第12話 冒険者デビュー
中級魔法『雷剣』を使えるようになってから早一ヶ月。
年も明け、私は中級魔法ならある程度使えるようになるまで成長していた。
これも、いつもやっている自主練とレリアさんの授業の賜物だろう。
授業で疲れた体をお風呂に入ってゆっくり休めた後、夕食を食べるためにリビングの自分の席に着く。
「「「「いただきます」」」」
全員で手を合わせ、それぞれが夕食を食べ始める。
今日のメニューは人参やじゃがいもといった野菜が使われたスープにワインソースがかけられたビーフステーキ、カプレーゼにフルーツ。
どれも私が好きなメニューだ。
授業終わりでお腹が空いている私はすぐさまスープを食べ出す。
じっくり煮込まれていたからか、柔らかいにんじんにはスープの味がしっかり染みていて美味しい。
そのままご飯を食べ進めていると、お父様が私の方を向いて、話しかけてきた。
「そういえば、アルネ。お前は冒険者になるのか?」
お父様の話にお母様も反応する。
「ああ、私もそれは気になってたわ」
いきなり聞かれ、食べ物が喉に詰まる。
「ぐふっ!?」
すぐさま用意されていた水を飲む。
冒険者。
魔物討伐から護衛任務、果ては人探しなど幅広くの依頼をこなしている、いわゆる何でも屋。
そりゃあ私も英雄に憧れているわけだし、魔物を倒したりして人を助けたい。
でも、今の私にできるんだろうか...?
そんな不安から冒険者には一歩踏み出せずいた。
「なりたいとは思っています...。だけど、今の私が魔物を倒せるのかが不安で...一歩踏み出せないです」
私がそう言うと、昔の苦い記憶を思い出したのか、二人とも同じように遠い目をしていた。
「あー...なんとなくそういうの分かるかもな。俺も初めての依頼は時は凄い緊張したしな」
「私もねぇ...今でこそある程度戦えるけど、昔は本当に弱かったから。初めての依頼もすごい怖かったわ」
そうなのか。
一流の冒険者として名を馳せた二人でも最初はそうだったのは想像すると中々シュールである。
「へぇ...二人でもそんな時があったんだね。なんか新鮮だなぁ」
「そりゃあ俺たちも人間だからな。誰だって最初はそんなもんだろ」
「最初なんて緊張して当たり前よ。いざとなったら逃げてもいいのよ」
「え...?でも逃げたら失敗なんじゃ?」
依頼を受けた以上、失敗は許されないはず。
そこのところを一流の冒険者であった二人が理解していないはずがない。
なのに、どういうことなのだろうか。
「そりゃあ冒険者としてはダメね。だけど家族としてやっぱりあなたには死んでほしく無いし、苦しんでほしく無いのよ」
「そうだな。お前が無事ならそれでいい。責任なら俺たちが取るし、やってみたらどうだ」
二人にそう言われ、自分の中で決心することができた。
やっぱり死ぬかもしれないのは怖い。
だけど、守ってくれる人がいるというのは心強い。
何より、自分の夢を捨てて絶望したまま生きていくなんてもう嫌だ。
「二人とも、ありがとう...私、冒険者やってみるよ」
「ああ。無理だけはするなよ」
「困ったら私たちにも相談するのよ。助けになるから」
二人とも、私が冒険者になるのを優しく後押ししてくれた。
二人の期待を裏切らないように、頑張っていきたい。
「ありがとう。できるだけ頑張ってみるよ!」
「いやぁ、アルネ君がもう冒険者になれるほど強くなるなんてね。少し前までは考えられなかったよ」
レリアさんがフルーツを齧りながらそう呟く。
私も考えられなかった。
魔法も使えなかった私が、今では中級魔法まで使えるようになり、夢を掴み取ろうとしているんだから。
人生何が起きるか分からない、とはよく言われるが、これは奇跡みたいなものだろう。
「これも、レリアさんのおかげです!!これからも魔法、教えてくださいね?」
私がいたずらっ子のように微笑むと、レリアさんは少し困ったように笑いながらこう言うのだった。
「ああ。これからも教えてあげるよ」
翌日朝食を食べた後、いつものように授業ではなく、町の冒険者ギルドに出かけていた。
イレーヌ王国には冒険者ギルドが数多くあり、代表的なのが王都にある冒険者ギルド本部、後は東都、西都、南都、北都にあるそれぞれの冒険者ギルド支部だろう。
あとはイレーヌ王国から少し離れた領地や大きな町に一つずつあることが多い。
そして今日は、東都にある冒険者ギルドにお父様とお母様、レリアさんと来ていた。
豪華では無いが、重厚感あふれる冒険者ギルドの建物は何回か見たことがあるが、やはり威圧感を感じるとどに大きい。
重いドアを押し、ギルドの中に入る。
ドアを開けると、すぐさま喧騒が耳を突く。
人の笑い声、ジョッキのぶつかり合う音、何やら真剣に話し合っている声。
ここにはやはり様々な人が集まっている。
「やっぱりここは変わってねえなぁ。思い出が蘇ってくる」
「そうねぇ。私たちが活動してたのは数年前だけど全然変わってないわ」
お父様とお母様は昔を思い出し、すこし楽しそうだ。
中に入ると、二人の冒険者時代の知り合いだろう人に話しかけられた。
「お、ハルトとセリカじゃねえか!久しぶりだなぁ!」
筋肉質の引き締まった体に、鉄でできた身軽な鎧。
見るからに強そうな男の人だ。
「お前、ジュードか!?変わってねえなぁお前!」
「お久しぶりですわ、ジュード。お元気そうで何より」
「おうよ。お前らも元気そうだな。そんで、冒険者を辞めたお前らがなんでここにいるんだ?」
「ああ、今日は娘の冒険者登録に来たんだ。今から登録に行くから、冒険者になったら助けてやってくれ」
「お前の娘ももうそんな歳か!!そんで、そこの銀髪の女の子がそうか?」
ジュードさん、という男の人はそのまま私の方を向き、声をかけてくる。
少し離れていて気付かなかったが、この人は両手剣使いのようだ。
見るからに重そうな剣を腰につけているが、全然重たそうにしていない。
「俺はジュード!こいつらと昔一緒にパーティーを組んでたんだ!嬢ちゃん、名前は?」
見た目は強面だが、話してみると荒っぽいが、良い人だというのが伝わってくる。
冒険者ギルドに初めて来たという緊張も少しほぐれたみたいだ。
「初めまして、アルネと言います!光属性と風属性を主に使います!!」
私がそう言うと、ジュードさんは少し驚いていた。
この世界では二属性使えるというのは中々に珍しい。
それを冒険者になろうとしている少女が持っていることに驚いたのだろう。
「アルネか、良い名前だな!それにしてもその歳で二属性使えるなんて凄えなぁ!流石はハルトとセリカの子供さんだ。困ったことがあったら言えよ?俺が助けてやるぜ」
「本当ですか?困ったことがあったらぜひ、よろしくお願いします!!」
「おう。俺もこいつらには借りがあるからな。そんじゃ、俺はさっき受けた依頼に行ってくるわ!また今度飯でも食おうぜ、ハルト、セリカ!」
「おう。お前も気をつけろよ!」
「分かりましたわ。また会いましょう!」
ジュードさんはそのままパーティーメンバーと思わしき人たちと一緒に外に出て行った。
私たちもそのまま受付まで行き、お姉さんに話しかける。
「すみません。冒険者登録をしたいんですが」
「冒険者登録ですね。では、こちらの資料をお書きください」
そう言って一枚の紙を手渡される。
冒険者ギルドとしても信用の置けない人間を冒険者にすることはできない。
資料には住所や年齢、使える魔法などを書くようになっていて、保証人として親などがサインをしなければならない。
魔法などが使えるのを確認するのは戦えることを確認して死人を減らすためだ。
資料を書きおわり、サインとして血印を行う。
最後についてきてくれたお父様とお母様、レリアさんがサインをしてくれる。
「ハルトさんにセリカさん、そしてレリアさんですね。承りました。それではこちらの冒険者証をお受け取りください」
そういって銀色のプレートを手渡された。
「こちらの冒険者証では自分のランクやステータスなどを見ることができます。冒険者にとっては身分証明書のようなものなので無くさないようにしてくださいね」
「ありがとうございます。これから頑張ります!」
「はい、応援しております。あなたに幸福と希望が多からんことを」
受け取った冒険者証を見ると、E級と書いてあった。
冒険者ランクにはS〜Eまであり、今日登録したばっかりの私はもちろんE級。
ランクが高くなると受けられる依頼も多くなるので早く上のランクに行きたいものだ。
「それじゃあ用事も済ましたし、家に帰ろうか」
レリアさんがそうみんなに言い、その日は家に帰った。
どうやら私の冒険は明日から始まるらしい。
家に帰ってベッドに入っても未だに高鳴りが収まらない。
今日は、少しの不安とこれからの期待で、あまりよく眠ることはできなさそうだ。
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