富豪の元カレの近況がその妹から送られてくる
爪木庸平
第1話
「お兄ライオン買ったよー」
ライオン?
「ライオン?」
そう返信した直後に画像が送られてくる。
……承継がライオンのお腹を枕に寝ている写真だ。カメラに向かってピースしている。
「やば 食われるよ」
「今はおなかいっぱいだから大丈夫らしい」
「食われた方がいいよ」
「伝えとく」
伝えとくというのはセナの口癖だ。私から承継へ、承継から私へのメッセージは全てセナ経由で伝わる。そうなったのは四年前のクリスマス、私が承継を振ってからだ。
「てかなんでライオン? どこ?」
「ケニアだよー 買ったのは嘘」
「嘘かい」
承継は大層おもしろい金持ちだが、さすがにライオンを買うまではいってないらしい。
ライオンのお腹に寝転ぶまでの流れは大体想像がつく。現地に行ってガイドと仲良くなり、自分が頭の悪い富豪だということをそれとなくアピールしたら、向こうはどんどん舞い上がって、よりスリリングで金のかかるプランを提供してくる。全ての提案に乗った結果、行き着く先がライオンとのお昼寝なのだろう。
付き合っていた半年間、私はそういった悪ふざけには乗らなかった。
「りっちゃんなんかお土産いるー?」
「んー いい」
返信したもののセナは何かしら買ってくるだろう。それもとびきりユニークなやつを。承継のセンスはとても悪く、私とは趣味が合わなかったが、セナのプレゼントはいつだって期待をいい意味で裏切ってスペシャルなものだった。
「お兄が仔ライオンもらってくるって」
「ありがとーたすかる」
富豪の元カレの近況がその妹から送られてくる 爪木庸平 @tumaki_yohei
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