第15話 第二ラウンド
フェンサーゴブリンが踏み込んで近づいてくる。
その踏み込みだけで地面が抉れ、踏み込みの力強さを感じ取れる。
二十メートルは離れていたはずなのに、一瞬後には私の前に接近していた。
「っ!?」
金属と金属がぶつかり甲高い音が響く。
速い一撃を何とか受け流し、『風刃』を数発撃ちながら距離を取る。
フェンサーゴブリンだから魔法は使えないはずだが、それでもあの速さは油断していたら
一瞬で詰められて斬られて終わりだ。
さっきのゴブリン共とは格が違いすぎる。
こいつが村のほうに行ったら本当に村が壊滅する。
こいつはここで倒さないといけないと改めて認識する。
体力はまだ持つ。魔力もまだ八割弱は残ってる。
魔法が使えるようになってからのこの約二か月、魔力操作などの自主練習をしていた
おかげで魔力も増えていて本当に良かったと思う。
間合いをはかっていると、予備動作もなしにいきなり肉薄してきた。
だけど、さっきの一撃を見て対応できないほど私は落ちぶれてはいない!!
速さを求め単調になった一撃を受けきり、隙ができたフェンサーゴブリンに足払いをし、相手を転ばせる。
「グァッ!?」
転んだフェンサーゴブリンに対し、大きく振った剣を振り下ろす!
鎧を纏ったこいつを倒すには適当に振った一撃じゃ絶対倒せない。
だから威力を求めた一撃、隙だらけのこいつには絶対入る!
私が得意な風属性初級魔法『流風』を使い速度を更に上げる。
こいつは避けられない!
─もらった!
「てやぁああああああ!!」
しかし、その一撃は空を切り、地面に突き刺さる。
フェンサーゴブリンは足払いをされて転んだ状態から足に強く力を込め、そのまま後ろに跳んだ。
私の剣をあの一瞬で判断し、回避したのだ。
そして地面に突き刺さり、一瞬後退するのにかかる隙を見逃すはずもなく。
フェンサーゴブリンは一瞬で体勢を立て直し、すぐさま私に突きを放ってくる。
何とか剣を抜き、突きの軌道に剣身を置き何とか貫かれるのは回避したが、それでも衝撃までは殺すことができない。
その衝撃で数メートル後ろに吹き飛ばされ、その勢いで土埃が立つ。
吹き飛ばされた衝撃は後ろにあった木にぶつかることでやっと止まる。
「ぐぅ...!?やばいやばいやばい!!」
すぐさま身の危険を察知し、痛みを嘆く時間すら与えられず痛みを堪えながら速さ重視の光属性初級魔法『雷球』を
牽制として土埃の中に二発撃ち込んですぐさま右側に回避。
その一瞬後、先ほどまでいた木に魔剣によって威力が上昇された一撃がお見舞いされ、木が倒れる。
だが、よく見てみると最初に洞窟に撃ち込んだ『豪炎』によってできていた傷に加え、少しだが鎧が壊れている。
どうやら『雷球』でも少しだがダメージが通っているようだ。
まだ希望はある。
威力重視の火属性初級魔法『火球』を撃ち込んで時間を稼ぐ。
その稼いだ一瞬の時間を使い、怪我を治すために持ってきていたポーションを一つ使う。
傷が少しずつ治っていくのを確認したのち、すぐさまフェンサーゴブリンに対し攻撃を仕掛ける準備をする。
「やられっぱなしじゃいられない。今度はこっちの番だ!」
すぐさま光属性初級魔法『閃光』を使い、攻撃を仕掛ける。
相手が『閃光』を喰らったのを確認しすぐ『火球』を三発撃ち込んでいく。
撃ち込み終わったと同時に相手の側面を突くために相手から見て右側に回り込んでいく。
『閃光』の効果が切れると同時にフェンサーゴブリンは迫っていた『火球』に剣で応戦する。
しかし、『閃光』と組み合わせて使ったことで視界が復活した瞬間来る三つの『火球』を捌ききることはできず、一つ撃ち漏らす。
相手が一発喰らうのと同時に相手の右側から私の近距離最高火力である『雷剣』を使い予想外の一撃を放つ。
「『雷剣』!!」
その一撃は相手の肩を的確に捉え、分厚い鎧を砕き右肩を深く斬る。
「グルァッ!?アァァァァァァァ!!!!」
悲鳴を上げながら、フェンサーゴブリンは大きく後退する。
しかし、ここが好機。
このチャンスを逃すわけにはいかない。
そう判断し、後退したフェンサーゴブリンを追いかけ、大きく詰める。
しかし、ただでフェンサーゴブリンも後退するはずもなく。
魔剣の効果を使い、斬撃が私に向かって飛んでくる。
魔法が使えないから遠距離攻撃はないと油断していた私は反応が遅れた。
「ッ!?あっぶなぁ...!?」
身体に当たるギリギリで『風刃』で相殺に成功。
何とか勢いを殺さず対応することができ、そのままフェンサーゴブリンに詰めていく。
先ほどのお返しとばかりに『風刃』を一発撃ち込んでいく。
この『風刃』は威力重視にしているので、『風刃』といえど、当たればダメージは入るだろう。
その『風刃』の後ろにぴったりとついていき、フェンサーゴブリンに肉薄する。
フェンサーゴブリンは流石に両方対処するのは無理だと悟ったのか、『風刃』に対処はせず、私だけに対応するようだ。
だが、それは悪手。
私が来る位置を予測し、剣を大きく横に振ることを予測していた私は一瞬だけ止まり、フェンサーゴブリンの攻撃を回避する。
そのままフェンサーゴブリンは威力重視の『風刃』を喰らい少し吹き飛ばされる。
「グァアアアアアアア!!??」
相変わらずゴブリンらしからぬ悲鳴を上げながら吹き飛ばされるフェンサーゴブリン。
そのフェンサーゴブリンを追撃するため、更に詰めていく。
「うおおおおおおおおぁあああああああ!!!!」
『流風』を使って速度を上昇させ、吹き飛ばされて無防備なフェンサーゴブリンの体に斬撃をお見舞いする。
魔法をずっと受け続けてきた鎧はもうボロボロになっていた。
そのボロボロの鎧ごと斬りとばすことだけを考え、踏み込みの力を最大限まで乗せた一撃を振り下ろす。
その一撃は腹部の鎧を砕き、深く剣が入る。
致命傷には成り得ない。
まだこいつは生きている。
そこで私の攻撃は終わりを迎え、フェンサーゴブリンの猛攻が始まった。
フェンサーゴブリンは最後の力を振り絞るかのように、荒々しくも美しさを感じるような剣術で攻めてくる。
速く、しかも魔剣の効果か一撃一撃が重い。
そんな猛攻に私は守りに入ることしかできない。
早く反撃しないと、そう焦りが出てきてしまう。
焦るな、焦るな私。
冷静に、一撃一撃を見極めろ。
相手の攻撃が途切れる瞬間を狙って最高の一撃を叩きこめ。
そうして攻撃を受け止め、時には受け流し、時には避け、十数秒の時間が過ぎる。
とても長い時間に思えた十数秒を乗り切り、相手の攻撃が一瞬だけ緩む。
今だ、今しかない。
私の心がそう叫ぶ。
「今だぁぁあああああああああ!!!!!『雷剣』!!」
『雷剣』を発動させ、一瞬の隙を晒したフェンサーゴブリンに叩き込むべく、相手に近づいていく。
そのまま剣を横薙ぎに振るい、フェンサーゴブリンの身体を真っ二つにする。
斬り飛ばされた上半身がそのまま空に舞う。
一応動き出さないかを確認するが、動きは見られない。
完全にフェンサーゴブリンは死んだのだ。
「はぁ...はぁ...。私、勝ったんだ」
死線を乗り越えたという実感は沸かず、ただ疲れだけを感じていた。
ここまで体力と精神力をすり減らした戦いも初めてだ。
今はとにかく休みたい、そう思っていると、後ろからパキッと枝が折れる音が聞こえた。
すぐさま、疲れ切っている身体を起こし振り向くとそこにはオルトさんが立っていた。
「...なんだ。オルトさんかぁ...」
「先ほどまで音がしていたので戦っていたのは分かっていたのですが...いきなり静かになったのでアルネさんに何かあったのかと心配になったので見に来てしまいました...すみません」
「私を心配してくれたんですよね?それならありがとうございます。それよりも、休める場所はありませんか...?先ほどの戦いで疲れ切ってしまって」
私がそう聞くと、オルトさんも私の状態を認識したようだ。
驚いた顔になり、私に話しかける。
「大丈夫ですか!?その状態...?もしや先ほどの戦いで...?村には温泉もあります。よろしければそこでご飯も食べていかれますか?」
......なんだと?
この疲れ切った体に温泉。そして野菜が評判のこの村でのご飯?
そんなのいただくしかないでしょう!?
「え!?いいんですか!?」
「ゴブリンの群れは小さかったけれど、いずれは村を脅かすものになっていたかもしれません。それを倒してくれたアルネさんは間違いなくこの村の英雄です。そんな人に何もしないのは失礼にあたりますよ」
英雄。
そう言われ、少し驚いた。
考えてみれば、私は確かにこの村の人たちを救った。
だけどそれは英雄と呼ばれるためじゃなくて、ここの人達を助けるために動いた結果がこれだ。
なんとなく、英雄と言われる人たちの気持ちが分かった気がした。
その後、村の温泉とご飯をごちそうになり、少し村の人と話してから冒険者ギルドに報告した。
冒険者ギルドは想定外の敵が出たとして、その脅威を単独で撃破した私に今度報酬を出してくれるようだ。
その後、英雄と呼ばれた嬉しさと恥ずかしさを感じながら、夕焼けによって橙色に染まった街を歩きながら家に帰るのだった。
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