第5話

 白かったスニーカーが、土まみれの姿で発見された。どうしてこんなところから出てきたんだ? じいちゃんが植物とまちがえたのか? 


「おおおおお⁇⁇」

 

 じいちゃん、大混乱。そうだよね、宝物で宝探しされたら、いやだよね。花と靴の違いもさすがにわかるよね。


 一体何事? と父さん、母さん、姉ちゃん、タクミがダイニングに集まって、家族大集合だ。ぼくは全員に向かってスニーカーを見せつける。揃いも揃って、目を丸くした。……じいちゃん以外。


 その中で一人だけ、やばいと目を伏せる。犯人わかったかも。


 ぼくは状況を説明した後に、一人ずつ目を合わせて、「埋めた?」と質問した。姉ちゃんに関しては、「ちょーウケる」とずっと笑っている。


 順番に観察すると、やっぱりアイツの様子がおかしい。


「タクミ」

「なーに、にぃちゃん」

「これ、埋めた?」

「ううん、やってない」


 タクミの目線が右上に動いた。嘘をついているときの仕草だ。


「本当に?」

「ほんと」

「正直に言ってみ?」

「いってるもん‼︎ ばーか‼︎‼︎ ブス‼︎‼︎‼︎」


 はい、タクミで確定です。逃げ場がない状態になると、タクミは口が悪くなる。ちびっ子の語彙力で一生懸命に暴言を吐くんだ。それはここにいるみんなが知っている。


「ブス! デブ! ……ううう、わあああん」


 どうしようもなくなったタクミは、朝っぱらから大粒の涙を流して大絶叫。


「怒らないから、そんなことをした理由を教えて」と母さん。

「だって……」


 タクミはうつむきながら、しぶしぶ口を開いた。


「にぃちゃん、タッくんのゼリーを食べたんだ。昨日しゅくだいがおわったら食べようってたのしみにしてたのに……。もうにぃちゃんなんてきらい! と思って、夜中に目がさめたときに……その……」


 沈黙が流れる。誰もがタクミの話に耳を傾けていた。


「……バラバラにして、埋めようって思って」


 ドッと笑いが起こった。父さんも母さんも腹を抱えている。特に姉ちゃんは堪えていたものが大噴火して、引き笑いになっていた。じいちゃんはキョトンとしてから、とりあえず周りに合わせて微笑んだ。


「バラバラにして埋めるってのは、ミステリーとかサイコホラーで聞くワードじゃん。マジかよ、埋めるって思考回路が謎すぎる」

「食べ物の恨みって怖いんだな、ね、母さん」

「本当にそうね」


 この人たち、変なエンタメよりも面白いと思っていやがる。でも、そのおかげでぼくは頭に血が上らずに済んだ。なんか冷めちゃったんだ。


「タクミのゼリーを食べたのは悪かったよ。今日買ってくるから」

「いいの? やったー! タッくんこそごめんね。にぃちゃんすきー」

 

 この単細胞め、と思いつつ大人な対応のぼく。


「見つかったんだし、さっさと学校に行きなさい!」


 母さんに言われて、玄関でスニーカーを履く。土の水分で湿っていて、自然の香りもする。学校用は二足とも洗ってから使うのがいいかも。


 結局、ぼくが選んだスニーカーはハイカットスニーカー。それなら最初からこれを履いて登校すればよかったのに、と思われるかもしれない。


 でも、いいんだ。生徒指導室に呼ばれたら、家族に事情を説明してもらおうっと。


 時間は8時20分。このままだと5分遅刻だ、急がないと。全速力で走れば間に合うはずだ。


 ぼくは靴紐をギュッと結び直し、ドアに手をかけて叫んだ。


「行ってきます!」


「行ってらっしゃい!」

 



 

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スニーカー失踪事件 至 香軌 @koukiitaru

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