【悲報】無限に転生してきた私、遂に人類をやめる【タスケテ】
ねむ鯛
第1翔 始まりの転生
第1羽 生まれ変わったら鳥でした
信じられない……。胸の中を埋め尽くすのはその言葉だけ。
右腕を上げれば白くてふわふわしたものが目に入る。同様に左手を持ってくればそちらもふわふわでモコモコ。高級なお布団に出来そうですね、なんて現実逃避じみた事を考えてみる。
右足を虚空に向けて蹴り出してみれば、鋭い爪が付いた三本の指に、踵にはこれまたもう一本の指。
ゆっくりと脚を下ろして呆然と空を見上げれば、お尻にピコピコと動くものがあるのに気づく。広がりの狭い扇のようなものが、動く度に弱い風を作り出した。
ここに至っては認めるしかなかった。
―――私、鳥になってます!?
『うるさいぞ、バカ娘』
―――ガッデム!!
事の始まりは私が転生した時に遡ります。
■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □
――ああ、また始まってしまったのですね。
もう慣れ親しんでしまった感覚に、始まりの挨拶を心の中で紡ぐ。
『ハローワールド』と。
転生し、新しい人生を始める為の言葉。
そう、私は――――転生したのです。それもこれが一度目ではなく、何度目かもわからない程。
ハローワールドとはどこで聞いたのかはもう覚えていませんが、私が転生するたびに溢すお約束のような言葉です。私は転生を繰り返し続けています。年月にしてみれば何千年、何万年、もう数えるのも諦めたほどの長さを。
転生による新たな始まりを祝うための言葉であると同時に、終わらない無限を呪う言葉でもあります。
前世と別れを告げ、今世を精一杯生きるための決別の一言。前の人生に戻ることができない以上、なにか心の区切りを作る必要があるのですね。
……ってあれ?おかしいですね。
感覚的には目を開けた筈なのに真っ暗で何も見えない。
……まさか目が見えない、とか?
いやいやそんなまさか。それは流石にハードすぎやしませんか?
兎にも角にも、落ち着いて現状確認といきましょう。
体は……動きますね。感覚もちゃんとあります。
それに動いてみてわかったんですが、どうやら周りを何かで囲われているようです。
だから暗かったんですね。
私の目が見えない訳じゃないんですよ。
絶対……たぶん……きっと……。
さ、さあ気を取り直して脱出しますよ!思ったよりも体が動かせるので大丈夫でしょう。
――ぐぃ……ぐぃっ!
う~ん。びくともしません。ガチガチです。
残念ながら、このままこの壁みたいなものを押し続けてもらちが明かないでしょう。
まあ生まれたばかりですからね。それは仕方ありません。
狭い壁の中に押し込まれ、まさに手も足も出ない状況。
でも大丈夫です。おじい様がこんなことを言っていました。
――手も足も出ないなら頭を使えば良いじゃない、と。
なるほどなるほど、確かに理にかなっています。
手も出ない、足も出ない。でも、頭なら出る。
というわけで。
――チェストォォォォォー!!
全力の頭突きを敢行。
するとどうでしょう。ピシピシという音を出しながら壁から光が漏れ、周りが眩しくなっていく。
あまりの光量に思わず目を瞑る。どうやら目はちゃんと見えるようですね、と一安心。
そして光に慣らすようにゆっくりと目を開けると――――正面に壁が。
真っ白で、ふわふわとした不思議な壁。
――モフモフには心誘われますが、水がしみこみそうで嫌な壁ですね。機能性は微妙かも知れません。
『嫌な壁で悪かったな』
び、びっくりしました!今しゃべりましたね、この壁。新発見です。
これからはこの壁を〈しゃべる柔壁〉と呼びましょう。
『……何を言っているんだお前は、上を見ろ』
どこか呆れ混じりの声に従って上を見上げてみると。
――とても……おっきいです。
巨大な瞳と視線が合う。合ってしまった。思わずスンッと真顔になるのも致し方なし。
『ふむ……』
生まれたばかりの命を見定める様に見つめる瞳の主はそれに準ずる大きさの嘴を開く。
突然のことに3秒ほど固まっていた私は、硬直が解けると当然の行動に出る。
――えっと、私、美味しくないので、食べないでもらえないでしょうか!?
もちろんカタカタと震えながら全力の命乞いです。
■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □
生まれた時の事を思い返していれば怪訝そうに巨大な純白の鳥が問いかけてきた。
『何をやっているんだ。お前は』
――いえ、なんでもありませんよ?
自分が鳥であることを確かめるために謎の動きをしていた私は傍から見れば奇妙に映ったでしょう。
気にしないでください。ちょっと現実逃避していただけですので。
実はこの〈しゃべる柔壁〉もとい、純白の羽毛はお母様でした。先ほどの命乞いはバットコミュニケーションだったようで。
どうやら実の娘に食べないでと言われたことが割とショックだったらしく、すぐに私はめちゃくちゃにされてしまった。
――すみま……せん……でした……お母様。ガクッ……。
『フン、わかれば良いのだ』
純白の羽毛の前に倒れ伏し力尽きた私は、〈しゃべる柔壁〉もとい、お母様への謝罪を口にする。
……いえ暴力を振るわれた訳でも、変な意味でもありませんよ?
ただ、いきなり巨大な鳥のかぎ爪に優しく鷲づかみにされたと思ったら、楽しいお空の旅が始まって、バレルロールに鋭角ターン、果てには空中大車輪。
三半規管と平衡感覚とその他様々な乙女の尊厳をめちゃくちゃにされつつ、自分が母親である事を懇切丁寧に説明された。
……ええ、たったそれだけです。ええ。
ああ、思い出しただけで涙が……。
それにしても……、と再び自らの腕、もとい羽を持ち上げてみる。そこに現れたのは人の腕ではなく母と同じ純白の翼。
見上げた先にあった巨大な瞳の持ち主は母で、その正体は巨大な鳥。私が壁だと思っていたものも自分が入っていた卵だった。
今世は人ではなく、鳥ですか……。
実のところ私は幾度となく転生を繰り返してきましたが、人類以外の種族になったのは初めてなのです。数多の種族として生きて死にを繰り返してきましたが、そのどれもが二足歩行で五本の指が生えた、手を持ち言葉を解する、まさに人類だったのです。
まあそこに、背に翼があったり、尻尾があったり、角があったり、ケモミミがあったり、etcですが誤差の範囲でしょう。
何より問題なのは手がないから物が持てないということ。今になって五本の指に愛おしさを覚えます。人は失ってから大切なものに気づく愚かな生き物なのです。ああ、マイハンドよ……、帰ってきておくれ……。
「ピヨッピヨッ!」
「ッピヨピヨ」
『そうか、腹が減ったか。食事を取ってこよう。お前達、巣からは出るなよ?他の魔物に食われて死ぬからな』
無くした手を偲んで黄昏れていると、頷いたお母様はバサリとその美しい翼をはためかせて飛んでいってしまいました。
ああ、なんと言うことでしょう。今のお母様の発言を鑑みるにどうやらここは安全ではないようです。
詳しい話をお母様に聞こうとしても、既にみえる範囲にはいません。早すぎますよ。
そうやって途方に暮れていると側できれいな声……というか鳴き声がかけられました。
「ピヨッ」「ピヨヨ?」「ピヨチュウ」
……なんだか一部不穏な鳴き声が聞こえましたが気にしないことにしましょうそうしましょう。
この鳴き声の主は私ではありません。
私の弟妹です。どうやら私とお母様が楽しい楽しい遊覧飛行を楽しんでいた時に残りの卵から孵っていたようなので、子の孵り目(?)に会えなかったのが悲しかったらしく遊覧飛行の時間が追加されてしまいました。
思い出したら楽しすぎてちょっとお腹から熱い物がこみ上げてきますよ。うッ……。
ふう。それにしてもお母様が最後に「魔物がいる」って言っていましたが……。
そんなに危険な場所なんでしょうか。平和な場所に見えるんですが。
巨大なお母様が巣を構えることができるだけあって、ここは下手な高層ビルよりも高い大樹です。高さは抜きんでていて圧倒的。世界樹とでも呼ばれてもおかしくないような巨大な木です。おかげで視界を遮られづらく、周りを見渡すことができます。
ほら、あっちの山なんてとってもきれいです……し?
――ズズズ……
あれ?おかしいですね。鳥に産まれて目が変になってしまったのかもしれません。
あの大きな山が動いたように見えたので……。
ははは、まさか……ね?
嘘でしょう!?あれ、生き物なんですか!?あんなのが来たら今の私では死んじゃいますよ!
これは緊急事態です。エマージェンシーです。仕方ありませんね。私、今世は最初から自重無しで行こうと思います。
とりあえず、現状確認は急務です……!
まず私について。
最初の記憶は人間の女性だったときのものから始まります。名家の娘として生まれて人生を終え、気づけば赤ん坊に。
その後死しても幾度となく転生してきて今に至ります。
今までの生では性別は皆女性。男性になったことはありませんでしたし、この体に性別があるなら恐らく女性でしょう。……雌とか言わない。デリカシーがありませんよ?
とはいえ今までは全ての生において人類に転生してきました。今世のように人外に転生することなどなかったのですが、どうしたことでしょうか……。
ステータス
名前:なし 種族:スモールキッズバーディオン
Lv.1 状態:普通
生命力:30/30
総魔力:15/15
攻撃力:10
防御力;7
魔法力;6
魔抗力:7
敏捷力:20
・種族スキル
羽ばたく
・特殊スキル
・称号
輪廻から外れた者・魂の封印
おお、ありましたねステータス。無い世界もあるので、どちらかなと思っていたんですよ。
まあ無かったら無かったでやりようはあるんですけど。
まずステータスとは自分の現状と強さをはかるための指標のようなものですね。
とはいえあくまで目安のようなもので、絶対のものではありません。ステータスとは世界が管理しているシステムの一つなのですが、現状を総合的に評価して数値に直しています。
例えば、攻撃力10の人が攻撃力15の人に腕相撲で勝つこともありえます。これは先ほどいったように、攻撃力につながるものを総合的に評価しているからです。攻撃力15の人は腕相撲で攻撃力10の人に負けたけれど、その代わり腹筋や背筋、スクワットでは圧倒できると言った具合です。
それにしても数値が低いですね。比較対象がないので強いか弱いかはわかりませんが恐らく弱いでしょう。
まあ生まれたばかりですからね。お母様のステータスでも見ておけば良かったかな……。
次にレベルとはその人物の成長具合を表すもので、いろいろな経験を積むと上がっていきます。これは世界のシステムから与えられた補助輪のようなもので、生き物が強くなるのをサポートしてくれています。私は知らないのですが、これにはなにか目的があるそうです。
とりあえずそれは置いといて、スキルについて。スキルとは得意な行動や特殊な能力を名前として、ステータス上に示したものになります。これも目安のようなもので、同じスキルを持っている人でも訓練具合で効果量に確実に差が出ますし、スキルの効果内でさえ、得意不得意が現れます。
そして本命のスキル「
この能力は私が二度目に生まれた時からの付き合いになります。
わかっているのはこの能力のせいで転生が起きること、そして過去に送ってきた人生から力を引き出せることの2つですね。
それよりも称号に不安な事が記載されているんですが。
「輪廻から外れた者」はもう何度も見たことがあるので問題ありません。その名の通り、純粋な輪廻から外れちゃった人に生えちゃう物です、はい。
「魂の封印」これです。嫌な予感がバンバンするのですがどうしたものでしょうか。
「ピィヨ」「ピヨーン」「ピヨチュウ」
……あなかま。
あなかまとはとある国の古い言葉で意味は「しっ!静かに!」。
ともかく……。
ソウルボード!
―― ソウルボード ――
コア:スモールキッズバーディオン
・メイン:
サブ:
サブ:
サブ:
サブ:
サブ:
――――――――――――――――――――――――
ソウルボードとは私が得た前世の力を行使するために必要な、もう一つのステータスのようなものです。
『コア』は現在の私の種族になります。これは生涯変更することはできない生まれ持った種族のことです。
『メイン』と『サブ』は前世の種族、例えば『人族』や『エルフ』などを設定することができ、その力を引き出すためのスロットのようなものですね。ここに装備することで始めて前世の力を行使できるのですよ。
――種族は持ってるだけじゃ意味がないぞ!必ず装備しないとな!
……なんだか変な電波を受け取ってしまいましたが気にしない方向で行きましょう。
とはいえ記憶がなくなるわけでは無いので経験に基づいた行動はとれます。計算なんかが良い例ですね。
それと『サブ』に種族を設定した場合は残念ながら、能力値の発揮量は約4割に落ち、種族固有の能力やスキル補正なども7割程に下がってしまいます。『メイン』ならばなんと100%力を発揮できます。
この前世の力を引き出すソウルボードを使用して『メイン』と『サブ』に設定する種族を、身体能力に寄せたり、魔法技能に寄せたり、万能型にしたりと非常に応用が利かせることができるのです。まあ前世が弱々だったら設定した種族も相応のものになるので次に活かすために修練は欠かせないんですけどね。
と言うわけで私はこのチートと呼べるレベルの反則能力が使えるのです――――が。開いたソウルボードが全く反応してくれません。うんともすんとも言いません。種族が設定できません。
……………………。
なんでぇぇぇぇえええ!?なんで機能停止してるんですかねぇ!?
……嘘でしょう?こんな危険地帯で生まれたての雛状態で過ごせと?
今の私のスキルを見てくださいよ!『羽ばたく』ですよ!?何が起きるか見てみますか!?
ひな鳥は『羽ばたく』を使った!
バサッ!! バサッ!!
しかし何も起こらない!
ほらぁぁぁぁぁあ!!某コイの王様と一緒じゃないですか!!
これでどうやって生き抜けと!?
これも十中八九称号にある『魂の封印』のせいでしょうね!誰ですかホントにもう!こんな迷惑な封印をしてくれやがった奴は!!
……ところで何で自然界の動物が子供をたくさん産むか知っていますか?1匹や2匹減っても種が途絶えないためらしいですよ。
……気づきました?そう、子供は減ること前提なんですよ。……うぅ、お腹痛い。
「ピヨ」「ピッ」「ピヨチュウ」
……あなかま。
現状に絶望していてもしょうがありません。
目下の目標は自分の強化です。強くならないと生き残れません。
それに、大切なひとを守りたいと思ったときに弱くては後悔します。失わない為にも、強く……!!
そう決意したところで頭上に影が差した。
すわ敵か!?と思いましたが羽ばたく音とともに降り立ったのはお母様でした。
『お前達、食事だ』
「ピヨヨ!!」「ピヨッピ!!」「ピヨチュウ」
捕獲してきた獲物を弟妹達に見せると歓喜を滲ませてうれしそうに鳴いています。
お母様は皆に持ってきた獲物をちぎって食べやすいように渡していきました。
『……どうした。お前は食べないのか?』
「ピィ(ええと……)」
そこで後ろの方で躊躇していた私に気づいてしまったようです。
いや、遠慮とかでは無いんですよ?
その……お母様が持ってきた獲物なんですが、足が6本ありまして……。ええ、そうなんです、虫なんです。
まだ動物ならばなんとかなったのですが虫は流石に……。しかも私よりも大きいですし。本格的に危ないなぁここ。
「ピヨ……(虫はちょっと……)」
そう言った瞬間、お母様の目がキュピーンと光りました。
……嫌な予感がするんですが。なんで私を、獲物を見つけたぜ!みたいな目でみてるんですかねぇ。
『ほう?お前は私が出したものが食えんというのか?』
ああァァァァァァァーーーー!?なんでそんなパワハラ上司みたいな事を言うんですか!?あなた人間じゃ無いでしょう!?
『ほら、食わんと大きくなれんぞ?』
「ピッ!!?(あっ!?やめ……ちょ、あ”ぁ”ぁ”!?)」
この後めちゃくちゃご飯を食わされた。
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