第4話

「おひさしぶり」

「うむ。よく会うね」

「担当ですから」

 いまだにベータは、にやにやと笑いながら、人を食ったような態度で応対した。私の方もそれに慣れていた。

「そろそろ刑が決まるかね?」

「そう簡単には行きませんね。現代の戦犯裁判は、なかなか大変なんですよ」

「そういうものか。地球人じゃないから、もっといい加減に扱われるかと思っていたよ」

 しばらくの間私はベータを見つめていた。そして、両手を組んでその上に顎を乗せた。

「グリーンランドは快適?」

「突然何を聞くんだ。まあ、少し暑いがいいところだ」

 火星は地球よりも寒い。そのためクロース人たちは、北部の寒い地域でしか生きていくことができない。彼らにとって、北極圏でも「暑い地域」なのである。ただ、火星は寒暖差も激しいので、それに適応しているクロース人は耐えられる気温の幅も広い。そのため地球でも生き延びることができたと考えられている。

「火星はもっと快適でしょうね」

「まあ、もともと住んでいた場所だからな」

「行ってみたくないですか」

 ベータの細い目が、さらに細くなった。眉間にしわが寄る。

「どういうことかね?」

「火星開発機構は、有人探査を計画しています。将来的には、火星への移住も考えています。もともと先祖が住んでいたあなたは、メンバーとして最適では?」

「私が火星に?」

「行きたくないですか?」

「……」

 リシュは目を閉じた。唇を尖らせて、しばらくうんうんと頷いていた。

「どうですか」

「確かに、行きたい。おそらく私の先祖たちの、悲願でもあっただろう。ただ、火星に住めなくなったから脱出したと聞いている」

「ここからはまだ全く世間に公表されていない情報なんですが……火星探査機の活動によって、ある発見がされています。地下約2000メートルに、とても巨大な人工物らしきものがあると。環境変化に備えたシェルターではないかと思われていますが……」

「そんなものが」

「可能性はかなり低いですが、その中でまだ生存しているクロース人がいるかもしれない……と考える人もいるようです。それが判明した暁には、希望者の帰還もお手伝いできるかもしれません」

「……」

「考えてみてくれませんが。もちろん、交換条件として『袋』の秘密を教えてもらいますが」

「考えてみよう」

 その時ベータの瞳が少し滲んでいたのを、リシュは見逃さなかった。

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