第二章.最高の仲間

第1話 始まりの予感

C級に上がり二か月ほどが経過した。

C級になったぐらいには冬真っ只中だったが、二か月も経つと、冬ももう終わりを告げそうになっていた。

街を歩いてみると、桜やタンポポを始めとした春らしさを持つ花々が至る所に咲いており、町を見事に彩っていた。

銀世界から少しずつ彩りが戻ってきた影響からか、街も前来た時と比べ人通りも多く活気があった。


「もう、そんな季節かぁ」


手のひらに一枚の花びらが落ちてくるのを眺めながらそう一言呟く。

魔法が使えず何もかも諦めていた時期からもう四か月。言ってしまえばもう四か月だ。

だけど、そんな短い期間だったとは思えないほど長く感じられるのはこの四か月の密度の濃さ故か。

辛いことも、死にかけたこともあったけれど、私は今も生きている。

それもこれも、師匠であるレリアさんと出会い、成長することが出来たから。

その恩を返していくには...


「もっと、強くならないとだなぁ...」


そんな形の定かでない思いを抱きながら、家へ帰るため少しずつ活気の戻ってきた街を歩いていく。

日用品から冒険者の道具など、色々なものが並んでいる市場を歩いていると、ある掲示板が目に入る。

市場の丁度真ん中辺りに設置されているこの掲示板には日夜多くの情報が張り出されている。

そのためいつも通るたび人だかりができているのは当たり前なのだが、今日はいつも以上に人が集まっていた。


「すみませーん、ちょっといいですか」


一言一言謝罪の言葉を述べながらかき分けて進んで掲示板の前にたどり着くと、他の紙よりも少し高級そうな紙が目についた。


「王国高等魔法学園...?ああ、王魔学園の話か。そういえばもう入学の時期だもんね...」


王国高等魔法学園、通称王魔学園。

貴族庶民問わず、イレーヌ王国の内外問わず、才能ある子たちをエリートへと育て上げる王国最高峰の学園である。

入学試験の倍率は高く、十倍は超えるという門の狭さであり、入れただけで将来は安泰とまで言われる学園だ。

大体十二、三歳から三年間通い、十五、六歳で卒業、というケースが一般的である。

まあ私は魔法が使えず王魔学園のことなんか考える暇もなかったから入学できるとは思っていなかったけど。

そりゃあ昔から学園というのは夢を見ていたものだし、入れたら嬉しいけど...


「推薦もあるらしいけど...そんなの絶対無理だろうしなぁ」


自分には雲の上すぎるお話だ。

推薦で入った人なんて歴代でも数えられるほどしかいないらしいからね。

自分には関係のないことだ。

そう考えながら、また掲示板から抜け出すため近くの人をかき分けながら、家に戻っていくのだった。


家に帰ると、赤い封蝋で止められた手紙が机の上に置かれていた。


「お父様、この手紙は一体...?」


紅茶を飲みながら本を読んでいるお父様に話かける。


「ああ、それは冒険者ギルドからの手紙だな。中身は何かはまだ見てない。開けてみるといいさ」


読んでいる本がいいところなのか、こちらに視線をちらっと見せただけですぐに本を読むお父様。

だが、その顔に少しだけ笑みが浮かんでいる。

よっぽど本が面白いのだろうか、お父様がこんなに夢中になっているなんて珍しい。

そんなお父様を横目に手紙を手に取る。


「うん、リンナさんからだ?」


珍しいな。

リンナさんとはギルドで話すことが多いから手紙で来るのなんて初めてだ。

それほど緊急のことなのだろうか?

そんなことを思いながら封蝋を取り、手紙を読み始める。


『久しぶりです、アルネちゃん。リンナです。

 アルネちゃんと出会ってもうすでに三か月ほどが経ち、春が近づいてきました!

 まあそんなことは置いておいて、アルネちゃん王魔学園に興味はありませんか?

 ありそうですね!』


私が興味ある前提で進められてるしいつもギルドで会うリンナさんとはイメージが違うのだが。

でも王魔学園に興味があるというのは本当だし、とりあえず気にしないで読み進めることにする。


『実を言うと、毎年各冒険者ギルド支部などは王魔学園の上位選抜推薦状を出せるのですが、今年の推薦状は誰にするかという話になっていまして。

 年頃で言うと、他にもいろいろな冒険者さんはいらっしゃるのですが推薦できるほどの実力はなく...

 そこで、新人ながらももうB級の手前まで来ているアルネさんが候補に挙がったのです。

 アルネさんさえよろしければ、王魔学園、受けてみませんか?

 お返事待っております!』


まさかの手紙が来てしまった。

王魔学園の上位選抜と言えば、もうエリート中のエリートではないか。

王魔学園には毎年五百人程度の新入生がいるはずだ。

一般選抜では四百九十人程度が募集されるに対し、上位選抜ではたったの十人程度。


「って待って待って!?お父さんこれどういうこと!?上位選抜の推薦がもらえそうなんだけど!?」


驚きのあまり口調が崩れてしまっているがそんなのはどうでもいい。

お父様に詰めかかるような勢いだが。お父様はそんなに焦っているようには見えない。

お父様は今にでも走り出しそうな私を宥めながら紅茶を一口すする。


「まあそうあわてるな。まず、その歳でB級手前というのがほとんどないからな。そりゃあ注目されるだろ」


「なんでそう冷静なの!?上位選抜だよ!?」


「そりゃあ予想はしてたからな。流石は俺の娘だな」


そういいながらお父様は私の頭を撫でる。

あ、少し懐かしい。

前よりも手つきが自然になったなぁ...ってそんな場合じゃなくて。


「でも、私なんかが上位選抜に選ばれて大丈夫なのかなぁ...?」


出てくるのは期待に応えられないかもしれないという大きな不安。

最近魔法が使えるようになった私なんかで大丈夫なのだろうか?


「そんな心配なんかする必要はない。足りないなら落とされる、足りてるなら受かる。それだけのことだ」


「そんな簡単に言われても...」


「それにな、アルネ。一番大切なのはお前自身がやってみたいかなんだ。そのことに勝ることなんか一つもないんだよ」


そう言ってお父様はまた少しぎこちない手つきながらも頭を撫でるのを続けた。

...ずるいなぁ。

そう言われると、挑戦してみたくなってしまう。

小さいころからの夢だったから。


「...分かったよ。挑戦してみたい」


「おう。じゃあまずは推薦状を確保しないとだな。しっかりと返事を書かないと。ほれ、手紙」


そう言ってお父様は棚に置いてある手紙セットとペンを取り、私に手渡す。


「ありがとう。早速書かせてもらうね」


「分かった。セリカには俺から話をしておくよ。後はなんか困ったことはあるか?」


「あ、一つだけ」


私がそういうと、お父様は出かけていたドアから少しだけ顔を出した。


「どうした?試験で不安なことでもあるのか?」


「...冒険者ギルドの住所、どこだっけ」


「お前なぁ...」


呆れていたお父様だったが、すぐ住所を言ってくれた。

まあ今まで住所なんて意識してなかったから仕方ないよね。

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無属性少女の英雄譚~英雄に導かれ、いずれ憧れに至る~ すうぃりーむ @suuli

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