第3話
「あー、今年も帰れんなあ」
ネットニュースを見ながら、ボスがぼやく。
「解決しませんでしたね」
「元気にしているかなあ」
私が所属するのは、国際弁護士事務所のオスロ支部だった。ボスはもともと南アフリカの出身で、ヨーロッパ留学を経てここに赴任することになった。しかし現在、アフリカ南部はヨーロッパから渡航することができなくなっている。情勢が非常に悪化して、改善の兆しは見えていない。
「ご両親ですか」
「弟も。あっちで働いている」
「それは心配ですね」
「サンタみたいにひとっとびできればねえ」
現在は空路の直通便もなく、陸路で行くのはあまりにも困難である。
「そのサンタも、戦争では撃ち落されましたね」
「悲しいことだ」
「……故郷」
「どうした」
私は顎に手を当てて考え込み始めた。ここ数日ずっと、ベータに対しての切り札がないかを考えていた。彼は裁判での結果に興味がないため、その点では弁護士としてできることが少ない。しかしIFAAが私に求めているのは、それ以上のことである。アルファの気持ちを変えさせ、袋の情報を人類に提供するよう説得すること。それは、依頼料にも含まれている。
「火星開発機構に知り合いはいます?」
「は? 突然何を言い出すんだ」
「使えるものは何でも使わないと。私、掛け合ってみます」
私は、パソコンに向かって作業を始めた。
「ママー、おっきな靴下まだ?」
「無理って言ったでしょ」
「えー。自転車もらえないのかなあ」
私は苦笑した。実際には自転車のことはすごく調べていた。ただ、やっぱり「お約束」は守らなければいけない気もするのだった。「サンタは靴下にプレゼントを入れる」というのはずっと守られてきた伝統であり、人間の手で終わらせていいものではないと思ったのである。
「そんなに欲しければ、自分で編めばいいのに」
「えー、無理だよお」
私は娘の頭をなでた。
「安心しなさい、サンタさんはあなたの欲しいものを持ってきてくれるから」
そういう時代が戻ってくればいいけど、と私は心の中でため息をついた。
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