第8話
08
「その、僕、童貞なんだけど」
話の腰を折るどころの次元じゃない、僕の一言で全てを台無しにしたかのような雰囲気を僕は彼女から感じ取った。腰を折ったどころか、全身複雑骨折といった具合である。
『証明してごらん』と、そりゃあ雰囲気たっぷりに促された後の僕の台詞が、
「その、僕、童貞なんだけど」である。
あまりに重たい空気が流れたことを野性的直観で知覚した僕は、このまま黙りこくっているわけにもいかないと判断し、
「そういう経験がないから、だから僕は僕自身、どういう性癖をしているかってわからないんだよな」と、それは釈明にも似た、僕自身恥ずかしながらの心情を真実そのままに、赤裸々なまでに吐露したという具合である。
赤裸々どころか素っ裸。丸裸も丸裸、すっぽんぽんの真っ裸。
……。
実を言うと、この子が言っていたサディストだのマゾヒストだのが、その、いわゆるSとMのことを指した言葉であると理解したのが話の終盤も終盤だったから、この子が気持ちよさそうに、そのうえ高らかに語っていたSM関連の辺りの話を全然といっていいほどには掴めていないんだよな。
それに加えて、この子の容姿も相まってか話の内容のインパクトが強すぎて、理解云々以前に自分の中で内容を噛み砕けていないのだ。
衝撃が過ぎて、インパクトそのままに耳から耳へと突き抜けた。
鼓膜で受け止めきれなかった。
なによりこの子、性行為がなんだとか言ってなかったか?
こんな、見た目幼い子の口からそんな単語がポンポンと出てくれば、誰だって唖然としてしまうだろう。
そういえばオーガズムとも言っていた……。
この子からして僕は異性だぞ?初対面の男子だぞ?僕は。
僕からすれば赤面必死と思われる言葉をこの子は一切の恥じらいすらない様子で、そのうえなんとも単調な口調で、実につらつらと言いまわしていた。
この子くらいの年代では絶対に知りえないはずの日本語であることは確かだ。だって僕ですら完全に初耳だったのだから。
マゾヒスト、マゾヒズム、マゾッホ。この三つの違いって一体何なんだ?
いや本当、この上なく恐縮で、大変申し訳の無い限りであるのだけど、つまりだから要するに、僕はこの子が長らく語っていた話の内容を半分も理解できていないのだ。
それ故の、唐突な童貞告白。
誠意どころか謝意もなく、ただただ僕は本能のままに素早くも土下座を展開したというわけで。
言ってしまえば、ここに来てようやく謝りたいくらいだ。
しかしそんな告白、今さらできるものか。
本音を言えば、僕はもう土下座なんてしたくないのだ。
よく考えてほしい。
僕が土下座を敢行している中、頭のうえからまるで訳のわからない講釈を延々と垂れ流される僕の気持ちがわかるだろうか。頭を上げるタイミングすら掴まされず、挙句、話の区切りが全然ない。
体感にして一時間、その間僕の頭の中ではクエスチョンマークが踊り狂っていた。
いや一時間なんて、絶対にそんなに経っちゃいないけれど、しかし僕からしたらそれは、小学生が高校生の授業を受講しているような気分だった。
まあ客観的に言えば、高校生が小学生の授業を受講していたような、そんなお馬鹿な光景だったのだろうけど。
性の知識を、僕は小学生から教わった。
言って悪いけれど、高校生の僕からすれば屈辱以外のなにものでもない。
将来の夢が教職に就くことだった僕からすれば、だから、屈辱以外のなにものでもないわけだ。
いまだ羞恥は完全に引ききっていないけれど、しかしようやく顔をあげることができた。不肖この僕が招いた現在を顧みて言い方を変えるとしたら、表を上げることが叶った。
恐る恐る彼女の様子を窺う限り、無表情故に彼女の心情を窺いきれたわけじゃあないけれど、どうやら怒りは収まったらしい。
沸々と煮えたぎる怒りを先行するほどには、今の僕は哀れに映っているのだろう。
だって、僕が未経験であり、恥ずかしながらの純情初心な童貞であることを、幼女と見まがえるほどに幼く映る目の前の彼女にそう宣言したのだから。
誓うどころか、宣誓したのだから。
そりゃあまあ、彼女からして哀れに映って当然だろう。
甚だ情けない限りである。
ただ仕方がなかったと、一言、僕の口から言わせてほしい。
『証明してごらん』と促されたあの瞬間を僕がどれだけ待ったか。
長いに過ぎるSM講釈を、土下座を保ったままで、ずっと…ずっと…どれだけ待ったことか…!
その瞬間から遡ることずっと、僕は口を開くことだって許されていないような空気感だった。
『証明してごらん』と促されたその瞬間が、最初で最後のように感じてしまったのだ。
僕からしてそのたった一度、唯でさえ最初で最後、空前絶後のチャンスに全てを投じてこのエロガキの口を封じなければならなかった。そうしなければまたエロ講釈が始まる気がしてならなかった。
そう、つまりあの状況は僕が童貞であることを告白する以外になかった。
簡潔かつ手短にMであることを否定し、簡明かつ端的にエロガキの口を封じる。加えて自らの羞恥を曝け出し、この場の優位性をあくまで自発的に彼女に差し上げる。
その三つの条件を果たせるのが、僕の内では童貞告白しかなかった。
この子からすれば、長い土下座からやっと顔を振り上げたかと思えば突然『僕は童貞です』と、それはまるでちんぷんかんぷんな告白を突如として始めた頭のおかしい奴に見えたかもしれないけれど、そんな頭のおかしな告白だけがあの状況で僕が切れる唯一のカードだった。
生前の友達にだって言ったことはない、聞かれたこともないけれど、それとなしにスルーしていた。
彼女がいるのに童貞だなんて知られたら、奴らにどんな罵詈雑言を浴びせられるかわかったものじゃない。
なんだったら、その彼女にだって見栄を張っていたくらいだ。
それぐらい、僕の中ではトップシークレットだった。
その秘密を解禁した。いやせざるをえなかった。
僕は昔から性には人一倍敏感だったように思う。
理由としては、ある日トラウマを植え付けられたのだ。
——自分語り、回想。
中学一年生の頃、保健の授業中での出来事。
中学生でまだまだ子供だった僕たちは、保険の授業故に少しばかりエッチな話を回りの友だちとするだろう。その授業中である。
おっぱいの本当の意味を知ることになった。女体の神秘を、僕はあのとき教わった(後日談、教職を志すようになったのはこのときである)。
そして、僕の姉が裸族だったのだと、そのとき初めて知った——そして勃起した。
みるみるうちに膨れ上がる僕の男気はとどまるところを知らず、その日の授業は散々だった。その保険の授業が六時間目だったことが、後から思えば、唯一の救いだったのだろう。
思い返せば、中学ではすぐに友達ができた。自分自身不思議に思うくらいには、友達がたくさんいたと思う。
しかしそこには理由があったのだ。
その理由とは、小学校から僕と一緒に上がってきた友達が、『こいつの姉ちゃん乳丸出し』だと吹聴していたところにある。
そりゃあ人気者にもなる。なにせ僕は乳丸出しの女の弟なのだから。
中学生なんて最も多感な時期といっても過言ではない。性に関する貪欲性はさることながら、性知識に対する、言葉そのままふわふわスポンジのような恐るべき吸収力、もとい吸引力。
無知は罪だというのなら、幼い頃の僕は罰を受けるべきだったのだろう。
急いで帰宅を果たした僕は、当然姉を糾弾した。
そうして僕は罪を背負い、罰を受けた。
僕の糾弾も早々に、僕は姉から一言、『変態』と罵られた。僕の頬を少しつねり、姉は優しい笑みを僕に向けた。乳丸出しで。
その日の夕飯の食卓が僕にとって過酷なものになったことは言うまでもない。
——以上、回想終わり。
そんなトラウマがやがて顔を出す。
羞恥から来る心臓の緊縛感が、両の手の内に緊張を供給する。
実写映画で見た命の駆け引きを思い出す。
ざわざわ…ざわざわ…。
鼻が尖ってしまいそう。
「僕の奴隷にならないのなら、僕はあなたを許さない。僕は怒っているんだよ、こう見えて。あなたを殺してしまうかも」
「許してもらうには、その、僕はどうすればいい?僕にできることならなんだってする」
「ふうん、なんでも……言ったね。その言葉を待っていたと言っても過言じゃない」
……な、なにを要求するつもりなんだ?この子は。
それとも僕の不安を煽っているだけか?
どこまで思考を巡らせても回答へと終着しない。
ニヒルに笑むこともなければ、目尻一つ動かさない。感情表現の一切が見受けられない。
無表情はおろか、無感情のようにすら見て取れる。
この子と目を合わせていると、『あなたを殺してしまうかも』と先に言われた文言が段々と嫌に現実味を帯びていく。
この子の猫目に射竦められて、僕の恐怖が増長していく。殺されてしまうも冗談では済まされない。
獰猛な猛獣に狙いを定められているような気分…最悪だ。
「それじゃああなたには、告白をしてもらおうか」
「こっ…告白っ⁉告白だと⁉告白ってあの『告白』か⁉」
「察しが早いね、そうだよ、その告白。今あなたにできるのは、僕に告白する以外にないだろう」
なんてこった…このマセガキ……っ!
告白………。
好きって言って、手を繋いで、チューをする…あの告白……。
彼女とするのも恥ずかしかったそれらを僕は、こんな小さな子とするのか…。
………。
——ん、しかしよく見ると、こいつ可愛いんだよな。いや本当。
さっきはこの子の大きなパチパチお目々に、その猫目に恐怖を感じていたけれど、よくよく観察してみると可愛らしいチャームポイントじゃないか。際立った目元の輪郭、それに長いまつ毛だって——引っこ抜いちまいたくなるぜ。
西洋製のドールに袴を穿かせたような、ある種異様とも言える、それは随分と他の目を引く格好をしている彼女だけど、こう視点を変えるとそれだって似合っていると思えるし、なにより、どこまでも可愛らしく感じてしまう。
んん、抱きしめたい。
こんな可愛い子に依存されたりしたら、さぞかし気持ちがいいだろうなあ——優越感。
……ん?
いや待て。少し思考を整理しよう。
というより、やっちゃいけないことなのではないだろうか。
高校生と小学生の交際って、……多分ダメだよな。
この子とチューするのは、ダメだよなあ……。
「なあ、一つ聞いていいか?」
「なんだい?」
「君っていったい、いくつなんだ?」
「百二十歳」
「百二十歳⁉ヤッター!……百二十歳⁉」
「百二十歳、小学六年生さ」
驚くことに彼女は百二十歳であり、更に聞いて驚くことに、彼女は小学六年生だった。
年上なんて次元の話じゃないどころか、僕の年齢の十倍近い時間を生きている。大差勝ちどころかコールドだ。
しかし僕からしたら好都合極まりない。
十八歳と百二十歳の交際を戒める法なんて僕は知らない——知らない。
高校生と小学生の交際を戒める法なんて僕は知らない——知らない。
僕の理性が倫理を訴えているのを痛々しいまでに感じる僕であったが、そんなものすら見ないふり。
しかしそうなるとこの場合、罰を受けるのはこの子ということにならないか?
成人した女性が未成年である僕と付き合うとなったら、罰せられるのは果たして彼女なのではないだろうか。
……。
ええい、そんなこと知るか。
たとえ彼女が収監されたとしても僕は愛を訴え続けてやる。
よもや収監されたとして、刑期を終え出所した彼女は幼さを脱して妙齢の素敵なプリティドールに変身しているかもしれないじゃないか。
それに未成年との淫行なんて、檻に放られたとしても長くてせいぜい二年くらいだろう。
仮に収監されたとして、彼女が出所した時点で僕は成人を迎えているはず——晴れて放免。
さあ、僕の心に手錠を掛けて。君の心は懲役無限
トキメキが止まらない。
ドキドキが鳴りやまない。
情熱が収まらない。
もはや僕の愛情に障害はなくなった。
この情熱を僕は、恋と呼ぶ。
この衝動を僕は、愛と詠う。
確約された永遠に、音を結ぶ。
「——それじゃあ、古今東西マル秘報告~」
「よっしゃー!よっ……ん?」
「…古今東西マル秘報告~」
…………。
…なんだ?今この場において、いったい何が起こっている?
マル秘報告?なにそれ。ん?
告白は?
「こ……古今東西マル秘報告……って、一体なんなんだ?」
「簡単だよ。誰にも言えないようなトップシークレットを告白してもらうよ。墓までなんて持っていかせない。さあ、限界の羞恥によって臨界を晒すがいい」
「そっそんな!それじゃあチューは⁉抱擁は!僕は一体どうすればいいんだ!!」
「…ガチャガチャうるせえよ……童貞…」
「…………っ…」
胸ぐらを掴まれた。高校三年生が小学六年生の少女に胸ぐらを掴まれた挙句凄まれている。
目と鼻の先とは正にこのこと。『童貞』の吐息が鼻にかかる——ちなみに無臭。
小さな顔に大きな瞳。彼女の瞳孔に僕の瞳孔の色が混ざる。
やがて瞳孔に朦朧とした僕の上半身が映った。
「さて、それではあなたのトップシークレットを教えてもらおうか。情報は金なり。ああ、ちなみに嘘はやめてよね、嘘も偽りも。本当の本物のトップシークレットを教えてくれなきゃダメだよ。嘘だと判断できた場合に加えて、つまらないことを告白した場合は罰ゲームだから」
「ば、罰っていうのは…?」
「全殺し」
「…ち、チンピラか……?」
「一つ忠告しておくけれど、マジで殺すからね」
……。
確信とまではいかないけれど、おそらくこの子は本気だろう。
僕だって本気でキスしようとしていたけれど…、この子が殺すと言ったのも、また本気なのだろう。
人形のような容姿、つまり人間味がないということで。
人間味がない故に心理がちっとも窺えない。
人と対面している、会話している状況を鑑みれば現状は全くの異質。
どこまでが本心で、どこまでが冗談なのか。
それらが全く以て理解判断まで及ばない故、現状相手側が発した言葉を鵜呑みにするしかないのだ。特にこの場合は、どうやら僕の命がかかっているらしいのだから、慎重な対応が求められる。
しかしトップシークレット……。
心当たりは、あるにはある。
だけど……言えない……。
これだけは言えない。生前の僕がたとえ寿命まで完走していたとしたってきっと、一生の不覚となっていただろう案件だ。
僕の遺骸と共に墓に埋めると心に決めていた最上の秘密、いやマル秘。
ここが墓でもあるまいし、なんとしても隠し通さなければならない。
「ここが墓だぜボーイ」
「……ッ!!」
ここで…僕は死ぬのか?
でも、僕からして死んだほうがまだマシかもしれない。
僕のトップシークレットを暴露したところで、それは僕にとって死んだようなものじゃあないか。
死んだようなものどころか憤死する可能性だって大いにある。
果たしてこれは悩むようなことなのだろうか。
いくら自問自答を繰り返したところで、暴露を果たす決心がつかないなんてことは僕自身自明でわかりきっている。
ならば一層潔く死を受け入れる決心をつけるのがこの場合、僕にとって最適解なのではないだろうか。
どの道死んでしまうのなら、せめて死に際、目の前の女の子の前でくらい格好をつけたいじゃないか。
ならば僕の選択は——
「なかなか白状しないね。ならば罰を付け加えちゃおうかな」
「罰を加える…?」
死んでしまったらそこでお終いじゃあないのか?
それか殺し方をより残酷なものにする…とか?
「首を
「さ……晒し首ならぬ晒しマッパ⁉嘘だろう…ッ!!なんて残酷なんだ!!」
「聞いて驚け。しかも首の断面を下にして、上下逆さまの状態で晒しマッパさ」
「上下逆さまで晒しマッパだとっ⁉馬鹿野郎!!一体どれだけ惨いんだ!!君は悪魔だ!!」
「契約を拒んだうえ、その悪魔を怒らせたのはあなただぜ?魂を取られないだけマシさ」
……白旗を上げる選択肢が断たれた…。
ひょっとしたら彼女は本当に悪魔なのかもしれない。
死体を剥いて逆さに晒すなんて、およそ常人の発想ではない。それも首を落とすなんて……っ。
そういえば僕と奴隷契約を結んで僕を従えようとした件についたってそうだ。
まるで悪魔そのものじゃないか。
しかし悪魔は悪魔でもサキュバスといったところか?
この子随分とスケベな性格をしているわけだし。
——いけない、こういう思考が彼女の怒りを買って、彼女を悪魔に仕立てたんじゃないか。
これ以上彼女の逆鱗をナデナデいい子いい子としていたら、今度はどんな罰をおかわりされるかわかったものじゃあない。これじゃあ僕の命がおあいそだ。
次に僕がナデナデいい子いい子するときはきちんと彼女の許可を得てからだ。
そのときはやりたい放題してやろう。
そのときまでは我慢だ、耐え忍べ、臥間寧々。
あくまで下手に出ろ、今は彼女の燃え滾る殺意を治めることに専念だ。
その行く先は天国。下心叶わず殺されてしまっても天国。
服着て死ぬか、マッパで逝くか。たったそれだけ、わずかな違い。
ならば状況に専念する以外あるまい。
憂いは唯今、説き伏せた。
恐れるものはなにもない。
人間の欲をナメるなよ——小悪魔。いや、——子悪魔。
「決心、ついたぜ。古今東西マル秘報告、やってやろうじゃねえか」
「なかなかにいい面構えになったじゃない。これから恥を晒そうって奴の顔じゃないね」
「言ってろ」
しかしいざ告白するとなったら、なんだろう、なかなか切り出しにくいものがあるな。
意図していないにしても自然、ここまで長々と引っ張るような形になってしまったがために、彼女が僕に求めるハードル、もとい僕にしてデッドラインは上りに上がっていることだろう。
そのラインを余裕で飛び越える自信はあるにはあるのだけど、如何せん一発勝負だけに緊張してしまう。成功に対しての失敗のリスクが高すぎる。
命を懸けた大勝負——あの逆境無頼たちを、あろうことか尊敬さえしてしまいそう。
無論挑戦する以外に選択肢はないのだが、最初の一歩、どう話を切り出すか。こんな風に自身のエピソードトークを披露するのに慣れていないために、もたついてしまう。
「どうしたんだい?早くしてよ。僕をあんまり待たせると死あるのみだよ」
「いいや、僕は死なない。恥を晒して生きていく。己の失敗に自身の危機を察知して、失敗を記憶し学習する。人間とは古来からそういう生き物さ」
「ほんとに死にたいの?」
そろそろ…か。引っ張るのも限界のようだ。
しかしそれもそうか。考えてみれば当たり前のことなのかもしれない。
だって、そもそもの話、彼女を怒らせたのは紛れなく僕であることは既に明白だし、なにより現在に至るここまで、彼女からすれば僕はふざけ散らかしていたようなものだからなあ。
そう考えると彼女は、僕が考えているよりずっと寛容なのかも。
初対面でこんな幼い子にキスしようとしたり、恋人になろうとしたり、抱き締めてやろうと画策したり……。ううむ…殺されても仕方がないのでは?
普通の人だったら、どれだけ安い見積もりを電卓カタカタ叩き出しても、まず間違いなく僕に強烈な一撃を見舞っていることだろう。ひょっとしたら包丁を持ち出される可能性だって大いに考えられるわけだ。
対して彼女はどうだ。自身の怒りを買った本人に拳を見舞うどころか、現状なにも干渉していないじゃないか。
僕の秘密を話すだけで、許してあげてもいいと仰っている。
しかし、誠意と内容…か。
これから僕が行う謝罪の代弁となる秘密の告白が、彼女にとっていったいどれだけの誠意と内容の詰まったものになるかは果たして定かではない。
全ては僕次第。僕の語る、謝罪次第。
語り手として、彼女が許容するに至るほどの謝罪が僕にできるかどうかなんてわからない、また語り手としての才能を試されているというわけではまさかないのだろうけど、ここは僕なりに、全てとは言えないまでも、精一杯は捧げよう。
この悪魔のように可愛らしい、女の子に。
さあ、語ろうか。本当はこの子や、今になっては懐かしさすら感じてしまう、あの講釈お姉さんのように長々と語るに耽りたいものだけど、生憎のこと、僕はそういうキャラクターではない。
それに、あまりに長すぎるエピソード話は、話のキレが落ちる。
話の切り出しなんて考えるな。オチなんて考えるな。
——居合が如く、鋭く落とせ。
バディペアは兎二角語ル シンタシカ @tacika0714
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