#8ポーションは飲み物!

「大丈夫ですか? ルナ」

「あ、あぁ。大丈夫。サンキュー」


 ルナはステラの顔を一瞬見た後、コルネの方へ声を上げる。


「──コルネっ! 毒のナイフは突き刺したぞ。後はお前がなんとかしろっ!」

「わ、わかりました! 任せてくださいっ! あと少しで封印魔法が撃てます。あと少しだけ耐えてください! 私は集中するためにこれを読みます!」


 コルネは周囲の空間が歪んで見える程、莫大な魔力をその身に宿らせる。

そんなコルネがポケットから取り出したのは、魔導書などではなく──冒険者から届いたルナあてのラブレターだった。


「何してんだぁ! おいっ! 真面目にやれよ。オレ達が死ぬ物狂いで稼いだ時間返せぇぇぇ!」


 ルナはコルネの顔面に飛び蹴りを炸裂させた。

 吹き飛んだコルネは鼻を押さえ立ち上がり、ラブレターをぶんぶんと振り回す。


「ち、違いますっ! 魔力を高めるには集中力が必要なんですよっ。だから他人に宛てられたラブレターを読むことで集中力を──ぷぷっ。ここの分臭くて面白っ!」

「どこが集中してるんだよ! 思いっきり集中乱されてるじゃん。というかそれオレ宛の手紙だろ何勝手に読んでんだよ! 返せっ。焼却しておくから」

「嫌ですよ。これは私の魔力を高める為の……そう。触媒です!」

「なに良いように言ってんだよ! 高まってるのは嫌らしい好奇心だけだろ! さっさと返せ!」


 ルナはコルネへ駆け寄ると彼女が手に持つ手紙を引っ張る。コルネも負けじと手紙を引っ張り始めた。

 その状況を見てすぐにステラがルナの方へ走る。


「この状況でどうしてくだらない喧嘩してるんですか! スレイクが一人で炎神プロメテウスと戦っているんですよ! それに──主に向けた手紙はまず私が検閲します。貸してください!」


 好奇心に負けステラも手紙を奪いに掛かる。三つ巴の喧嘩が起きた瞬間、手紙は音を立てて三等分に破れた。


「おいっ! 手紙破れちゃったんですけど⁉ どうすんだよ。二人共!」

「し、知りません」

「あ、魔力溜まった気がする~」


 ステラとコルネはルナから顔を逸らすとそう言った。

 彼女たちの背後で金属同士のぶつかる音が響き、そしてスレイクが吹き飛ぶ。


「ぐはっ‼」


 ステラとコルネが振り向いた時にはスレイクは血反吐を吐き宙を舞っていた。


「「「あっ」」」


 吹き飛んだスレイクは鈍い音を立て何度も地面を跳ねる。

 しかし、スレイクは血を吐き出しながら剣を杖に立ち上がり、コルネの方を殺意にも似た凄まじい圧のある瞳で睨みつける。


「魔力が溜まったなら早く封印を施せっ」

「わ、わかりました!」


 コルネはボロボロのスレイクを見て焦ったのか、すぐに杖を構える。


「い、行きますよ! ──封魔の神アステルの力を以て忌まわしき悪を封じ込め! シェアラ!」


 コルネが叫んだ瞬間、炎神プロメテウスを取り囲む様な幾何学模様の巨大な魔法陣が生まれた。

 魔法陣は強い光を放つと魔力で出来た檻を創り出し、炎神プロメテウスを取り囲んだ。

 遅れてどこからか鎖が出現して、炎神プロメテウスの両手両足を縛り付ける。

 そのまま生み出された檻は魔法陣の中へ沈み込んでいく。


『ぐおぉぉぉ! 貴様ら。顔は覚えた。次にあった時は必ず殺──』


 プツリと炎神プロメテウスの声は途絶え、静寂が訪れた。

 そして炎神プロメテウスの作り上げた世界は見る見るうちに縮小していき、元の世界へ戻っていく。

 威圧するような雰囲気が消え去りルナはホッとため息をついた。


「はぁ……」


 これで全てが終わった。そう思っていたルナの目の前に禍々しい水晶が出現した。

 ルナはその水晶の正体を一瞬で見破った。


「……これが魔王の核。スレイク、これを破壊すれば良いのか?」


 と、ルナは後ろに立っているはずのスレイク達の方を向く。

 しかし、ルナの質問に答える者はいなかった。ルナ以外の三人は炎神プロメテウス戦で消耗しきり、地に伏していたのだ。


「……だ、大丈夫か⁉」


 慌てて三人に駆け寄ると、ルナはそれぞれ三人の状態を確認する。

 コルネは魔力を消費しきり、気絶していた。外傷は無いので無視でいいだろう。

 ステラは魔王化が進行しており、とてもまずい状態だが、目の前にある魔王の核を破壊すれば魔王化は止まるはずだろう。

 しかし、スレイクだけは直ちに処置を施さなければマズイ状態だった。肩から腹部までの大きな裂傷が出来ている。出血状態はひどく、簡易的な処置では血は止まらないだろう。


「と、とりあえず回復のポーションを!」


 ルナはコルネの近くに落ちているリュックを奪うように回収すると、中から回復のポーションを取り出した。


「……爆弾と一緒に結構な数を落としてきたのか……回復のポーションが一個しか無い。まぁこれで止血程度にはなるよな」


 回復のポーションの蓋を開くとルナは瓶の中に入っていた液体をスレイクへぶち撒けた。

 液体の掛った患部は逆再生するかのように再生していく。

だが、失った血液までは回復させるにはルナの錬金術の練度が足りない。治り方も荒く、傷口の跡がくっきり残っている。

 それでも即座に命に関わる問題が起きることは無いだろう。そう判断するとルナはスレイクから離れ、魔王の核を睨みつけた。


「次はこいつか。……どうやって壊そうかな。爆弾はないし、素手は無理だよな。錬金銃を撃つか」


 ルナはホルスターから錬金銃を引き抜くと、何度も引き金を引く。

 魔王の核へ弾痕がつき、弾痕は次第に大きな亀裂へと変化していく。ルナが銃弾を打ち尽くす頃には魔王の核は粉々に砕けていた。


「やっと砕けた……これで良いのか? ステラは?」


 魔王の核からステラへ視線を移したルナは驚いた。

 ステラの紫に染まっていた肌が体の端から徐々に白さを取り戻していく。

 というより、ステラの体を蝕んでいた不浄な魔力が煙のように抜けていき、一箇所に集まっていく様な様子だった。

 恐らくステラから抜けた不浄な魔力は時間を掛け魔力を増大させ、再び魔王の核をダンジョンの最奥へ作り出す。


そして別の人間に魔王刻印を刻みつけ魔王化を促す。

これが魔王の核の仕組みだろう。

 どんどんと魔王刻印を持つ者が増えていく。まさに伝染病だ。


(これを止める手段をオレは持ってない……)


 ルナは集まっていく不浄な魔力の塊をただ見つめる事しか出来なかった。

 やがて、ステラの肌は完全に元の色を取り戻した。

同時に集約した不浄な魔力の塊はそのままダンジョンの壁を透過して上に登っていった。


「……帰るか。問題はどうやって三人を連れ帰るか……だな。空腹でぶっ倒れてるコルネを起こしたとして、剣を持ち上げる事すら出来ないオレにどっちか片方を運ぶっていうのは無理だろうな」


 とは言いつつ、現在の脱出方法はコルネを起こす事しか手段が無いので、万が一のために持ってきた食料品の果物乾物をリュックのサイドポケットから取り出した。


「ほら。コルネ。起きろ、ご飯だぞ~」

「ご飯‼ ご飯っ!」


 ルナが視界に入っていないのか、コルネはルナへ馬乗りになり果物乾物を奪う。

 しかしコルネに体の上へ乗られているルナはもっと違う恐怖を感じていた。


「く、喰われるっ! 助けて‼ オレは食べても美味しくないっ!」

「ご飯っ。もっとぉぉぉ」

「そっち。リュックの中にあるから!」


 ルナがリュックの方へ指をさすとコルネは腹を空かせた獣のようにリュックの方へ走り、リュックを漁り始めた。

 その様子を見てホッとため息を付いたルナは頬を掻いた。

 数分後。


 リュックの中に入っていた食べ物や解毒ポーションなどの液体類を全て食らい付くしたコルネは満足げに膨らんだお腹を叩いていた。


「ふぅ。やっと満足しましたぁ~」

「いや、解毒のポーションまで飲まないで欲しかったんだけど」

「すみませーん」


 全く反省した様な態度を取らないコルネ。

 その様子を見てルナは怒る気すら無くし、ため息を吐いた。

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錬金術師と魔王刻印~転生したオレは錬金術で世界最強~ 碧葉ゆう @yurie79

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