対する者を静かに葬っていった。彼の、悪逆あくぎゃく非道ひどうに世界は気づいていたが、現金で頬をはたかれ多くの人が見て見ぬふりをしていた。


 魔王を倒すチャンスはいくらでもあったのだ。しかし、魔王は生まれてしまった。


 彼はついに世界で最高の戦力を整え、全てを自分のために使い始めた。七つの大陸は瞬く間に制圧され、惑星は彼のものになり、人々の血中にナノマシンを注入して、不幸さえも感じない体に改造した。


 そんな彼の生誕を祝うその日、魔王クサイを称える生誕祭が行われていた。


「我は宇宙に冠たる大王である」


 彼はこの場所で銀河帝国の樹立を宣言し、自身が宇宙を統べる最強の王であると名乗りだした。そして、新たな銀河皇帝として戴冠式が執り行われる。


 その、戴冠式が終わり夜の祝祭のときであった。


「空が白く光っている!」


 すっかり陽が落ち、黄昏の空もなくなっていた時刻。急に空が青白くぼんやりと光り始めたのだ。


「これは、宇宙が皇帝を祝福しているのだ!」


 臣下の者たちは謎の発光現象に対してこのようなことを言い始めた。


 実際、この発光現象は宇宙からの祝福ではない。ガンマ線よりも伝搬速度の速いニュートリノが先にやってきて大気に激突して光輝く災いの予兆であった。


 それを知らぬ魔王クサイはこの現象を本当に自分の起こした奇跡だと勘違いして喜び始めた。自分の力が本当に何かを起こしたと勘違いした。


 だから、クサイは宮殿のバルコニー出て空を見上げたのだった。


 その時、風が吹き魔王クサイの髪の毛がぱさぱさと散った。その直後にごく短い一瞬の閃光。


 光は魔王クサイに直撃したように見えた。ニュートリノに遅れてガンマ線の本体がやって来たのである。


 脳天から聖なるガンマ線を受けた魔王は一瞬で石畳のシミとなり、そして石畳も瞬時に溶解し、それを支える基礎も、城もすべて溶解した後すぐに蒸発。夜の祝祭に訪れていた魔王の部下たちも、強大なビームの放射により痛みすらも感じないうちに蒸発したのである。


 放たれたビームは40億光年も離れた銀河であるが、そんな彼方より飛来したガンマ線バーストの直撃を受けた惑星「地球」はコアも含めてまもなく蒸発してしまった。


 こうして魔王クサイは滅んだ。そして、独裁者の統治に甘んじて抗おうとしなかった民にも神は罰を与えた。



====あとがき====


 最後までご愛読いただきありがとうございます。初めての短編となりますが楽しめていただけましたでしょうか? もしよろしければ率直なご意見や感想などいただけますと幸いです。さらに、この下の段の評価ボタンを3回くらい連打していただけるとなお嬉しい限りです。


 今後とも、遥海策人(はるみさくと)をよろしくお願いいたします。



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神様のありったけを勇者に込めて魔王討伐【短編】 遥海 策人(はるみ さくと) @harumi_sakuto

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