第5話

「君は魔法使いか」

 報告書を見ながら、ボスはうめいた。

「だったら、ボスも帰省させてあげるんですけど」

「依頼しようかな」

 その日発表されたのは、「グリーンランド独立戦争の指導的立場にあったベータ=クロース、火星の有人探査に全面的協力することを条件に釈放」というものだった。

 「袋」のことは公表されていなかった。まだ人間が扱えるようになるかは不明で、しばらくはサンタクロースは不在のままであると考えられた。「サンタ技術の確率」までは、袋に関しては極秘事項になったのである。

「とりあえずこれで私も、クリスマス休暇をとることができます。……とれますよね?」

「も、もちろん」

「良かった」

 私は、思い切り背伸びをした。



「ママー! ママ―!」

「どうしたの、大きな声を出して」

「サンタさん来たよー!」

 12月25日の朝。娘の言葉に、私は「そうでしょうそうでしょう」と心の中で胸を張った。最近夜更かし気味な娘が、きちんと寝たのを見計らってプレゼントを置いたのである。

「ママ、編んでくれたんだね! ありがとう!」

「いえいえどういたし……ん? 編んでくれて?」

 娘は自室へと駆けて行った。私も後を追う。

「思ってた通りのやつだった!」

 そこには、ピカピカの自転車があった。そしてその傍らには、寝袋のように大きな靴下が。

「え? え?」

「しかもね、今年はもう一つ! 私が用意した靴下にも入ってたの! 来年はいっぱい靴下置いておこうかな」

 私は、大きな靴下など用意していない。というか、こんな大きなもの、普通の人間に編むのは無理である。

 しばらく腕を組んで考えていた私は、つぶやいた。

「……ベータ?」

 私は、窓の外を見た。もちろん、誰もいない。暗い空に、一段と明るい星が見えた。私は星に詳しくなかったが、それはきっと火星だろうと思った。


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サンタのいない星 清水らくは @shimizurakuha

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