横たわる猫

無天童子

理髪店に行く道すがら

 理髪店に向かう道すがら、ふと猫が横たわっているのが目に入った。

 それは用水路のような暗渠を覆うための冷たい赤褐色の鉄板の上、

 転落防止のガードレールの傍で動かずにいた。


 いや、目に入ったと云う表現は正確ではないだろう。

 否が応でも、目が吸い寄せられたと云うべきか。

 通りがかった人が見ると、パッと見では眠っているかもしれないと思うだろうか。否、到底そうは思わないであろう。


 そう思う根拠となる、変わった点が一つだけあった。

 俗な言葉で謂うと、目がガン開きになっていたのである。

 人間の死亡の是非を確かめる時に用いられる瞳孔の散大とは、このような状態のことを謂うのであろうか?


 それは、生きている猫よりも圧倒的な存在感を放っていた。

 それが眠っていないことが、ありありと伝わってきた。

 外見上、目立った傷跡など見当たらないにも関わらずだ。

 それ程までに、圧倒的な存在感を放っていた。


 帰途でも、その道を通って手を合わせた。

 後にも、猫の亡骸を何度か見ることはあったが、この時ほど強烈な印象を残したものはない。口から内臓が1~2m程も飛び出て、カラスが集まっているようなものや頭部がよじれて、無残な姿になっているものも見たのだが、それでも……この時には及ばない。あれよりも、明確に死を伝える亡骸は見たことがないのだ。


 その猫を見てからもう数年が経過しているが、今でも、その時のことを鮮明に覚えており、ふとした時に思い出すことがあるのだ。


 そして思う、死とは……生のすぐ隣にあるということを。

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横たわる猫 無天童子 @muten-douji

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