第10話 夢に手をのばして

レリアさんの魔力を流され、魔力を感知するという授業から一週間。

この一週間は主に魔力を感知し、それを操るなどの練習に取り組んでいた。

お陰で私は魔力を感知できるようになり、身体の中の魔力なら時間をかければだけど、魔力を集めたりなどある程度の操作はできるようになっていた。


「よし。今日からは本格的に魔法を使う練習をしようか。何か使いたい属性はあるかい?」


練習場所は庭であるため、動きやすい服装に着替えて準備をしていると、レリアさんが話しかけてきた。

準備といっても魔力を操る練習では動き過ぎて練習の最後には筋肉痛になっているので、最近は動けるようにストレッチをしっかりするようにしているだけなのだが。

今日も魔力操作の授業かなと思っていたので驚いた。


「え?魔力操作の練習はどうするんですか?」


「魔力操作の練習も行っていくよ。だが、中で操作するだけじゃなく、放出するということも大切だ。君も簡単な操作はできるようになってきているからね。それに、君も魔法を使いたくてうずうずしているだろう?」


「はい!私もとうとう魔法が使えるようになるんですね...!!この日を楽しみにしてました!!」


私が笑顔でそう言うと、レリアさんは苦笑いを浮かべ、困ったというのが伝わってくる。


「レリアさん?何か問題でもあるんですか...?」


「いや、それがね...魔法の練習とはいっても、問題点が二つほどあるんだ」


「問題点...?暴発や枯渇以外にも問題があるんですか?」


『無属性』である私が魔法を使うにあたり、師匠は最初の魔力操作で問題点を伝えていた。

それが、暴発と魔力枯渇の二つだ。

『無属性』である私には魔力を変換する能力がない。

そのため、魔力操作ができないので魔力を込めすぎて暴発してしまったり、魔力枯渇を起こしたりしてケガをしてしまう恐れがある。

だからこそ、レリアさんは私が安全に魔法を使えるように最初に魔力操作の授業をしていたのだ。


ここ一週間魔力操作に取り組んだため、ある程度の魔力操作はできるようになっている。

だから、レリアさんが言っていた暴発や魔力枯渇と言った問題は既に解決されているはずなのだが...


「まず一つ目が、何の属性を使うかということだ。だがこれはそこまで大きな問題点ではないがね。君が使いたい属性を使えばいいよ。何か使いたい属性とかは決まってるかい?」


「まだ決まってないです...だけど、今のところは風とと光をメインとして使っていきたいと思っています」


「ほう?風と光か。理由は何かあるのかい?」


火や水、土、闇も使い勝手が良かったり、攻撃力が高かったりと魅力はあった。

だけど風と光に惹かれてしまった。

何故かと言われたら子供じみた理由しかないのだが、それでも私は光と風を使いこなしたい。


「他の属性も魅力があったんですけど...だけど風と光に惹かれてしまって...。風と光を使いこなして英雄みたいになれたらかっこいい...かなって」


私が恥ずかしがりながらそう告げると、レリアさんは一瞬ポカンとして、途端笑い始めた。


「ハッハッハ!!かっこいいか!!いいねぇ、君らしくて良い理由だと思うよ!!」


「なんで笑うんですかああああ!!??いいじゃないですか!!どういう理由でもっ!!」


「いや、むしろそういう理由の方がいいかもしれないね、君みたいな子には。よし、じゃあ風と光をメインに練習していこうか。...それにしてもかっこいいからかぁ...やっぱり面白いねぇ君は!!」


「また笑ってますねレリアさん!?いい加減笑うのやめてくださああああい!!!」


私がそう怒ると、レリアさんはもっと笑ってしまい、結局レリアさんが落ち着くまで数分ほど時間がかかってしまった。

あんなに笑っているレリアさんは初めて見たので少し新鮮だった。


「はぁ笑った笑った。授業を中断してすまないね。一つ目の問題点は話したから、二つ目の問題点を話そうか」


「はぁ、はぁ。もう、レリアさん笑いすぎですよ...。それで、二つ目の問題って何ですか?」


レリアさんを止めるのに必死で、息もキレキレな私を見て、レリアさんは紅茶を淹れる準備を始めた。

どうやら少し休憩しながら話すようだ。


「二つ目の問題点は魔力変換のコツがいるという事だね。コツを掴んでしまえばスムーズに行くのだがね」


「魔力変換の...コツ...?それって一体どういう事ですか?」


「簡単に説明すると、無属性からそれぞれの属性に魔力を変換するのが難しいという事だね。普通の人なら適性があるから、簡単に出来るのだが『無属性』にはそうもいかない。早い人はすぐ習得するし、まずできないっていう人もいる。ここが中々面倒くさくてね」


確かにそうだ。

魔法というのは火属性を使いたいなら火の魔力に、水属性なら水の魔力に、というように変換する作業が入る。

もちろん、普通の人なら適性があるので、簡単に変換ができる。

だけど、適性がない『無属性』には難しくて躓いてしまうこともあるというわけだ。


「...やります。絶対に成功させます。こんなところで止まっている時間なんて、ないから」


「...絶対に成功させる、か。やはり君は面白いね。じゃあ方法を教えよう。成功していたら私が声をかけるよ」


真剣な表情になったレリアさんが私に話し始める。

レリアさんから教えてもらった方法はこうだ。


・容器に入った無色透明の液体を連想する。

・その液体に使いたい属性に近い色(火なら赤、水なら青)の液体を少しずつ混ぜていき、同化させる。

・そのまま魔力が溢れないようにし、使いたい分の魔力を込め魔法を使う。


無色透明の液体がいわゆる、無の状態の魔力なのだそうだ。

この練習で注意することは大きく分けて二つ。

一つ目が魔力を容器からこぼさない、無くさないようにすること。

こぼすと暴発、無くすと魔力枯渇になるらしい。

二つ目が同化させる際に、魔力を使いすぎないこと。

あまり入れすぎてしまうと同化できなかったり、魔力が無駄になってしまうらしい。


単純に見えて、実は結構難しい。

だけど、こんなところで止まってはいられない。

目を閉じて深呼吸し、神経を集中させる。


「...ふぅー。行きます!!」


「ああ。応援しているよ」


声を出してレリアさんに言われた言葉が最後に集中状態に入った。

まずは、無色透明の液体を用意する。

コップに水を注ぐイメージで...これくらいか。

ガラスのコップに半分より少し多めぐらいの量を入れ、そこで止めた。

次に、使いたい属性、私は今回光属性を使ってみたいので、黄色の液体を想像する。

それを一滴ずつ、丁寧に。

少しずつ液体が入ると無色透明だった液体に少しずつ色が付いてきた。

七滴ほど入れると、黄色くなり、その液体は少し光を放っていた。

無の状態の魔力よりも少し温かみを感じ、力が湧いてくる。

どうやらこれが同化という状態らしい。

あとは、これから魔法を使うだけ。

中級魔法などはまだ使えないから、初級魔法になってしまうけどそれでも魔法には変わりない。

後一歩。夢がすぐそこにあることが感じ取れる。

行け、私。夢をこの手で掴み取れ!


「『閃光』!!」


目を見開き、魔法詠唱を済ませる。

小さな光の球が風を切りながら進んでいき、数メートル進んだところで小さな炸裂音と共に発光し消滅した。

これが、魔法。私が初めて使った魔法。

魔力を消費した疲れから、地面に膝をつく。

額を拭ってみると、少し汗がついた。

まだ実感が湧かないが、相当集中していたようだ。

少し遠くで見ていたレリアさんが歩いてくるのが見えた。


「まさか本当に一発で成功させるとはね。今のが魔法だよ。そう、君が使ったんだ。これで君も今日から魔法使いの一員だ。歓迎するよ、そしておめでとう」


レリアさんが優しく頭を撫でる。

そして、実感が少しずつ湧いてくる。

夢が叶った嬉しさと、ここまでくることの辛さ、今まで味わった絶望が報われた、など多くの感情がごちゃ混ぜになり、涙が出てくる。

そんな私を、優しく抱きしめてくれるレリアさん。


「今君は、魔法使いとしてのスタートラインに立っている。ここから共に、更に成長していこう」


そうだ。私の魔法使いとしての冒険は今、この時から始まるんだ。

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