第4話
8時になった。走れば15分で学校に着くはずだから、まだ15分は探せる。
姉ちゃんと父さんは白。母さんとタクミは知らなそうだし、白でいいかな。となると、残るは……。
定位置に座って、母さんに出されたお茶をすすっているあの人だ。ぼくはダイニングに戻った。
「じいちゃん!」
「んー?」
大きめの声で呼ぶと、じいちゃんは珍しくこっちを向いてくれた。
「ぼくの靴さ、じいちゃんがどっかにしまった?」
「んー?」
「学校の白い靴! なくなったんだよ!」
「んー?」
……だめだ、らちが明かない。聞こえてないや。ぼくはガックリ肩を落とす。じいちゃんとの意思疎通が取れなければ、あの靴とはもう会えないだろう。
あーあ、雨が降った日の次の日は、毎回ド派手スニーカーで登校することになっちゃうんだろうな。それで毎回、
あ、梅雨の時期はどうしよう。やっぱりもう一足あったほうがいいな。学校から母さんに買ってほしいって頼んでみよう……。
靴探しは諦めて、玄関に向かおうとしたその時、
「ベランダに、! サンダルが出てますけど、! これからお花のお世話しますか⁉︎」
洗濯カゴを持った母さんが、じいちゃんの耳元で大きく低めの声で尋ねた。
「おお……サンダルって、つっかけか?」
「そうです、! これから洗濯物を干しても、! いいですか⁉︎」
「はい、いいですよ。今朝つっかけが見つからなくて、不思議だなあと思ったら……出したままにしていたのか、すまんのお」
じいちゃんとスムーズな会話ができている、すげえ。
じいちゃんは朝食を済ませると、玄関からいつも履いているベージュサンダルを持ってきて、ちょっと広めのベランダで日光浴をする。プランターの花に水をあげて、満足そうに微笑んでいるのだ。じいちゃんがかわいがっている花が何なのかはぼくにはわからないけど、プランター3つをきれいに並べてメンテナンスしているから、すんごく大事なものなんだと思う。ちなみに昨日は、近々新しい花を植えるために新しいプランター2つに土を入れていた。
「もしかしてぼくの靴も置いてあった?」
と聞くと、あんたのはなかったよ、と言うように母さんは首を横に振った。自分の目で確かめてみても、ベランダには母さんの洗濯物を干す用のダサいピンクのサンダルしかない。
心が折れた。何でなくなったんだよ。もう、どうにでもなれってんだ。
……って、あれ?
「あんなに土盛り上がってたっけ?」
ベランダの端っこに置いてある、何も植えられていない2つのプランター。昨日は土が真っ平らだったはずなのに、今朝は山が一つずつできている。嫌な予感がした。
こんなことをしている場合ではないのはわかっている。でも、掘らなきゃいけない気がしたんだ。
「じいちゃんごめんね‼︎」
ぼくは靴下のまま外に出て、プランター横のスコップで両方の山を崩した。
「ちょっと! あんた何やってんの⁉︎」
「宝探し!」
すぐに、スコップの先端に何かに当たる。掘り起こされたそれは……。
————ぼくが探し求めていたものだった。
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