「アリスといえばうさぎ」
うさぎがデッキの上を跳ね回っていた。
食糧にと島から連れてきたはずのうさぎだったが、情がわいて殺せなくなってしまい、ためらっているうちに続々と増えてしまった。
「いまにこの船はうさぎの船になるよ」
呆れたように針崎が言って、うさぎが海に落ちないよう、網でデッキを囲もうとしている戸倉を見た。
「いまや俺たちより多いもんね」
戸倉は無邪気に笑う。
嫌味が通じず、針崎はふてくされたようにそっぽを向いた。
「だけどうさぎがいてよかったよ。そうじゃなかったら、あの人らがいなくなった後、この船が落ち着いていられたとは思えない」
「さあな……別にどうとでもなったかもしれないけどね」
「うさぎが好きでよかったよねえ」
にこりと笑う戸倉はうさぎを抱き上げて、長い耳にキスをする。
島の孤児だった戸倉や針崎たちは、船での雑用のために戦艦「アリス」に乗り込んでいた。
最初の大しけのときに船員たちでトラブルが起き、2人が1人を船から突き落とした。
問題解決のために船長が、加害者も船から突き落とす、とした。
孤児たちはなにかと濡れ衣を着せられることが多く、この時も戸倉が指さされ、犯人に仕立て上げられるところだった。
うさぎの世話をしていた戸倉は、襟首を掴まれて引き摺り出され、あわや船から突き飛ばされそうになったところ、「アリス」の逆鱗に触れたらしい。
他の船員たちの方が、弾き飛ばされるようにして海に落ちていった。
「アリス」はうさぎが気に入っていたのだ。
そのうさぎを世話する戸倉の方を、他の船員たちより重んじた、ということらしい。
「うさぎが好きでよかったな」
針崎に言われ、戸倉は首を傾げる。
「ぼくが?……アリスが?」
針崎は答えなかったが、どたどたと足元をうるさく跳ね回るうさぎ達を蹴飛ばさないように、そっと歩くのに戸倉は気づいた。
戦艦アリスとうさぎたちと共に、戸倉はずっと海の上で過ごすのも悪くないと思い始めていた。
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