第2話 魔法の理


 ため息をつきうなだれる神の前に、堂々とした一つの魂が現れる。


「神よ、私は魔王を倒すべく生まれた勇者。我が悲願のため力をくだされ」


 夢なき神と絶望した勇者が出会った瞬間である。


「貴様、自分の言っていることがわかっておるのか?」


「もちろんにございます。ですが、私は世界中の全ての魔王を倒し我ら人類が安寧を得るその日まで悪と戦い続けます。ですから、私は神の力が欲しいのです」


 神は、あごひげをいじりながら渋い顔をする。渋い顔で断る気配を見せつつも、実際の所、神は面白いと思っていた。


(信念で言っているなら叶えてやってもいい)


 これから、長い交渉が始まる。


 どれくらいの時間か? 空一面に散りばめられた星たちが集まって星団や小さな銀河を作り成すくらいの長いときが過ぎた。その間、勇者は壊れた機械人形のように同じことを言い続けた。どうやら、長い時を経ても彼の意思に変わりはないらしい。ようやく神は笑顔を見せることにした。


「良かろう。そなたの熱意は本物じゃ」


 神は全ての力を勇者に分け与える。


「神としてのありったけの力をそなたに捧げよう。魔王の支配に抗う貴殿ならきっと成しえるであろう。我が力を使い、お主の思う理想の世界を創って見せよ」


「おお、神よ。これが、神の力か!」


 容姿は昔と変わらないが、力が違うことはすぐにわかる。かつての肉体とは全く異なる法則で生み出された新しい存在。実体のようでそれはエネルギーであった。存在という概念。これこそが神である。


「勇者よ、お前はもう神であるが、最後に神として私に仕事をさせてくれ」


「もちろんですとも」


「それでは、神の力の理を説明しよう」


 神の力とは、魔法よりも崇高で当たり前な存在。世界の理を作り、世界の法則をゆがめる方程式である。これを、組み替えることで、世界の仕組みそのものが変わってしまう。


「神の力を使うには目的と手段を与える必要がある」


 目的は簡単にひらめいた。


「魔王を倒すためだ」


 しかし、手段とはなんであるか? それは、火であったり、水であったり、光であったりする。ちなみに、神だからマナの供給源は無制限。使い放題である。


「まぁ、貴殿の場合は魔法を唱えるように手段を選べばよかろう」


「なんだ、それでいいのか?」


「まぁ、まずは使ってみるがいい」


 神は、一つの小惑星を指さす。


「あれをよく見ろ。そして、破壊する気持ちを持て」


 勇者はよくわからなかったので、魔法のように火の玉を思い浮かべてそれを投げつけようとした。


「ファイヤーボール!」


 しかし、上手く発動しない。魔法とはやはり勝手が違うらしい


「言葉をイメージとは言わぬ。火を使い、どんな壊れ方をするのか思い描くのじゃ」


 そう言われ、勇者はイメージをする。あの岩石の塊が炎で割かれ、はじけ飛ぶ様子を。


「ファイヤーボール!」


 すると、勇者の目の前には青白い炎が揺らめく。見たこともない色の炎。


「これが炎なのか?」


「いかにも、強い炎はこうして青くなる」


 やがて、炎は円環状に形を作る。もやもやと揺らめいていた輪が鋭く収束し、まるで実体でも持つかのようにはっきりと形になった。


 出来上がったのは真球の青いファイヤーボール。一切の歪みがなく揺らめきもない、重さを感じるほどに強く収束された高エネルギー体がここに誕生する。


「よし、解き放ってみよ。そなたの力を」


 勇者は青い球体空に解き放つ。小鳥を放つように優しく空に差し出した。


 そして、青い炎は瞬時に真っすぐとあの岩石に飛んで行く。光陰は一直線に奇跡を残し。勇者のイメージ通り小惑星を分断し粉砕する。


「さすが、神の力。すごいエネルギーだ!」


「ただし、目的は必要以上に大きくするでないぞ。あらぬ暴走を起こすでな」


「御意」


「さぁ、行け。後はお前が世界を決めろ」


 勇者はこの宮殿から旅立つ。

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