第11話 確かな成長
私が魔法を使えるようになって一ヶ月。
季節は冬であり、そろそろ雪も降りそうである。
寒くてまだ寝ていたいという私の心を押し留め、今日も朝早くに起きて自主練習を行なっている。
魔法が使えるようになってから、体力作りのためのトレーニングと魔法に魔力を入れ大きさを変えるというレリアさん直伝の魔力操作の練習を毎日行っている。
たまに、お父様やお母様も一緒にやってくれ、剣術も教えてくれる。
魔法と剣術を両立させる『魔法剣士』として戦っていきたい私には嬉しいばかりだ。
レリアさんの授業に加え、自主練習をしっかりおかげで全属性の初級魔法程度ならこの一ヶ月で扱えるようになった。
『無属性』であり、努力を続けたからこそ使えるようになったのだ。
最初の方は暴発などもあったが、やっていくうちに魔力操作の成果も出てきて暴発も少なくなっていった。
そうすると、やはり求めたくなるのは上のレベル。
初級魔法の上に中級魔法、中級魔法の上に上級魔法、上級魔法の上には創造魔法と言ったように魔法にも位が存在している。
だからこそ、早く上の魔法を使いたくなるものだ。
「あ〜...そろそろ中級魔法にも手を出したいなぁ。初級魔法もある程度使えるようになってきたし、得意な光と風のやつがいいなぁ」
素振りなどのトレーニングメニューが終わり、休憩しているとどうしてもそんなことを考えてしまう。
やっぱり、魔法が使えるからには威力が強いのを求めてしまうのは子供でも大人でも同じだろう。
「まぁないものねだりをしてもしょうがないか。休憩もしたしトレーニングに戻ろう」
水分補給も終わり、冷たい風に吹かれながらも、私は残りのメニューをこなし今日の自主練習を切り上げた。
シャワーで汗を流し、そのまま朝食に向かうと既に全員揃っていた。
慌てて自分の席に座り、すぐ朝食の準備をする。
「ごめんなさい、待たせちゃって」
「大丈夫だ。自主練習を行っていただけだし、アルネは何も悪くないさ」
お父様は特に怒らず、そのまま朝食を食べ始める。
ほっ...。特に怒られずに良かった。
レリアさんやお母様も特に何も言わず、朝食を食べ始めている。
今日の食事はパンに大きく切られた野菜とお肉が沢山使われたシチュー、エビが入ったサラダに、少しのフルーツ。貴族にしては少し質素かもしれないが、私は逆にこれぐらいが丁度いい。
小さい頃に行った社交会や他の貴族のパーティーの料理も煌びやかで美味しいものも多かったがどうしても疲れてしまうのだ。
お父様も同じようなことを言っていたから私も同じところを継いでいるのだろう。
ある程度食事も進み、レリアさんに話しかける。
「レリアさん、お願いがあるんですが」
「珍しいね、アルネ君がお願いなんて。それで、どうしたんだい?」
息を吹きかけて一生懸命シチューを冷ましながらレリアさんが答える。この人、こういうところは子供っぽいんだよなぁ。
「私もそろそろ中級魔法が使いたいです!初級魔法も安定してきましたし、そろそろ上のレベルにも挑戦してみたいです!!」
「もう中級魔法を使うのね。アルネも成長が早いわね」
「ありがとうお母様。成長が早いのも私に魔法を教えてくれるからだよ!」
お母様が私を褒めてくれる。
お父様もお母様も私が冒険者になりたいというのは知っている。
だからこそ二人とも私が魔法を使えないと知った時は一緒に泣いてくれたし、魔法が使えるようになったら一緒に喜んでくれた。今でも昔の経験を生かして私に魔法や剣術を教えてくれる。
二人とも、私の自慢の両親だ。
「中級魔法か。そろそろやろうと思っていたしいいよ。だけど、中級魔法は初級魔法と比べて大分難しくなるよ。私が止めたらすぐにやめること」
「本当ですか!?ありがとうございます!それで、いつから中級魔法を教えてくれるんですか?」
興奮も止まらず、レリアさんに迫る。
そんな私を見て苦笑いしているレリアさん。
「まあそう慌てるな。なんなら今日からでもいい。朝食が終わったら一緒にやってみよう」
「やったー!!それじゃあ急いで食べますね!!」
「こらこら。ゆっくり食べなさい」
無邪気に騒ぐ私を見て、お父様達が微笑んでいたのは嬉しさで夢中だった私には分からなかった。
朝食を食べ終わり、動きやすい服装に着替えた。
いつも練習をしている庭に出ると、既にレリアさんが来ていた。
レリアさんはいつも通り、紅茶などを出したりして休めるようにしているらしい。
「来たね。今日はさっき言った通り中級魔法を練習していこうか。中級魔法は初級魔法よりも威力が高い。その分魔力の消費も多くなるが、使いこなせれば君の大きな武器となるだろう。頑張っていこう」
戦闘時でよく使われるのはやはり初級魔法や中級魔法。
上級魔法は威力こそ大きいがやはり時間がかかってしまうし、そんな時間は作れないことが多い。
創造魔法はそもそも魔法を一から作り上げる魔法であり、高度すぎるので使える人も少ない。
そんな中でやはり一番役に立つのは中級魔法だろう。
「はい!そういえば、中級魔法を使うときに気をつけることって何かありますかね?」
初級魔法をある程度できるようになったからとはいえ、やっぱり初めて使う中級魔法は怖い。
今のうちに注意点などを知って不安な点は少しでも減らしておきたいものだ。
少し考える素振りを見せてから、レリアさんは喋り出した。
「強いて言うなら、魔力消費が初級魔法に比べて大きいという点かな。初級魔法に比べてやっぱり消費量が増えるから、魔力枯渇が起きないように注意することだね。その点さえ気をつければ今の君でも制御できると思うよ」
「魔力消費がやっぱり激しいんですね...。初級魔法と比べるとどれくらい魔力を使うんですか?」
「魔法にもよるが...使うやつだと2倍ぐらい持っていかれる魔法もあるね。まあ今日はそんなに消費は激しくない魔法だからそんなに気にしなくてもいいはずさ」
今日使う魔法は剣に発動させるタイプの魔法。
いわゆる『エンチャント』だ。
魔法剣士と戦っていく以上、必須なテクニックであるため、レリアさんにも教えてもらっている。
「分かりました!早速やってみます!!」
いつも使っている練習用の鉄剣を手に持つ。
その状態のまま深呼吸をし、神経を研ぎ澄ます。
使い古された木の的をを敵に見立てる。
風の音、小鳥の鳴き声がよく聞こえる。
イメージしろ。自分が使いたい魔法を。
光属性中級魔法『雷剣』。
雷剣は、剣に雷を流すことで、より攻撃力を高めるという単純だがそれ故に強い魔法である。
一度使えば魔力が切れるまでか、使用者が止めるまで続くというのも魅力的だ。
『雷剣』を使うときに気をつけるべきは魔力を均一にしなければ魔法としてのレベルが下がってしまうこと。
それを意識し、剣に雷を流す。
「ふぅー...」
少しずつビリビリと音が鳴り始め、剣が少しずつ発光していく。
一瞬レリアさんの方を見ると、レリアさんは何かを言いながら私を見ていて、私が見ているのに気がつくと、手を振ってくれた。
応援してくれているのであれば、期待には応えねば。
より一層集中を深め、更に魔力を込める。
魔力を込め終わると、一際強く剣が発光し、直後剣に少しずつ電撃が走る。
無事成功したようだ。だがこれで終わりではない。
足に力を込め、踏み込みの形を作る。
「はぁっ!!」
目の前にある木の的を斬るために一歩、強く踏み込む。
土が抉れる音を聞きながら、剣を両手で握り、大きく上段から斜め下に振り落とす。
刃が木に入る。いつもは真ん中辺りで止まっていた剣が今日は更にすんなりと入っていく。
ゴトッと真っ二つになった木が落ちる音を聞き、『雷剣』の発動を止める。
今、私は中級魔法を使うことができたのだ。
「ふぅ...。レリアさん、今の見てましたか!?私、中級魔法を使うことができましたよ!!やりましたぁ!!」
「ああ見てたよ。君にはいつも驚かされるね。遅れたが、おめでとう。君はまた一歩成長したね」
「これも、レリアさんのおかげです!...っと。やっぱり中級魔法は魔力消費が激しいですね。ちょっと立ちくらみがします...」
初めての中級魔法のせいか、いつもよりも体調が良くない。
恐らく魔力消費による魔力枯渇が原因だろう。
「それは大変だ。今日の練習はもう切り上げるよ。片付けは私がしておくから君は少し横になって休んでおくといいよ」
そう言いつつ私に水を渡してくれるレリアさん。
やっぱりこの人には敵わないな、と思ってしまう。
魔法の実力はそうだが、やはりそれ以外でも余裕というか気遣いができるし良い人なんだなと分かる。
お言葉に甘えて、少し休ませてもらおう。
「すみません、ありがとうございます。お言葉に甘えさせて休ませていただきますね」
「そうするといい。私のタオルを貸すからこれを枕に使ってくれ」
「ありがとうございます。使わせていただきますね。汚れてしまうと思うので後で洗って返しておきますね」
憧れの人のタオルを使えるなんて幸せすぎではないだろうか。
......少しだけ匂いを嗅いでもバレないよね...?
「ああ、言い忘れていたが、それはもちろん使っていない新品の状態だから気にしないで使ってくれ」
私を見てレリアさんが少しクスッとしている。
何...!?バレていたというのか!?
私の感情が出ていたというのか...!?
使っていた方が嬉しかったのになぁ...
「笑わないでください!!もう私は休みますからねっ!!後はよろしくお願いします!!」
恥ずかしくて顔が赤くなってるのがバレないようにすぐ顔を隠す。
「ああ、任されたよ。ゆっくり休んでおきな。時間になったら起こすよ」
そう言われ、庭の綺麗な芝生にタオルを畳んで枕代わりにして寝転がる。
視界には雲一つない青空が広がり、眩しい光が私に降り注ぐ。
...こうやって寝転がるのはいつぶりだろうか。
小さい頃に寝転がっていた記憶があるが、最近はあまりやっていなかったはずだ。
というかそんな余裕もなかった。
これだけ楽しく過ごせるのも最近になってからだ。
これからも成長していきたいな。
そう思いながら眠りに落ちていった。
「アルネ君、時間だよ。起きてまえ」
「ん?うーん...?おひゃようございまひゅ...レリアさん...」
目を擦りながら見ると、すぐ前にレリアさんの顔があり、目が合った。
ん?横になってるはずなのに何で目が合うんだ...?
それに、頭の下もタオルじゃなくて何か柔らかいし...?
これって...もしかして...?
「ひゃあ!?」
「おや。やっと気づいたかい。おはよう、アルネ君。よく眠れたかい?」
「眠れたもどうじゃないですよ!!何で膝枕してるんですか!?そりゃあ嬉しいですけど!!」
「思ったよりもいい反応だね!これは私もやった甲斐があるよ!さあ、もう昼食の時間だ。食べにいこうか!」
レリアさんは逃げるように屋敷に入っていった。
「あ!!逃げないでくださーい!!」
満足感と充実感に包まれ、私はレリアさんを追いかけて屋敷の中に戻ったのだった。
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