1-41 上京したい


 喉も枯れて、まともに声も出なくなって、それからようやく自分を取り戻して、気が付いたときにはすっかり暗くなっていて、黒づくめの女の子ももうその場にはいなかった。


 それからエイド少年の遺体と、彼の両親が基になったゴーレムの身体を集めて村の入口まで運び込んだ。


 適当な家からスコップを拝借して、いくつかの穴を掘る。


 村中を回って、殺されてしまった人、ゴーレムになってしまった人たちを運んで穴に埋めていく作業を繰り返した。


 日が昇る頃にようやく、エイド少年の家の近くまで作業が進んだ。


 もしかすると彼の妹のメーリちゃんもどこかで亡くなっているのかと思って、壊れた彼の家までやってきた。


 すると、

「誰か、そこに誰かいるの……? メーリもう出てもいいかな……? ママとパパが、絶対出るなって、出るなって……」

 どこかからそんな風な声が聞こえてきた。


 声を掛けようと思ったけれど、喉が枯れ果てていて、上手く発声できなかったから、適当に瓦礫を退かして、もともと台所だった場所の地下に貯蔵庫への隠しドアがあることを発見した。


 ドアを開けて地下貯蔵庫を覗き込むと、片手で黄色の花束を握りしめて、もう片方の手でしまい込んであった干し肉をもしゃもしゃと食べているメーリちゃんと目が合った。


「リリアおねえちゃん」


 私は何にも云わずに、メーリちゃんを貯蔵庫から引っ張り上げる。

 もしゃもしゃと干し肉と食べながら、私と花束とを何度か見比べてから、私に黄色い花束をそっと差し出してきた。

 もしかすると出かける前にエイド少年がメーリちゃんに何かを伝えていたのかもしれない。もちろんこんな風になるとは全然考えていなかっただろうけれども……。


 何も言えず、ただ黙って差し出された花束を受け取る。

 図らずもそれは最初で最後の送りものだった。


「どうしたの……? それ?」


 多分、私がアーシア返り血をまともに落とさないままで作業していたから、全身ドロドロになってしまっていることを指していた。


 何をどう説明したらいいのか分からなかった。


 本当のことを言ったらいいのか、それとも適当にうまくごまかした方がいいのか……。


 何にもわからない。

 頭の中がごっちゃごちゃになって、また涙がこぼれた。


 滝のように止めどなく、涙がこぼれた。


「ど、どうしたの……? 大丈夫、大丈夫だよ……? メーリのお肉あげるから、ほら、ね?」


 差し出された干し肉を受け取って、メーリちゃんに縋りついて、また長々と泣いた。


 泣いてしまった。


 こんな小さな子に縋りついて泣くことしか出来ない弱い自分が情けなかった。


 でもどうしようもなかった。


 私があんまりにも泣くものだから、メーリちゃんもつられてしまったらしく、途中からは二人で延々と泣いていた。



 それからまたどうしようもなく泣きはらして、ある程度落ち着いてからメーリちゃんをエイド少年とその両親を埋めた場所まで連れてきて、掠れに掠れた声で何とか説明をした。


 そしたらば、今度はメーリちゃんがいやいやと首を振りながら私に縋りついて泣き出してしまった。


 落ち着くまでポンポンと背中を軽く叩きながら、しばらく待った。


 彼女の涙が落ち着くには泣きつかれて眠ってしまうのを待つ必要があった。


 一夜にして急に家族がみんないなくなってしまいました、なんてことをすぐに受け入れられるわけもない。


 眠ってしまったメーリちゃんを近くの家のベッドに寝かせて、村の人を埋める作業を再開する。


 作業の途中で、黒づくめの女の子が水と食べ物を持ってきてくれた。


 私がそれをありがたく受け取ると、彼女は何か言いたげな表情を見せて、でも何も言わなかった。


 それから彼女の助力を得て、メーリちゃんが目を覚ます前に何とか村の全ての人を土に埋めた。


 しっかりと穴を掘ったつもりだけれどそれでも狼なんかに嗅ぎ付けられてしまったならば掘り返されてしまうかもしれない。


 でもそこはもう、祈るほかない。


 それから私と黒づくめの女の子も少しだけ眠って、メーリちゃんが起きてから三人でこれからどうするかを少し話した。


「じゃあとりあえず都会に行こうか」


 その日のうちに荷物をまとめて、この滅びた村から旅に出る。

 目的地はもちろん王都と呼ばれる大都会だ。

 ぎゅぅっと、黄色いな束を握りしめて、歩き出す。

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神域と呼ばれる森の守り人一族の最後の一人である私は一緒に暮らしていたおじいちゃんが逝ってしまったのを機にこんな誰も住んでいないクソ田舎を脱出して都会で生活するんだと夢見ていたけれど現実は上手く行かない 加賀山かがり @kagayamakagari

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