第3話 消える世界
勇者は再び地に降り立った。完全なる神の力をフル装備した世界の理さえも変える最強の勇者として復活した。
「試しに神の魔法を使ってみよう」
目的はもちろん魔王を倒すこと。そのための練習ですら抜かる必要はない。
「最初はやはりファイヤーボールだな」
他にもいくつか技はあるが、簡単で強力なこの魔法を素早く、咄嗟に発動できるようにならねば魔王は倒せない。魔王は見かけによらずちょこちょこと小刻みに反復横跳びして攻撃を回避する身軽なヤツである。そんな存在に勝つにはやはり無詠唱ができるまで特訓がいるだろう。
神の御業では魔王を倒すイメージこそが重要である。強いイメージの方がより強力な魔法が発動する。
可能なら魔王の脳天から聖なる光を浴びせ、ふさふさした髪を禿げ散らかしてから浄化させ、忌まわしい城と一緒に忠義に厚い奴らの部下も巻き添えにして木っ端みじんに吹き飛ばしてやりたい。そんな冗談めいたイメージをして勇者は呪文を唱えた。
「神技解放、民を虐げ悪逆の限りを尽くす魔王を滅ぼせ、ファイヤーボール!」
――かつて、創造の神は「光あれ」の一言で宇宙をはじめた
神の持つ力はそれくらいに強大だった。宇宙創造。何もない無からエネルギーを生み出し、やがて光を物体に変え、物体が集まりやがて無数の星が輝く天球ができた。この天球にはそれぞれの惑星がありそこに住む生物が物語を創っている。その広大な宇宙の秩序を勇者は知らなかった。
一瞬の閃光だった。
この一瞬で勇者が思い出したのは神話である。勇者は世界が誕生したその瞬間を目の当たりにした。この超強力な光によって草木は枯れ、やがて大地も溶けて爆圧により岩石が津波のように砕け散り、惑星を半周する。半周で済んだ理由はそのまま惑星が蒸発してしまったからであった。
そしてこれは、更なる大爆発の予兆に過ぎない。放出された莫大なエネルギーはすぐに物質に変わり、ガスのようになって空に輝く太陽をもすっぽりと覆いつくす。更に、覆いつくすだけではない。その大質量のガスの威力はすさまじい。太陽にぶつかって形をゆがめるほどであった。太陽は徐々に変形し、薄く伸ばしたピザ生地のように広がっていき、やがて分裂して、光を失う。
しばらくここに暗黒星雲が居座った。光はなく濃く重いガスに包まれた空間が広がる。
そして、ガスはやがてお互いの重力でまた中心へと舞い降り始める。
全てのガスが勇者の体に向かって戻って来る。広がったガスは勇者のいた場所に一斉同時に降り注ぎはじめ、太陽の5億倍もの重さを持つ大量のガスが互いに押し合いへし合いし、岩石とも金属とも液体とも思えぬ異形となって収束する。
そして、集まった物資が凝縮されてついに、超大爆発を引き起こす。これは、遠く離れた銀河からも観測できるほど大きな爆発である。
――ここに、宇宙で初めての
勇者はこの世界に新たな秩序を生み出したのである。
そして、この超新星爆発のエネルギーが、勇者を中心に鋭く収束し紫よりも邪悪なレーザービームのような光線を生じた。勇者は天体を使った宇宙最強規模のビームを編み出したのである。
――これを、後の人類はガンマ線バーストと呼ぶ
なんと、勇者は魔王への復讐心から同時に二つの秩序を作り出したのである。これ見ていた宇宙創造の神は満面の笑みだった。
そして、放たれたビームは勇者の目的を叶えるべくある方向へと向かっていた…。
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