第16話 死闘後の日常
フェンサーゴブリンの死闘から二日。
帰ってからすぐはお父様とお母様、それにレリアさんからとても心配された。
『どうしたんだその服!?何かあったのか!?』
『それに怪我もしてるじゃないの!?どうしたの!!』
とあまりに心配されたので少し申し訳なったぐらいだ。
魔剣持ちのフェンサーゴブリンと戦った、逃げなかったのは村が襲われたら壊滅する可能性もあったから、と言ったら呆れられた。
『まだDランクになったばかりのお前が普通のゴブリンならともかく、魔剣持ちのフェンサーとやり合うなんて危険すぎる...よく勝てたな』
『魔剣持ちと戦ったの!?危険すぎるわよ』
『アルネ君は無茶ばかりするねぇ。まぁ君らしいがね』
三人曰く、フェンサーゴブリンは上位種でC級冒険者に匹敵するぐらいの強さらしい。
そこに魔剣持ちという要素が加わり、C級上位ほどの強さがあったのではないか、と聞いた。
死ぬかもしれない、とあそこまで思った戦いは初めてだ。
だが、成長や課題も見つかった実戦だったと思う。
もっといろんな人を守れるよう、強くなりたいと改めて思えた。
その後はすぐにお母様から回復魔法をかけてもらい治療してもらった。
大体の傷は治ったが、まだまだ体力が戻ってこない。
すぐさまお風呂に入り、軽く夕食を食べてから気絶するように眠っていたようだ。
そして、昨日は流石に安静にしていろ、と言われ家でゆっくりしていたのだ。
おかげでほとんど疲れもとれ、ある程度動けるようになってきた。
そんなこんなで今日に至るわけだが。
今日は冒険者ギルドの受付ではなく応接室に通された。
金などの金属や、羽毛が使われた豪華なソファに、重厚感を感じる木の机。
そんな豪華な部屋に緊張している私の前には、受付の綺麗なお姉さんのリンナさん、高身長で筋肉質な初老の男性が立っていた。
どうやらこの初老らしき男性は冒険者ギルド東都支部のギルドマスターのベジルさんというらしい。
ドワーフ族であるベジルさんは昔はS級冒険者であり、両手斧を使いこなしていた前衛でとても強かったと聞く。
そんな人が私に何の用だろうか、と思っているとベジルさんに着席を促された。
「初めまして、アルネさん。私はドワーフ族のベジル。ここのギルドマスターも任されている。今日は君に話があってここに呼ばせてもらった」
高身長で筋肉質から荒々しいという印象を勝手に持っていたがどうやら違うようだ。
丁寧な口調で優しい男性、という印象を受ける。
この時期の話、というとやっぱり二日前のフェンサーゴブリンの話だろうか。
家に帰る前にせめて報告だけでもしておこうと思い、冒険者ギルドに寄ってリンナさんに話した。
完了報告はいつもはすぐ終わるのだが、その時は長かった。
その後に報酬が出るかもしれないと聞かされて喜んでいたのだが、よくよく考えてみれば結構大事なのではないだろうか。
「ご丁寧にありがとうございます、ベジルさん。それで、話とは何でしょうか?」
「早速本題について話させてもらうよ。君が魔剣持ちのフェンサーゴブリンと遭遇し、そして単独撃破を成し遂げた件についてだ。フェンサーゴブリンというのはC級冒険者に匹敵するほどの強さを
持つ者もいる。そこに魔剣持ちで強化されたとなればC級上位~B級下位ほどの強さになりうる。D級の君が倒せたというのはいまだに信じられなくてね。その時の話や証拠を見せてもらいたいんだ」
口調こそ優しいが、その目は笑っていない。
私が嘘をついている、と思っているのだろう。
悪い冒険者が虚偽の報告をして報酬を少しでももらおうとするというのは少なからずある。
そのようなケースを疑っているのだろう。
一応魔剣は持ち帰ってきていて、今日鑑定してもらおうと思っていたので手元にある。
魔剣を机の上に出し、ベジルさんに見せる。
「これが、フェンサーゴブリンが持っていた魔剣です。フェンサーは普通のゴブリンのような叫び声ではなく、どちらかというとホブゴブリンのような叫び声でした。戦っているときにも、その剣で
斬撃のようなものを一度飛ばしてきました」
私がそう簡単に話すと、ベジルさんは手を頭に当て考え込んでいた。
本来魔剣というのはそうやすやすと手に入るものではない。
それをただのフェンサーゴブリンが持っているというのは少し考えづらい。
「君が単独討伐したのは分かった。今は魔剣を持っているモンスターがたびたび出没しているという報告を聞く。しかも持っている魔剣は天然のものではなく、人工的に作り出された紛い物である可能性が高い。これは今までにない事態であり、何者かが裏にいる可能性が高い。まだこれは表に出していない情報だから、君も注意してくれ。この剣も鑑定するために一度預からせてもらうよ」
「はい。了解しました。では、失礼します」
話はこれで終わりだろう、そう思い席を立つ。
しかし、まだ話は終わりではなかったようでベジルさんに呼び止められる。
「ああ、あともう一つだけいいかな」
「はい?何でしょうか?」
少し驚きながらも席に座りなおす。
「さて、堅苦しい話は一旦終わりにして。君に冒険者ギルドから報酬を出そうかなと思って。君がいなければ甚大な被害が出ていたと思う。それを未然に食い止めたのは君だ」
「え...?でもいいんでしょうか?私はあくまで村の人を守るために戦っただけであって報酬をもらうために戦ったのではありません。それなのに、報酬をいただくのは少し抵抗があるというか...」
なんともおいしい話だろうか。
だが、私は村の人を、あの平和な場所を守りたいと思ったから立ち向かっただけだ。
勝てたのは偶然とは言わないけど、負けていた可能性だって全然ある。
そんな私が報酬をもらうのはやはり抵抗を感じざるを得ない。
「いいんだよ。君は、あの時君ができる最善の選択をし、それをつかみ取った。そんな君に、報酬を出さないなんて冒険者ギルドの恥だ」
「そうですよ。アルネさんは、村の人を守るために全力で戦った。それが偶然であっても、村の人にとってはあなたが英雄なんです。他の人でもフェンサーゴブリンは倒せたかもしれない。だけど、倒したのはあなたなんです。
あなたが村の人を救ったんですよ」
そうベジルさんとリンナさんが優しい口調で話し、私の心を包み込んでくれる。
私が、救った。
自分ではわかっていても、他人に言われるとやはり達成感がこみあげてくる。
そういうことなら、記念にもらっておいてもいいかもしれないな。
「そういうことなら、もらっておきます...。でも、そんなに多くはいらないです」
「そうか。検討しておくよ。だが、君がD級冒険者からC級冒険者に昇格するというのは決定事項だ。魔剣持ちのフェンサーゴブリンはB級に匹敵する可能性もあるし、B級にしてもいいと思ったのだがそれはまだ危険と思ってね。昇格以外にもあと一つぐらい報酬として渡そうと思っていてね。君の要望はあるかい?」
ベジルさんにそう言われ、考える。
欲しいものかぁ。
剣かもしれないな。私がここ数か月愛用していた鉄でできた片手剣はもう刃こぼれもしてボロボロになってしまった。
だから、ギルドから剣をもらうというのはいいかもしれないな。
「強いて言うなら、剣が欲しいです、片手剣の。この前の戦いで刃こぼれもしてもう使い物にならないので。お願いできますか?」
「剣か。リンナ、今冒険者ギルドの宝物庫に片手剣があったよな?後でそれを鑑定して使えるか確かめてほしい」
「了解しました。多分使えるはずです」
リンナさんとベジルさんが会話を交わす。
どうやら、私の報酬は宝物庫に眠っていた剣になりそうだ。
C級の私に丁度いい良い剣が来てほしいなぁ。
「ありがとうございます。楽しみにしていますね」
「ああ。期待しておいてくれ。では、今日はもう帰ってもらっても構わないよ」
「はい。ありがとうございました」
そういわれ、改めて席を立つ。
そのまま、応接室を後にし冒険者ギルドから出る。
「またねー!!アルネちゃん!」
後ろからリンナさんの声が聞こえ、振り返るとベジルさんとリンナさんが手を振って見送ってくれていた。
私も手を振り返し、しばらくしてまた歩き出す。
今日は冒険者ギルドに魔剣を鑑定してもらおうと来ただけで依頼は受けない予定だ。
大変な数日間だったけど、冒険者として、人間として成長できたと思う。
「明日は、防具を新調して...後はポーションとかも揃えたいなぁ」
明日やりたいことを確認しながら町を歩く。
昨日は冬らしく雪が降っていたが、今日は雲一つなく晴れている。
村を守れたという達成感に改めて浸りながら、私は家に帰るのだった。
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