第4羽 生き残るすべ…それは…!!
どうしてこうなったんだろうか。
突如として大きな鳥の魔物に連れ去られることになってしまった少女、ミルは眼前ではしゃぐ子鳥たち(とはいっても人の顔よりは大きい)に戸惑うしかなかった。
ミルは小さな辺境の村に生まれただけの少女だった。けして裕福ではなかったが両親とともに幸せに暮らしていた。村には子供はさして多くなく、同い年に生まれたのは幼なじみの男の子だけだった。
ある日少女は村を出ることになる。きっかけは男の子に冒険者に誘われたことだった。
冒険者とはごく簡単に言うと、危険な魔物を狩ったり、依頼をした人の要望を達成してお金と実績を積み上げていく職業だ。
薬師のおばあさんに薬草学を、たまに村にやってくる仲の良い冒険者のお姉さんに魔法の手ほどきを受けていたこともあり、駆け出しとして問題のない実力だった少女は少し考えた後頷いた。
冒険者のお姉さんに聞いていた話だと、無理さえしなければ両親に仕送りをしてなお今より裕福な暮らしはできるし、なにより村の中で年が近いのは男の子だけであり、漫然と将来をともにするだろうと思っていたからでもある。
事実、村から出て冒険者になってみれば男の子の剣技が確かなこともあって、二人はしっかりと冒険者としての道を歩み始めていた。少女は男の子のストッパーになることも多かったが。
そして少女の薬草学の知識をいかして貴重な薬草を取りに来たのが運の尽きだった。最近は順調で油断していたのもある。
そこは帝王種という世界でもとびきり危険な魔物がいるというヴィルズ大森林の入り口の入り口の入り口だった。かなりの浅層だったので、気をつけてさえいれば問題なかったのだが目的の薬草が見つからず、あとちょっと、あと少しだけと奥へと進む内に気づけば二人の実力では危険な深さまで入り込んでしまい、帰ろうとした矢先に魔物に遭遇。
交戦するも全く敵わず、煙玉や魔物の嫌う匂いを出す匂い袋などの消耗品を湯水のごとく使い命からがら逃げ出すことになる。
ところが件の魔物がかなり執念深く、その後もひたすら追いかけ回された。
見つからないように移動する内に更に森の奥深くに入り込んでしまい、街に帰ることもできず遂には見つかってしまう。
道具もなく、精根尽き果て万事休すかと思われたときにそれは降り立った。二人では歯も立たなかったその魔物をいとも容易く仕留めて。
純白の翼に見上げるほどの巨躯、そして他を凌駕する圧倒的な覇気。
それは二人が絶対に敵わないと思わされるには十分で。
さっきまで二人が殺されかけていた魔物がまるでただの子猫に思える程の差。
あまりの衝撃に二人は呆然と見上げるしかなかった。
『……む?珍しいな、人間がこんな所に……。しかも死にかけている。……迷い込んだか』
まるでようやく気づいたかのように目を向けてくる鳥の魔物は、事実今まで気にもとめていなかったのだろう。それは油断や慢心によるものではなく、彼我の差がありすぎるが為に見落としてしまっただけであった。
しばらく動きを止めていた鳥の魔物は何かを思いついたように語りかけてきた。
『お前達の力ではどうせこのまま死んでしまうだろう。気まぐれだが救いをやろう』
「……え?」
突然のことに戸惑うばかりの二人だが、先の魔物に付けられた傷がみるみる治っていく。
「すごい……」
奇跡のような光景に二人は感激し、何度も感謝の言葉を口にする。
『ふむ、礼は良い。代わりにそっちの女を連れて行く』
感激ムードだった二人の空気が凍り付いた。
何を言われたのかを理解し、何かを言おうとしても口からハクハクと空気が漏れるだけで言葉にすることができなかった。
「は……、どう言う事だ!?」
その空気を壊して最初に口を開いたのは男の子の方だった。
『……どうもこうもない。我はお前達を助けた。礼としてその女を貰うだけだ』
先ほどまで死にかけ、恐怖に震えていただけの人間がくってかかっている。
何を思ったのかはわからないが白翼の魔物は見える変化を目を細めるだけに留め、そう返した。
「そんな……、なら代わりにオレを……!!」
『残念だが既に決めたことだ』
「クソォ!!」
破れかぶれ。既に刃こぼれが酷い剣を抜きはなって決死の突撃をするも、翼をはためかせるだけで吹き飛ばされる。
「あっ……」
地面を転がった男の子が体を起こす頃には少女は既に手の届かない上空にいた。
「そんな……」
最初に邂逅したときとは全く違った意味で見上げることしかできない男の子。そんな彼に少女をさらった魔物から魔法をかけられる。
『……それは失せ物探しの魔法だ。一度きりだが貴様が帰までの道しるべとなるだろう。効果が切れるまでの間は我の力の残滓がそこらの雑魚なら遠ざけることができる。だがこの森にこれ以上踏み込めば効果は保証できん。諦めて帰ることだ』
「そんな……、そんな……」
二転三転する現状。突然すぎて未だ状況が把握し切れていないがそれでもこの魔物が自分の意を翻す気がないことはわかった。
未だ諦め切れていない男の子に対して少女はとある決意をする。
「いままでありがとう。さようなら」
それは別れを告げることだった。少なくともこれで彼は生きて帰ることができる。少女だってすぐに殺されるわけではないだろうと思っていた。
そうでないならこの場で殺されていただろうからだ。
『……ふん』
少年は少女の背に愕然とした表情を向け、それは自分への不甲斐なさに歪む。魔物は一瞥しただけで飛び去っていった。
そうして少女は魔物に連れ去られたのだった。
それが……。
『うまい!うまいぞ小娘!!光栄に思え!この我が褒めてやろう!!』
「ピヨピヨ!!」「ピ~ヨ!!」「ピヨチュウ!!」
それがこの鳥の一家に餌付けすることになるなんて思ってもいなかった。
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