第15話 面白いことになった

(この臭い……何度来ても慣れないなぁ……)


 着替えを終えて、スィピィネの住処へと訪れた義姉妹。

 口元を覆いながら、見慣れた住処の中をマリーチルが歩いていると、その

前方を歩いていたスィピィネが立ち止まり、2人へと声を掛ける。


「今回はこの部屋を使うよ」


 スィピィネが正面にある部屋の扉を開けてその奥へ入って行くと、彼女の後に

続いて義姉妹も足を踏み入れた。


「……!?」


 2人の視界に映ったのは、硬質な材料などで周囲の壁や床が念入りに補強された

部屋の内部。

 牢獄や監禁部屋を思わせるその冷たい部屋を見て、義姉妹がそれぞれ口を開く。


「これは……」

「入ったら出られなくなりそうな部屋だね……」


 部屋の様子を困惑した表情で見回す義姉妹に対し、スィピィネは険しい顔で

2人へと言葉を返す。


「そんな悪趣味な目的で用意している部屋ではない」

「……これだけ頑丈にしておけば、そう簡単にここが吹き飛ぶことも

ないだろう、私の住処が無になるのは勘弁してもらいたいのでな」


「私たちにそんな危険な術を使わせるの……?」

「危険かどうかは、試してみないと分からないのでね」


 言いながらスィピィネは、部屋の隅にある台へ置かれた一冊の魔書を

手に取ると、それをマリーチルへと差し出した。


「その術についてはこれに記されている」

「見ての通りの古いものだが、そのような類の文字を読むのは君の方が得意だろう」


「うん、仕事だからねぇ……」


 そう言葉を返し、スィピィネの手から受け取った魔書を真剣な顔つきで

読み進めるマリーチルであったが、次第にその顔を疑問の表情へと変えて

スィピィネに問い掛ける。


「これ、魔書というか日記みたいだけど……?」

「そこから少し後の話に、ある術のことが書かれているのだ」

「少し後……? あ、これか!」


 目的の話を見つけたマリーチルは、魔書の内容に目を凝らしていたが、再び

スィピィネへと疑問の声を掛ける。


「〈面白いことになった〉って、どんな面白いことになるの?」

「それが気になるから試すのだよ」


「日記を見る限りでは、禁術を面白がって使うような頭がおかしい感じの

子ではなさそうだけど……早速試してみる?」

「その前に、念のため君たちの身体について調べさせてもらう」


 スィピィネがそう告げた後、彼女の身体から放たれた魔力が義姉妹を

包みこんだ。


 「……巡る魔力はほぼ同じ……体型もほとんど一緒みたいだな」


(血縁のある姉妹ではないのが不思議なくらいだ……)


 自身の身体から伸びた魔力の中にいる2人を見据えながら呟くスィピィネの

言葉に、義姉妹が答えるように口を開いた。


「私、アズリーの服も着られるし、逆にアズリーも私の服が着られるからね」

「実は私たち、お互いの服を交換して出掛けたことがあって……」

「君たち……そんな事をしていたのか……」


 スィピィネは2人を包んでいた魔術を解くと、中から解放された義姉妹に

再び声を掛ける。


「魔力の調和については君たちの感に頼るとして、これで君たちが

その魔書に書かれた条件と一致する存在であることが確認できた」


「それじゃあ、もう始めちゃっていいのかな?」

「ああ、よろしく頼むよ」


 マリーチルは持っていた魔書をスィピィネへ返し、アズリッテと共に

部屋の中央に歩き出すと、2人は向かい合う位置へと立った。


「私はマリーちゃんと同じようにすればいいのかな?」

「うん、じゃあ最初は……手を繋ぐよ」


 その返事にアズリッテは自身の手をマリーチルの前へ差し出すと

マリーチルもアズリッテの手を軽く掴む。


(アズリーの髪、くるくるしていてお洒落だなぁ……)

(マリーちゃんの髪、癖がなく整っていていいな……)


 それぞれの視界に大きく映る姉妹の姿に、2人が別の

思考を巡らせていると、そんな様子を見ていたスィピィネが

疑問の声を上げる。


「君たち、あまり集中ができていないようだが……大丈夫か?」

「ごめん! 大丈夫だよ!」

「すみません!」


 苦い表情で問い掛けるスィピィネに、義姉妹は慌てて言葉を

返すと、マリーチルはアズリッテに次の話を切り出した。


「後はお互いに魔力を送りあって調和させればいいだけみたい」

「わかった、送り始めるね?」

「うん、お願い」


「…………」

「…………」


「……ちょっと弱かったのかな?」

「……もう少し強くしてみようか」

 

(息の合った行動と互いに対する直観力……さすがは仲睦まじき姉妹だな)


 穏やかな声を上げつつも、真剣な態度で魔力の調和に取り組む

2人を感心の眼差しで見据えるスィピィネであったが、そんな彼女の

視線の先で突然、義姉妹の身体が輝きだした。


「……!?」


 その見慣れない変化に3人が驚きの表情を浮かべていると、マリーチルが

慌てた口調で声を上げる。


「え!? 大丈夫かなこれ!? 爆発とかしないよね!?」

「そのような作用は起きていないし、極めて魔力も安定しているが……」


「アズリー! 大丈夫!? 痛かったりしない!?」

「わ、私は大丈夫……! マリーちゃんも何かあったら……」


 アズリッテが言葉を言いかけた瞬間、互いの姿を目視できないほどの

強烈な光が視界を遮った。


「アズリー!」

「マリーちゃん!」


 眩い光の中、己の姉妹の名を同時に呼び合う2人の魔女。

 その声と共に一層強くなった魔力の光は、義姉妹を取り込むように

広がっていた。

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Dual-Duet ~気高き魔女の二重奏~ 小本 由卯 @HalTea

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