神様のありったけを勇者に込めて魔王討伐【短編】

遥海 策人(はるみ さくと)

第1話 神と勇者の遭遇


 あと一撃。


「滅べ! 魔王がぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 手負ておいの魔王を追い込んだ。しかし、対峙たいじする勇者もまた力はわずか。だから、勇者は最後の力と引き換えに、一撃を放った。


 しかし、勇者は絶望した。


「なんだとっ?!」


 こんな最後はあまりにもひどい。魔王は姑息こそくにも、こおり魔法まほうを放ち地面に氷を張った。その氷のせいで勇者は足を滑らし、最後の必殺技を外した。


 勇者の体力を例えるなら残りHPは1くらい。甲冑かっちゅう姿すがたで足を滑らせて転んだために酷い衝撃が頭の中に響く。そのまま気力も尽き、意識がうすれていった。


 遠のく意識の彼方かなたで、魔王は笑っていた。とても爽やかに笑っていた。魔王の威厳いげん権威けんい威圧いあつ。そんな言葉とはほど遠い、いい笑顔。部下たちと手を取り合い、魔族たちが一致いっち団結だんけつして行われた死闘しとうの末に勝利しげたような晴れやかな笑顔。


 勇者はその笑顔が許せなかった。


「それは俺がするはずだった表情だ」


 勇者の魂は今、長い階段を登っている。空にかかる白い階段。永遠にもひとしいその階段を、勇者は迷わずに上り続けた。


 この先には神がいる。勇者は神に懇願こんがんすることを決めていた。


「私は力が欲しい」


 世界を巣食すくう全ての魔王を倒すだけの力が欲しい。勇者は願っていたのだ。雲を突き抜けてどこまで続くかわからぬほど長い階段を勇者は上っていった。




 この階段の果てで待つ神がいる。


 真っ白な玉座。ここにひじをついて長いひげをいじりながら座る存在がある。彼が神である。


「やることないのう」


 神はきていた。無限大に匹敵する力を持つ神は、世界せかい秩序ちつじょの行く末になやんでいた。一体どうすればよいのか? この神が悩みを打ち明けられる存在などいない。だから、せめて神は思っていた。


「人間にでもなって、誰かと悩みを共にしたい」


 神は、唯一ゆいいつの存在にして、世界の創造そうぞうしゅ。彼より高貴こうき偉大いだいな存在などいない。


 ゆえ孤独こどくだった。


 神は世界の誕生から、この世界をずっと見守り、星が熱すぎれば水を注いで熱を抜き、寒くなりすぎたときは煙の毛布で温めた。ようやく星に水が保たれるようになったら、植物を生み出し、動物も作った。このように、時にかき混ぜ、時に転がし、面倒を見た結果、神の作った世界が安定を迎えた。


 安定とは要するに退屈である。だから、神は大きなため息をついた。


 その時。この神殿に勇者が現れた。

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