第14話 双子が記した魔術

「今度こそ、やっと戻ってきたぁ……!」

「すみません……まさか待たせていたなんて……」


(早く戻ってきて良かった……流石にあの本の量は出直す必要があったよね……)


 資料館での用事を終え、無事に魔女の国へと戻って来たアズリッテ。

 戻るなり、すがりつくような態度を示すスィピィネに対し、困惑の表情を

浮かべていた。


「それじゃあ無事にかわいい姉妹が揃った所で早速、私の家に来てくれ!」


 そう言いながらスィピィネは両手でそれぞれ義姉妹の腕を掴むと、2人を

引きずりような勢いでその歩みを進めた。


「ちょっと待って!」

「うわぁ!」


 その行動に対してマリーチルは力強い声と共に掴まれていた腕を引き

寄せると、スィピィネが驚いた声を上げながら立ち止まった。


「その前に、私たちに何をさせるのか説明してよ」

「そうだった……申し訳ない、つい浮かれていたよ」


「実は、かなり昔に手に入れた魔導書があったことを思い出してね、キミたちには

そこに記された魔術を使って欲しいのだよ」

「…………」


 スィピィネの答えを聞いたアズリッテが、複雑な表情を浮かべながら問い掛ける。


「以前からお話しているように、私はそのような直接的な魔術が使えない体質

なのですが……」

「もちろんそれは分かっているよ、この魔術に必要なのは妹ちゃんの内に秘めた

魔力とその身体だよ」


(……え? 身体……?)


 その言葉に苦い表情を浮かべるアズリッテの隣で、同じように話を聞いていた

マリーチルが険しい顔でスィピィネへ問い掛ける。


「アズリーに変なことはしないでしょうね?」

「変な誤解をしないでくれ!」


「……私が使って欲しいのは、ある双子の魔女が生み出したとされる魔術でね、その

魔導書を手に入れた当初はまだキミたちと出会う前だったから、私には無縁なもの

だと思ってそのまま忘れていて……それで昨日、ふとそれを思い出した時にキミたちの顔が浮かんだのだよ」


 ここまでのスィピィネの説明を聞き、その事情を察したマリーチルが口を開く。


「つまりはその術を使えるのが、これを生み出した双子の魔女と同じような

気高い魔女姉妹だけということ?」

「気高さは関係ないと思うが……話が早くて助かるよ」


「それで私たちが戻るのを待っていたんですね……」

「その通り! 現状でこの魔術を使える条件に当てはまる魔女が、キミたちしか

いないのだよ」


「私たちにしか使えない魔術と聞いてしまうと、確かに魅力を感じるものは

あるけれど……」

「そうだろう! だから早速試してみよう!」


 義姉妹の言葉に、スィピィネは嬉しそうな声でそれぞれに言葉を

返すと、再び2人の腕を掴んだ。


「ちょっと待ってったら!」

「まだ何かあるのか!?」


「先に着替えだけさせて」

「あの魔術に衣服の条件はない! 終わったらすぐに解放するから早く来てくれ!」


 まさに待ちきれないといった態度で、義姉妹を自身の家へ連れようとする

スィピィネに対し、マリーチルは膨れた顔をしながら声を上げる。


「嫌だよ! 服にあの部屋の悪臭が付いたらどうするの!」

「悪臭って……何もそこまで言わなくてもいいだろう……」


 マリーチルの鋭い言葉に落胆するスィピィネ。

 そんな彼女を見て、アズリッテが穏やかな声で口を開く。


「……少しだけ待っていて下さい、すぐに着替えて来ますから」

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