第13話 初めての依頼

冒険者登録もおわり、晴れて冒険者となった私。

今日は初めての依頼を受けてみようと思う。 

朝食も食べ、この前買ってきた冒険者の必需品を詰め込んだ手軽なリュックを背負い、町にある冒険者ギルドへと出かける。


「いってきます!」


私が靴を履き終わり、玄関でそう大きな声を出すと、リビングからお父様とお母様が出てきて、見送りしてくれる。


「おう。いってらっしゃい。気をつけてな」


「危なくなったら無理しないのよ〜!!」


家を出てから十分程度歩き、冒険者ギルドについた。

冒険者登録が終わってからも何回か冒険者ギルドには来ているが、やはりこの重厚感は凄いと思う。

まだ私には重いドアを開け、冒険者ギルドの中に入る。


中に入るとやはり多くの人で賑わっていた。

昼から飲んでいる人もいるし、依頼の準備をしているパーティーなど様々な人がいる。

その人たちを横目に、依頼が貼ってある掲示板の前まで行く。

オーガやフェンリルなど、上位種魔物の討伐を始めとした難しい依頼は勿論受けられないのでE級冒険者でも受けられる依頼を探す。


「うーん、初めての依頼だからなぁ...。最初は簡単そうなものからやってみたいなぁ」


私がそう腕を組みながら掲示板に貼ってある依頼書とにらめっこをしていると、突然後ろから声をかけられた。


「おう!アルネの嬢ちゃん!どうした、良い依頼でも探してるのか?」


振り向くとそこには筋肉質でひきしまった体に身軽な鉄でできた鎧で高身長な男性、ジュードさんが立っていた。

ジュードさんは、お父様とお母様の知り合いで、子供の私にもこうやって気遣いをしてくれるのだ。


「あ、ジュードさん。実は今日、初めて依頼を受けようと思っているんですが、E級冒険者にもおすすめの依頼って何かあるかなぁって探してたんですが...あまり良さげなのが見つからなくて...」


「ああ、そういうことか。俺も最初の依頼の方は緊張したからなぁ!それなら、この北の森の魔物討伐なんて結構簡単だぞ!」


そういってジュードさんは掲示板の右端に小さく貼ってある比較的新しい依頼書を指差した。

その依頼書をよく見てみると、ジュードさんが言った通り、北の森での魔物討伐のようだ。

しかし、平原などの開けた場所ならともかく、初心者にいきなり魔物討伐、しかも森の中なんて危険な依頼じゃないだろうか。


「え...?でも新人の私にいきなり...それも森の中での戦闘だなんて危険じゃないですか...?」


「普通の場合だったらそうだ。だけど、これの場合は冬眠している魔物や弱い魔物が餌を求めて人里に来ないようにするために倒すんだよ。だからいつもより簡単に倒せるし、新人冒険者にもちょうど良いんだ」


そうだったのか。

それなら今のわたしにも丁度いいし、報酬も5000エルと、報酬も他の報酬よりも良さげそうだ。

決めた、最初の依頼はこれにしよう!!


「そうなんですね、ありがとうございます!!早速、これを受けてみようと思います!!」


「おう、それなら良かったぜ。なんならだけど、俺もついて行ってやろうか?俺も今日は少し暇でよ、ハルトにも助けてやってくれって言われてるし、保護者役としてついていくぞ」


保護者役。

新人冒険者が初めて依頼を受ける際などに、先輩の冒険者などが一緒について行ってピンチだったら助けるという役割だ。

これのおかげで新人冒険者の死亡率が減り、冒険者としてもギルドの両方が得をする制度だ。

冒険者として実力もあり、お父様とお母様の知り合いのジュードさんが来てくれるなら安心して依頼に取り組めるだろう。


「本当ですか?私も初めての依頼で緊張しているので、ついてきて助けてくれると安心して依頼に取り組めます!なので、お願いしてもいいですか...?」


「おう、任された。俺はあっちの方に座ってるから、準備ができたら話しかけてくれ」


その後、お姉さん(リンナさんと言うらしい)に話し無事に依頼を受けることができた。

酒場となっている方で待たせているジュードさんを呼びに行って、初めての冒険へと出かけた。


いつもは自然豊かで癒される北の森も、今日は一面銀世界であり、幻想的な景色が広がっていた。

葉を茂らせている木たちも今日は枯れており、私が見たことのある森と姿が変わりすぎて驚いた。


「うわぁ、綺麗。冬の森ってこんなに違うんですね...」


「そうだな。動物も今は冬眠をして静かだし、植物もないからな。でも見惚れてるだけじゃ危険だぞ。しっかり索敵も怠らずにな」


「はい!しっかり周りを見ておきます!!」


そのままジュードさんと森の中を歩き始めて数分。

突然後ろの方で枝が折れる音がした。

そのまま振り向くと、猪型の魔物が立っていた。

まだ、私たちには気づいていないようだ。


「あれは猪型の魔物の『スモールボアー』だな。動きこそ素早いがその動きは単調だ。それに避けてさえしてしまえば隙もでかいからすぐ狩れるぞ」


丁度ジュードさんが話し終わったタイミングでスモールボアーが私達に気がついた。

体長一メートルほどのスモールボアーが体を屈める。

どうやら突進の予備動作に入ったようだ。


「わかりました!とりあえず頑張ってみます!!」


「おう。まあ怪我しても俺がポーション持ってるし何とかなる。あんま緊張せず気楽にやっていいぞ」


ジュードさんが言い終わると同時に、スモールボアーが突っ込んでくる。

しかし、すぐ避けることはしない。

早めに避けると軌道を変えられそのままやられるかもしれないからだ。

十メートルぐらい離れていたのを三メートルほどまで引きつけ、その後に避ける。

風属性初級魔法『流風』を使い、自分の移動を更に早め、より速く、安全に回避をする。

『流風』は風の力を借りて自分を後押しすることで自分の動きを速くする魔法だ。

最初の方に覚えてから今でも愛用している。

そのままスモールボアーは止まることができず、後ろにあった木に衝突する。

そんな大きな隙を見逃すわけもなく。

腰に差していた愛用の片手剣を抜き、私が今ある最高火力の魔法を詠唱する。


「『雷剣』!!」


剣身が光だし、電撃が少しずつ流れ出す。

両手で剣を握り、大きく一歩踏み込む。

そのままスモールボアーに近づき、踏み込みの威力を乗せた一撃を上段から左斜め下に向かって振り落とす。


「はぁぁぁぁああああああ!!!!」


その一撃はスモールボアーを真っ二つにする。

そのまま絶命したようだ。


「ふぅ...なんとか倒せたぁ」


「見事だったぞ!それにしてもアルネ嬢は強いな!魔法は中級魔法までだったが使うタイミングや練度が高かった。しっかり鍛錬をしているのだな!!」


レリアさんやお父様など、親しい人に褒められるのはある程度慣れているが、身内以外に褒められるのは中々なく、少し恥ずかしかった。

それにしても使っていた魔法もバレているのか。

やはりこの人は相当な実力者なのだろう。

そんな人に褒められるまで強くなれている。

その事実に気付き、今までの努力が報われたようで少し嬉しかった。


「ありがとうございます。それは私に師匠やお父様やお母様が私に教えてくれたからです。わたしひとりでじゃここまで強くなれませんでした。それに...まだまだです。私はもっと、強くなりたい」


「...そうか。目標が高いのだな。君はもっと強くなれるはずだ。これからも頑張りたまえ!!」


「はい!ありがとうございます!私もいつか、ジュードさんと同じ土俵で戦えるよう強くなってみせます!!」


「そうか!!それは大きくでたなぁ!!私はこれでも強いのだぞ?」


ジュードさんからの激励の言葉を胸に刻む。

その後、ジュードさんに見守ってもらいながらスモールボアーを始めとした弱い魔物たちを数匹程度狩り、ギルドへと戻った。

無事に依頼を達成することができ、ジュードさんにお礼を言ってから報酬である5000エルと、充実感を持って私は家に帰るのだった。




「まーた有望そうなやつが出てきたね」


暗闇から、少年の声が響き渡る。

どうやら、どこかの洞窟のようだ。

その空間には大きなテーブルが置かれていた。

少年の声が響いた後、それに答えるように一番豪華な椅子に座った男が話し出す。


「だがまだE級。あいつはまだ脅威ではない」


更に女の声が続く。


「めんどくさいわねぇ。さっさとやっちゃいましょうよ」


「慌てるな。まだ本格的に動く時ではない。下手に動いてバレたらそれこそ我らの我慢が無駄になる。今は、我慢の時だ」


悪は、まだ動かない。

しかし、世界が混沌に陥るのは刻一刻と近づいている。

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