第9話 夢はもうすぐ近くに
いよいよ今日から本格的な魔法の練習が始まる。
初日の今日は魔力操作から始めるらしい。
私としてはすぐに魔法を使いたいのが、師匠であるレリアさん曰く、
『無属性がいきなり魔法を使うと魔力操作ができずに暴発や魔力枯渇の恐れがある。暴発や魔力枯渇は最悪死ぬ可能性もあるからね。それでもやりたいと言うならやってもいいけどね?』
と、ニッコリしながら言われた。
ニッコリとは言っても声は全然笑っておらず、とても怖かった。
今日の授業は魔力操作ということで屋敷の中ではなく庭に出て行うようだ。
そのため、いつも着ているドレスのような服ではなく動きやすい服装に着替えている。
庭に出てみると、レリアさんが既に準備をしていた。
と言っても今回は魔法を使うわけではないので、休憩できるようにと飲み物と軽食を用意しているだけだが。
「お、来たね。早速始めようか」
靴を履いていると、レリアさんがこちらに気付き声をかけてくれた。
「すみません、遅くなってしまって」
「いや、遅れてなどいないよ。私が少し早めに来て準備をしていただけさ。そんなに気にしなくていいよ」
「ありがとうございます。それで、今日は魔力操作をすると言ってましたが、魔力操作をするとどういう効果が出るのでしょうか?」
魔法の練習と一概にいっても多くの練習方法が存在している。
威力を上げたいのなら魔力の無駄を減らしたり、魔力を多く込める練習をすればいいし、速度やコントロールを良くしたいなら的を用意してそれに当てる練習など、工夫を凝らした練習方法がある。
そういった練習ならば容易に想像がつくのだが、魔力操作の練習などほとんど聞いた事がないし、想像もつかない。
「一般的には初級魔法である『火球』などを使う事が多いね。魔法を維持したまま魔力の量を調節して大きさを変えたりするのが多いかな。聞いていると結構難しそうだけど慣れると簡単だよ。ほら」
そう言ってレリアさんは左手を胸の前に出し小さく『火球』とだけ呟いて、手のひらの上に小さい火の玉を出した。
「ここに小さい火球がある。これを大きくしてみるよ」
片手に載るぐらいの大きさの火球がみるみるうちに大きくなり、両手でも収まりきらないぐらいの大きさになった。
「すごい...」
「最初のうちは魔法が乱れたりもするけどね。この基礎の練習をしっかりやっておく事で無駄なく魔法を使えるようになるし、魔力の節約にもなる。それは長時間戦闘できるということでもあり、冒険者において大きな武器にもなる。できておいて損はないよ。といっても今日はこの練習方法ではないけどね」
「え?ではどういう練習をするんですか?」
大きくなった火球を少しずつ小さくしていき、魔法を消滅させるという神業を苦もなく行いながら、私に今日やる魔力操作の説明を始める。
「君はまだ魔法を使えないね。つまり、それはまだ魔力を感知できていないということなんだ。普通の子なら適性が出た時点で自分の中の魔力を感知できているんだ。しかし『無属性』の場合は、適性がないという事だから最初は魔力を感知できていないんだ。それが『無属性』が魔法を使えない理由だね」
「つまり、身体の中にある魔力を私自身が感知できるようになれば、魔法を使えるようになるという事ですか!?」
「そう慌てるな。まあ端的に言うとそういうことだね。魔力を感知する方法は大きく分けて二つ。一つは、自分で感知すること。だけどこれは一朝一夕でなるものじゃないし、多くの場合は命の危機に瀕した時に突発的に出る事が多い。だからこれは現実的ではないね」
「そうなんですね...じゃあもう一つの方法はなんですか?」
私が聞くと、レリアさんはいたずらっ子のようにニヤッと笑い、楽しそうに私にこう言った。
「二つ目は、魔力を感知できる人に魔力を流してもらうこと─それじゃあ今から私と手を繋ごうか?」
「え、えええええええ!?」
なんだなんだなんだなんだなんだ!?!?
まさかあの憧れの英雄様と手を繋げるだって!?!?
なんてごほうb...ごほん。
なんてことだ!?不敬罪に当たったりしないだろうか...?
私がしばらく固まっていると、レリアさんは私の手を掴んできた。
「っ!?」
「そう畏まられなくてもいいよ。ほら、行くよ?」
「ちょ、ちょっと待ってください!心の準備が...て、え!?何、この感覚...。何か温かいのが私に流れ込んでくる...?」
焦っている私にいきなり温かいものが流れ込んできた。
本来私の身体にはない異物なはず。
なのに不思議と気持ち悪いとは感じず、むしろ心地良さまで感じる温かさだ。
これが、魔力なのだろうか...?
「気付いたようだね。それが魔力だ。君は今、魔力を感知しているんだ。君の身体には本来異物な物。気持ち悪いとか、体調が悪いとかはあるかい?」
握り合っていた手を離しながらレリアさんは言う。
「いえ、特には...。これが魔力なんですね...。むしろ心地良さまで感じます」
「ほう、心地良いか。それは私の魔力が君に合っているんだろうね。まあ私の魔力は十分程したらその身体からは抜け切るから安心してくれたまえ。今のうちに魔力の感覚を掴むといいよ」
「これが、魔力...。これで私もいよいよ魔法を使えるようになるんですね!!」
小さい子供のようにはしゃぐ私を見て苦笑いしながらレリアさんは教えてくれた。
「そうはしゃぐな。今魔力の影響で君の身体は少しブーストされているんだ。あまり騒ぎすぎるとケガをしてしまうよ。それに、魔力を入れたとはいえ君はまだ慣れていない。焦らず、ゆっくりやっていこう」
「はーい...」
その後、しばらく魔力がある感覚を楽しんだ。
お父様やお母様から剣技やトレーニングなどは一通り教えられていたので、剣を振ってみたりしたがいつもとは振る速度や力の入り方が違った。
お父様やお母様は私が英雄になりたいと言うことを知っていたから、小さい頃から私に剣技を教えたり、体力をつけるために一緒に走ったりしてくれていた。
なんであんなに強いんだろうなぁとは思っていたが、この前の夕食の時にレリアさんから二人は昔冒険者だったと言う話を聞いて納得した。
ちなみに、その話をされたお父様とお母様は恥ずかしがって顔が赤くなっていた。レリアさんは二人に怒られて少ししゅんとしていた。
十分程経つと、いきなり身体の中にあった温かい感覚が少しずつ無くなってきた。
「あ、レリアさーん!そろっと魔力がなくなってきま...っていったぁ!?なんですかこれぇ!?」
庭にある日傘付きのテーブルに座ってのんびりしているレリアさんに声をかけると、いきなり身体中に筋肉痛のような痛みが走った。
「だから言っただろう。君の身体は魔力でブーストされているんだって。いつも以上の力を出した君の身体はいわば筋肉痛の状態だ。今日はもうやめにするよ」
少し呆れながらレリアさんが言った。
「そんなぁ〜。もう少しこの感覚を楽しみたいです...!」
「そんなわけにはいかないよ。これ以上やるともう危険だ。身体をしっかり冷やして安静にしてなさい。そして今日は早く寝ること!」
そう私に言いながら、てきぱきと氷や水を用意し、冷やす準備を始める
炎症を起こしていた筋肉が冷やされていくのを感じながら、私の心は魔力を使えたという嬉しさと満足感で温かいままであった。
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