第3羽 招いちゃったけど来て欲しくなかった客
あれから体感で一週間が経ちました。
お母様に助けて貰った後、私は疲れと怪我から一日中泥のように眠ってしまいました。
助けることができた妹は奇跡的に傷一つなく無事。私は結構な怪我を負っていましたが、魔物の回復力のおかげか今ではもう体に問題はありません。
目が覚めたその日にはお母様も良くやったと褒めてくれましたが、同時に叱られてもしまいました。
曰く『我が不在の中、よく妹を無傷で守り切ったな。お前は自慢の娘だ。だが我はお前が傷つくことも望んでいないことをよく知っておけ。今回は致し方ないとはいえ……もう無茶はするなよ』と。
あの時、普段の傲岸不遜さが嘘のようにナリを潜めたお母様の態度は、私への心配から来るものだと理解できました。だからこそ、わかったと頷いた時、硬かったお母様の表情が柔らかくなったのを心苦しく思う。きっと必要となれば私はまた同じ事をするでしょうから……。
―――わっ!?
そんな暗くなった感情を吹き飛ばすように、あの日自由落下から救い出した妹が突撃してくる。というか物理的に吹き飛ばされましたが??
抗議するように送ったジト目も、地面に押し倒された私の上で楽しそうにはしゃぐ妹を見れば、緩くほどけていくと言うもの。かわいいからしょうがない。かわいいは正義、偉い人もいってました。
弟妹達も育ち盛りなのか、最近では頻繁にじゃれついてきます。この子ほどではありませんが。
落下事件の影響で止めるかと思いましたがそんなことありませんでした。じゃれついてくる弟妹達に対抗するようにこの子がさらに突撃して、それに対抗するように他の子も突進してきます。なんて負のスパイラル……。
かわいいのは結構ですが、ちょっと勘弁してください。お姉ちゃんはもうバテバテですよ……。子供の体力には着いていけない……。
……虫を食べることにも慣れてしまいました。人間慣れるものですね。その代わりに色々と失ってしまいましたが。……乙女の尊厳とか。
お願いしてみたら虫だけで無く動物や木の実も持ってきてくれるようになったんですけどね。
おかげでなんとか生きて行けています。それでも定期的に虫はもってこられるんですが。私が嫌がってるのを見て楽しんでいる節もあるんですよね、あのお母様。単純にからかっているという感じなんですけど……。貴女はこどもですか……。
まあ私の事を大切に思ってくれていることも確かなので、憎めないのですけれど。
それとどうも強い魔物が巣の近くに寄ってこないようなんですよね。どうやらお母様はかなり強い魔物らしく、他の魔物の大多数は本能的に巣を危険地帯と認定して避けている様です。
一度だけワイバーンのような翼竜が襲ってきたのですが瞬殺されていました。
翼を一振りしただけでおしまい。哀れな翼竜は無数の羽が剣山のように突き刺さって撃墜されてしまいました。あ、もちろん遺骸は私たちで美味しく頂きました。火が使えなかったので生でしたが……。
美味しいものが食べたい……。
巣から不用意に出ることも出来ないので今は『羽ばたく』を使って体を動かすか、弟妹達の相手をする事で自らを鍛えることしかできません。無茶するわけにもいきませんし。……なんですか? 私だって好き好んで怪我したいわけではありませんよ?
……おっと。そうこうしているうちにお母様が帰ってきたようです。
今日は果物があると良いなぁ……。
『お前達、帰ってきたぞ』
バサリと降り立ったお母様が捕獲してきた獲物を地面に下ろしました。ふむ、今日は動物と木の実が少々ですか。当たりですね、良かったです。
『それと面白い土産があるぞ』
ほうほう、なんだかかなり上機嫌ですし余程良いものを見つけてきたのでしょう。
一体何なんで……しょう……か?
「ひゃう!?」
腕が二つに足が二つ。仕立てられた布を身につけ、肌には毛も無く羽毛も無く鱗も無い。まさに肌色。
お母様が放り投げたそれは巣に落ちるとかわいらしい悲鳴を上げました。
『人間だ』
はい、人間ですありがとうございました。
えぇ……、ホントこれもうどうしよう……。
「えっ……、えっ!?」
未だに状況がわかっておらず、慌てて辺りを見渡す女の子を見つめながら内心で頭を抱える。
現状で考えられる、お母様がこの子を連れてきた理由は大まかに3つ。
1:単純に見つけたから。理由は特になし。
これが一番平和な理由。でも恐らくあり得ません。いやでもお母様ならある……?
2:ご飯として連れてきた。
マジムリ。流石に食べられません。困りますお母様。
3:狩りの練習用
これが大本命。そして一番むごい結末。別名パワーレベリング。
パワーレベリングとは自分より強い味方に手伝って貰って、お膳立てされた安全な中で相手を倒し経験値を稼ぐ方法です。
ただでさえレベルがある世界なんだから生態系の中に組み込まれていても不思議では無いでしょう。
つまり私たち全員がこの子をいたぶることになる。私はともかく、まだ狩りなどしたことも無く技術はつたない弟妹たち。それこそすぐに仕留めることができずに、無駄に傷を負わせ、なかなか死ぬこともできない地獄の苦しみを味合わせることになるでしょう。
元人間として流石にそれは許容できない。しかし私はまだ子供。お母様にお許しいただけるかどうか……。
『ほら、しばらく好きにして良いぞ』
ッ!!なら!
お母様の言葉で不穏な空気を感じたのか、慌てて逃げだそうとした女の子の足下に潜り込み、足を狩って羽を使いなるべく優しく地面に転がした。おまけに逃げ出さないように踏みつけて。
「むぎゅ……!」
……ごめん。許してください。
さて……
「チチチチチ?(お母様、これ気に入りました。私に譲ってくれませんか?)」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます