「悪魔を飼う」




 静かに雨が降る夜のこと、君が「飼ってもいいかな?」と後ろに隠していたのは、いや正直大き過ぎてまったく隠れてはいなかったけれど……


 悪魔なる生物だった。


 悪魔の一種であることは間違いない。だってつるりとした頭に短くも鋭い角があるし、コウモリのような翼が背中に生えている。

 何やら落ち込んでいるようで膝を抱えて小さく座ってはいたが、まがまがしい見た目ゆえ同情を誘うのはちょっと無理がある。


「餌が分からないと、ちょっと…」


 さりげなく断ろうとしたつもりが、君は「大丈夫だよ」と明るい表情で悪魔の頭をなでながら言った。


「この子は死を食べてくれるの」


「死って…」


「この子はね、人が死んだ時に迎えに来る死神を食べてくれるの。だから役に立つでしょ? 飼ってあげてもいいでしょ?」


「いや、うーん」


 なかば君に押し切られるようにして、悪魔と僕らの同居生活が始まったわけだが、君の後頭部がよく見ればひしゃげた形になっていて、傷口はくっついたようではあるけれどいびつなままであるのはどういうわけなのだろう。


 君はもしかしてあの雨の晩に本当は…?

 そうしてその悪魔に捕まってしまっただけだったのかな…?



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即興短編集〜薄味〜 浅瀬 @umiwominiiku

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