第17話 エピローグ

フェンサーゴブリンとの激闘から一週間が経った。

冒険者ギルドでギルドマスターとリンナさんと話したのが五日前だ。

ここ数日は装備を新調したり、C級の依頼をこなしていたりと普通の冒険者らしい日々を送っていた。

しかし、今日は私がC級になったお祝いがしたいとお母様がずっと言っていたので家でパーティーをするようだ。

朝から飾り付けや料理を行い、昼食と同時にパーティーを行う。

パーティーといっても特に人を呼ぶわけでもなく、家族でやる小さなものだ。

飾り付けや料理も終わり、机の上には四人で食べるには少し多めの料理や飲み物が置いてある。

全員が座ったのを確認し、早速食べ始める。


「「「「いただきます」」」」


そういって各々が好きな料理を食べ始める。

少し料理を食べた後、お父様が私に話しかけてくる。


「そういえば、アルネ。C級冒険者おめでとう。もうC級とは早いな」


「ありがとうございます!でも、まだまだです」


「その年でC級は早いわよ~!私たちもC級になったのはもう少し後だったわ!」


どうやらお父様とお母様より早くC級になれたようだ。

といっても、勝ったような気はしない。

お父様やお母様とはたまに一緒にトレーニングをしたり模擬戦をしたりするが勝てる気がしないからだ。

お父様は剣術が、お母様は魔法が本当にすさまじい。

この二人に追いつくのはまだまだ先だろう。

と考えていると、レリアさんが話しかけてくる。


「アルネ君がどう思っているとはいえ、君はまだ十二歳。それに魔法が使えるようになってまだ四か月程度。それでC級は誇るべきことだよ」


「そう...ですね。ありがとうございます。お父様やお母様は何歳ぐらいでC級になったんですか?」


私がそう質問すると、お母様が答える。


「そうねぇ...。私たちは大体14歳ぐらいかしら。冒険者になったのが12歳ぐらいからだったから、二年ぐらいでC級ね」


「C級になるまで長かったよなぁ。昔はそんなに魔物討伐もなかったから大変だったな」


「そうねぇ。平和なのはよかったけど、冒険者としては少し物足りなかったわね」


「君たちがC級のころなんて懐かしいねぇ。あの時の子供たちが一流冒険者になったなんていまだに信じられないよ」


「お前はあの時から変わってないもんな。ほんとどういうことなんだか」


「私は魔法使いだからね。秘術があるんだよ」


途中に小さいゲームや昔話などを話しながらパーティーは進んでいった。

昼過ぎから始まったパーティーは最終的に夜まで行われた。

パーティーが終わり、暇になってしまった。

既に夜になっているが、まだ寝るには少し早い。

興奮を鎮めるためにも少し体を動かそうと思う。

動きやすい服装に着替え、庭に出る前にストレッチを始める。

筋肉をしっかり伸ばし怪我をしないようにする。

最初のほうは魔法の使い過ぎで筋肉痛になったりなどしたが、今ではもうほとんどならなくなった。

小さなことだけれど、この数か月で大きく成長したんだなと感じる。


ウッドデッキに置いてある模擬剣を一つ取り出してそのまま庭に出る。

まずは、お父様から教えてもらった素振りや剣の型を確認する。

一回一回、丁寧に。

素振りや練習をしっかりしていれば上達するし、サボれば下手になる。

魔物と戦うときにも、練習していたからこそ自信をもって戦えていたと思う。

荒々しい剣もかっこいいが、やはり最後に生きてくるのは日々の積み重ねだと私は思う。

そう心がけ、素振りを百回ほど行う。


「97、98、99、100...ふぅ。とりあえず素振りは終了~」


集中して取り組んでいたからか、額には汗が浮かんでいる。

ウッドデッキに置かれているテーブルに座り、汗を拭きながら水分補給をしている。

私がレリアさんに出会い、魔法を使えるようになってかれこれもう四か月ほど経とうとしている。

この四か月間で私の人生は大きく変わったんだと思う。

魔法が使えないと知って絶望して死んでもいいと思っていた。

だけど、レリアさんは空っぽだった私の心を嵐のように壊し、生きがいをくれた。

そして、冒険者として戦えるほど強くしてくれた。

そのレリアさんの期待に応えたい、とまた練習を再開する。


次は魔法の特訓だ。

魔法の特訓は最初、レリアさん直伝の魔力操作から始める。

『火球』を手のひらの上に出し、魔力を込めたり抜いたりして大きさを変えていく。

最初のほうは大きさも全然変えられなかったが、今ではスムーズにできるようになっている。

私が『火球』の大きさを変えたりしていると、いきなりウッドデッキの方から話しかけられた。


「今日はパーティーなのに、練習をしているのかい?」


声の主は薄い青長髪と魔女のような恰好がマッチしている女性、レリアさんだ。


「はい。パーティーまで時間がありますし、何より少し体を動かしたかったので」


「そうか。君らしいな。で、今は魔力操作の練習かな?最初と比べると大分上達したね」


私の魔力操作の練習を見てレリアさんが呟く。


「これもずっとやっていますからね、大分スムーズにできるようになりました。だけど、もっと早くしたいです」


私がそういうとレリアさんは少し驚いていた。


「君は大分強くなったのに、まだ強さを求めるんだな。成長熱心でいいことだ」


「強くなったとは思います。でも、まだまだ強くなりたい。もっと、困っている人を助けられるような、そんな強さが欲しいです」


私がそう話すと、レリアさんは何かを思い出したように手を叩く。


「あ、そうだ。さっき渡し忘れていたんだが、君にプレゼントがあるんだ」


「プレゼント?何ですか?」


レリアさんは一言『開放』というと、レリアさんの前の時空が裂け、小さい空間が現れる。


「っ!?何ですかその魔法!?」


見たこともない魔法に私は興奮が止まらない。

そんな私を見て、レリアさんは苦笑いを浮かべる。


「落ち着きたまえ。これは私が考えた『空間魔法』だ。簡単に言うと、別次元の入り口を一時的に開く魔法だね。使い方によっては瞬間移動もできたり、持ち物も仕舞っておけるよ。その分魔力消費も激しいがね」


「そんな魔法、聞いたこともありませんよ?」


「だろうね。これは私が一から作った魔法だからね」


レリアさんが言った言葉に私は口がふさがらない。

...やっぱりこの人はすごいなぁ、全然追いつける気がしないや。


「まあその話は置いておいて。この中に君に渡したいものがあるんだ。少し待っていてね」


そう言ってレリアさんは空間のゆがみに手を突っ込む。


「あったあった。これだよ」


レリアさんの手には指輪が握られていた。


「これは...?指輪ですか?」


「その通りだ。防具は新調したし、剣は冒険者ギルドから貰うらしいからね。私は装飾品でもと思ってね」


そう言ってレリアさんは私に白く光った魔石が詰められた指輪を渡してくる。

ただのアクセサリーと思ったが、手に持ってみると不思議な力が湧いてくるのを感じた。


「この指輪...もしかして相当すごいものだったりします?」


「よくわかったね。その指輪にはが魔力増強や身体能力上昇などの特殊効果が付与されているよ。それに、ピンチの時は君を助けてくれるはずだ」


...思ったよりやばいものだった。

本来武器や装備には一つでも特殊効果が付与されていたらレアなのだ。

それが複数個ついているなんてC級になったばかりの私には不釣り合いすぎる。


「そんな高価なもの、私がもらってもいいんでしょうか?」


「いいんだよ、そんなの。それは私のものだ。私のものをどうしようと私の勝手だろう?それに、私は君に強くなってほしいからね。師匠からのささやかな贈り物だと思っておくれよ」


「...そうですか。大切に使わせていただきますね!」


「それならよかったよ。これからも強くなるのを期待しているよ。それじゃ、おやすみ。アルネ」


レリアさんは私に指輪を渡し、そのまま家に戻っていく。

...レリアさんはかっこよく去っていったが何となく恥ずかしがっていた。

慣れないことをするからだろう。

だけど、私のことを気にかけているというのは良く伝わってきた。


「おやすみなさい、レリアさん」


私の周りには、私のことを気にかけてくれている人が多くいるんだな、と改めて最近感じる。

その人たちの期待に応えられるよう、そして、その人たちを守れるよう私はもっと強くなりたい。

これからも頑張っていこう、そう思いながらもう少しだけ魔法の練習をしていたのだった。


第一章 完



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これにて第一章本編完結いたしました。

あと少し幕間などを投稿していきたいとは思っていますが・・・w

第二章のプロットや新作のネタなども考えていきたいと思っています!

これからも応援よろしくお願いいたします~!!

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