第14話 D級での一歩目

初めての依頼達成から一か月。

E級の依頼をいくつかこなし、私はD級冒険者になっていた。

お父様やお母様にそのことを言ったら二人ともすごい喜んでくれていたし、

私自身も成長を感じられて嬉しかった。

今では魔物にも慣れ、一人でも依頼に行けるようになっていた。

今まではE級の依頼を主体として行ってきたが、そろそろ上のステップに行ってもいいだろう。

そう思いながら、冒険者ギルドのドアを開け中に入る。

そのまま受付の近くにある掲示板の前まで歩いていく。


掲示板を見てみると、D級の依頼はすぐ見つかった。

E級の依頼は薬草採取や弱い魔物の討伐依頼が多いが、D級の依頼には魔物討伐や魔物から手に入る魔石や素材の納品などの依頼が多く、報酬も少し良くなっている。

E級の依頼もつまらなかったわけではないが、魔物討伐が本格的になってくるとやっぱり冒険者になったんだっていう実感が改めて湧いてきて、これからが楽しみになってくる。


「よし、これにしてみよう」


選んだ依頼は東都の端にある村のはずれに群れを作ろうとしているゴブリンの討伐依頼。

D級の始めとしてはなかなか良い依頼なのではないだろうか。

数としては数匹から十匹ぐらいの群れとのことなので油断しなければ私一人でも十分

戦えるはずだ。

そのまま依頼書を手に取り、受付のリンナさんのところへ持っていく。


「リンナさん、こんにちは。この依頼を受けたいんですが」


「こんにちは。ゴブリンの討伐依頼ですね、了解しました。アルネさんなら大丈夫だと思いますが、群れを作っているゴブリンということは知能もあるはずなので気を付けてくださいね。初のD級依頼を達成できるよう、応援しております!」


「ありがとうございます。早速行ってきますね!」


「はい!お気をつけて!」


リンナさんにも見送りをしてもらいポーションや食料など、ある程度準備を済ませて東都端の村を目指して出発した。



東都端の村には数十分程度歩いて辿り着いた。

自然豊かでその環境を生かした畑作が盛んなところであり、野菜が多く取れるところだと聞いていた。

しかし、今は冬で雪が積もっており農業をしているわけではなさそうだ。

今回の討伐するゴブリンについて聞くために、村長の家を一回尋ねておきたい。

そう思い、すれ違った女の人に声をかける。


「すみません。村長の家に行きたいのですが、村長の家はどちらでしょうか?」


「ああ、村長の家ですか。それなら、村の中心にある少し豪華な家です。多分一目見ればわかると思いますよ」


「そうなんですね。ありがとうございます!助かりました」


「いえいえ」


そのまま村の中心に向かって歩いていく。

歩いていくほど、すれ違う人の人数や遊んでいる子供たちが多くなってくる。

どうやら村の中心に近づいてきているようだ。

もう少し歩いていくと、他の家よりも豪華な家があり、村長の家だとわかった。


「すみませーん。村長のオルトさんはいますかー?」


玄関の前に立って声をかけてみると、少し遅れて男の人の声が家の奥から聞こえてきた。


「あ、すみませーん!今出ますね!」


そうして奥から出てきたのは農作業によって鍛えられた筋肉を持つ壮年の男の人が出てきた。

どうやらこの人が村長のオルトさんのようだ。

今回の依頼主はオルトさんのようなので、一人で行く以上少しでも情報を得ておきたい。


「冒険者ギルドの依頼を受けやってきました、アルネといいます。今回の依頼討伐のゴブリンについて

話を聞きたいんですが、よろしいですか?」


「ああ、あなたが。冒険者ギルドに依頼を出して結構経っていたのでもう来ないかなと思ってました。今回は依頼を受けてくださりありがとうございます。それで、どういったご用件で?」


「今回の依頼のゴブリンについて話を聞きたいと思っていて。詳しいことを教えていただけませんか?」


そういってメモをするために紙とペンを用意する。


「わかりました。ゴブリンは二週間ほど前から、村のはずれにある洞窟に巣を作り始めました。種族は普通のゴブリンが大半ですが、ウィザードやフェンサーなどの特異種もいるようです。規模はまだ十匹程度だと思います。今は村の男たちが交代で見張っているのですが...そろそろ抑えるのも難しくなってきています」


思ったよりも深刻な状況だった。

ゴブリンというのは弱い魔物と思われがちだが、一般人にとっては脅威になりえる。

しかも特異種であるウィザードやフェンサーは魔法や剣術を使って戦ってくるので冒険者でも苦戦することがある。

群れを成したゴブリンは村を襲い、被害も大きくなる恐れがある。

しかし、冒険者にとっては割の合わない依頼であり、煙たがれる依頼でもある。

それによって襲われてしまう村も少なくないという。


「わかりました。早速案内してもらってもいいですか?」


「はい...!ついてきてください」




そのまま村はずれの洞窟まで案内してもらった。

どうやら洞窟の中はそこまで広くないようだ。

まずは、奇襲を仕掛けて少しでも数を減らすべきだ。

洞窟という閉鎖的な空間であるため、火属性などが有効的だろう。

そう思い、魔法の詠唱を始める。


「『豪炎』!」


最近覚えた火属性中級魔法『豪炎』。

火属性初級魔法である『火球』よりも時間がかかるが威力がその分高い。

奇襲で仕掛けるにはもってこいの魔法だろう。

完成した『業炎』を洞窟に向かって撃ち込み、それからさらに風属性の魔法を撃ち込んでいく。

風属性の魔法を撃ち込んで洞窟から火が出ないようにし、更に『業炎』が奥に行くよう押し込んでいく。

少し時間が経つと、ゴブリンたちの悲鳴が響いた。

その後、洞窟から五、六体のゴブリンが出てきた。

大体は普通のゴブリンだが一体だけウィザードがいる。

あいつだけは厄介だ。

後衛にいるあいつをまず真っ先に倒しに行く。

洞窟の入り口の様子が見える少し大きい岩から出ていき、速攻を仕掛ける。


「『流風』!」


一瞬でウィザードに肉薄する。

ウィザードは迫りくる私に反応できず、一瞬で絶命した。

仲間が死んでやっと襲撃に気が付いたのか、五体のゴブリンを取り囲む。

相手が複数の時に囲まれるのはまずい。

そう判断し、自分の正面に立っているゴブリンを倒し、離脱することを決断する。


「てやぁぁぁぁああああ!」


「ケケぇぇぇええ!!」


ゴブリンが持っている棍棒と上段から振り落とした一撃が拮抗する。

そんな時間も一瞬で終わり、棍棒ごとゴブリンを真っ二つにする。

返り血で服が汚れるのも気にせず、ゴブリンたちから距離を取る。

残りのゴブリンは四体。

一対多数の基本は一対一を繰り返すこととレリアさんが言っていた。

いかにして一対一の状況を作り出すのが大切になってくる。

自分に一番近いゴブリンに狙いを決め、残りの三体に風属性初級魔法の『風刃』を使って牽制。

狙いを付けたゴブリンには『閃光』を使って隙を作る。


「『流風』!」


愛用している『流風』を使い加速する。

その勢いのまま、剣を薙ぎ払う。

ゴブリンは『閃光』によって視覚を一時的に失い、何も見えないまま絶命。

残り三体。

先ほど牽制していたからか、残りの三体は一番近くても五メートルほど離れていて、対応される距離。


どう攻めようかと思ってると、一番近いゴブリンが私に向かって突進してくる。

ゴブリンが持っている武器は棍棒。

舐めていると一撃で持っていかれることもあるという。

そのため、真正面から受け止めることはせず根本に剣を置き、受け流す。

そのまま隙ができた身体に向かって蹴りを入れ、少し距離を取り魔法を撃ち込む。


「『風刃』!」


「ゲェェェェアアアア!!!」


『風刃』を喰らったゴブリンは悲鳴を上げそのまま絶命。

残り二体。

ここで二体は一体では勝てないと察し、二体同時に突撃してくる。

左右から同時に棍棒の重い一撃が横なぎに飛んでくる。

それをしゃがんで躱し、右側にいたやつの足に向かって剣を振る。

その一撃で足に怪我を負ったゴブリンをそのまま風魔法を使って遠くに飛ばす。

もう一体からの追撃を避けるためにしゃがんだ体勢から足に力を入れ、思い切り後ろに跳ぶ。

一瞬後、棍棒が振り下ろされ、土の地面が大きく抉れる。

それだけで攻撃の重さを感じられる。

あんなのを喰らったら一撃でアウトだ。


後ろに跳んだ勢いのままゴブリンと十メートルほどの距離を取る。

そのまま、『風刃』を三連発で撃ち込む。

そのうちの一発が胴体に当たり、ゴブリンが絶命する。

残りは足を怪我したゴブリン一体だけ。

『風刃』を一発飛ばしそのまま倒しきる。


「ふぅ...何とか倒しきれてよかった」


途中危ない場面もあったが何とか倒しきることができた。

剣を鞘に戻し、素材回収の準備を始める。

後は魔石や素材を回収し、一応洞窟の中もチェックしてオルトさんに報告して依頼達成だ。

そう思い、倒したゴブリンから魔石を回収しようと動き出すと洞窟の方から足音が聞こえてくる。

見ると鎧を付け、禍々しく光った剣を持ったゴブリン、フェンサーゴブリンの姿が見える。

洞窟内部の奴は『業炎』で倒しきれたと思っていたが、少し鎧が焦げているのを見る限り、耐えきってたのだろう。

フェンサーゴブリンも私の姿を視認し、同時に警戒態勢に入る。

実物を見たことはないが、あの剣は恐らく魔剣。

本来なら逃げて冒険者ギルドに報告するべきだろう。

しかし、ここで私が逃げたらどうなる?

村の人が襲われ、何人の人も死ぬ可能性がある。

ならば、ここで倒しきらないといけない。

そう決意し、戻した剣をまた手に持つ。

その私を見て、フェンサーゴブリンが叫び声をあげる。


「グルァァァァアアア!!!!」


フェンサーゴブリンとは思えない叫び声をあげながら、フェンサーゴブリンが突っ込んでくる。

そして、第二ラウンドが始まった。









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