第8話 無属性でも

レリアさんに謝り、そして弟子になった日の夕方。

宣言通り、レリアさんは我が家に荷物を持ってやってきた。

衣類はもちろん、謎の魔法書などもいくつかあった。

流石は『魔女』と言ったところなのだろうか。

その日は、みんなで夕食を食べ、レリアさんから昔のお父様やお母様の話を聞いたり、レリアさんの魔法を聞いたりしたりと、楽しい時間となった。


入浴を済ませ、夜遅くになり眠る時間となった。

貴族の寝具にしては豪華な飾りなどはないが、それでも高級感を感じる事ができ、お気に入りの家具となっていた。

そのお気に入りのベッドの潜り、部屋に差し込む月光を浴びながら、今日の出来事を思い出していた。


『私は魔法が使いたい。だから、私に魔法を教えてくれませんか』


『いいだろう。いいだろう。君の目は、覚悟と決意を持った者の目だ。私が導き、君を強くしてみせよう。』


私が覚悟を持って告げると、レリアさんはその覚悟を受け入れ、私を強くしてくれると言ってくれた。

その一言がどれだけ嬉しかったか。

生きている意味なんてないと思ってた。

生きているだけで迷惑をかけてしまうから。

だけど、私でも夢を追いかけていいんだ、そう思えるようになったから。

心に温もりが戻ってくるのを感じた。


「私が追いかけていた魔法...これから使えるようになるのかもしれない...ふふ、楽しみだわ!!」


その日の夜は興奮が冷めず、あまり寝る事ができなかった。


魔法の講義は、朝食を食べ終わった後から始まった。

どうやら今日は、魔法という概念の授業のようだ。

お父様の部屋には私が呼んでいた英雄譚だけでなく、魔法について描かれていた本もあったりしたし、貴族の場合は小さい頃から先生を招いて勉強したりなどもあるので、大体の内容は理解しているはずだ。

レリアさんが、黒板の前に立って私に問いかける。


「まず、アルネ君は魔法の六大属性は知っているかい?」


「はい。火、水、風、土、光、闇の六つからなる魔法の属性の分類のことですよね」


私がそう答えた後、レリアさんは黒板に六芒星を描き、それぞれに属性の名前を書いた。


「そうだ。では、少し難しい質問をさせてもらおう。魔法とはどのように発動するのか。その原理を説明してもらおう」


「えっと...まず、人は魔力をそれぞれの属性魔力に変換できる力を持っています。火属性の人なら火の魔力に変換、水属性の人なら水の魔力に変換します。そして、詠唱で魔力を操ることで魔法を使う事ができます」


「ふむ、基本に忠実な説明だ。勉強熱心で素晴らしいね。だが、本当の内容とは少し違う」


「え?でも本や来てくださった先生にはこう教わりましたけど...?」


まず魔力とは、人が量は違えど必ず持っているものだ。

その魔力を能力によって属性を持たせ、魔力を操ることで魔法を扱えるようになる。

だから、その力を持っているから火属性や水属性といった適性があり、私のような無属性も生まれる。

誰しもがこう教わるはずだ。

一体、何が違うというのか。


「では、君に一つ聞こう。この世には二属性以上の魔法を使える者がいる。それはなぜか?」


昔の英雄や、名の知れた冒険者には確かに二つの属性えお操る魔法使いなどが存在している。

だがそれは、たまたまその二つの属性に適性があっただけではないのか。

私が戸惑って答えられないのを見て、レリアさんが喋り出した。


「簡単さ。そもそも前提が違うんだ。火属性適性持ちが水属性の魔法を使えないのではなく、使わないのだよ」


「え?でもそれっておかしくないですか?だったらもっと世界には二属性以上に適性を持つ魔法使いがいてもおかしくないはずでは...?」


魔法の属性が一つ増えるだけでも戦場だけでなく、日常にも相当役に立つはず。

なのに使えないではなく使わないというのはどういう事だろうか。


「そもそも魔法は魔力を代償に使用するものだ。じゃあ、水属性に適性がない人が無理矢理水属性の魔法を使ったらどうなると思う?」


「適性がないということは...そもそも魔法が発動しないか、魔法の威力が弱まるのでしょうか?」


「そうだ。適性がないのに魔法を使うと、威力が弱まったり、使えなかったりする。要するに魔力消費が多いということだね。でもそれはおかしいと思わないかい?魔力消費が激しいだけで、適性がないのに魔法自体は使えている」


「っ...!?」


確かにそうだ。

魔法は魔力変換能力の適性を持っているから使えるはずだ。

なのに魔力消費が激しいとはいえ、適性がないのに魔法を使えているというのはおかしい。


「その答えは簡単。魔法というのは適性がなくても使える。だけど他の人が使わないのは魔力消費が激しいから。多くの人は魔法が使えることに疑問を全く持たず『この属性は使えないんだな』とだけ判断する」


「そして更に。魔力消費が激しいのは既に適性が決まっている人が無理矢理使おうとするから。何の適性もない『無属性』が使う場合は魔力消費は激しくならない。要するに、大人が勉強するのと子供が勉強するのとだとどっちが覚えるか、ということに近いかな」


...それはつまり。

適性がない『無属性』の私でも魔法を使えるようになるということだ。

この世の常識が覆されていくのに驚きながらも、私は魔法が使えるという事実に涙が止まらなかった。


「おいおいそんなに泣かないでおくれよ。君の憧れへの物語はまだ始まってすらいないぞ。同年代との間についたこの二年間の差は大きいぞ?」


私を少し叱りながらも、その声は優しさに満ち溢れていた。

私がどれだけ魔法に憧れていたか、そのことをよく分かっているからだろう。


数十分後。

泣き止み、ある程度落ち着いた頃、授業は再開された。


「す、すみません。授業を中断させてしまって」


「いや、かまわないよ。君もまだ子供。嬉しい時には泣いてもいいんだよ。さあ、授業を続けようか」


「はい!」


こうして魔法の歴史などを少しだけ学び、今日の授業は終了となった。

明日からは、座学もやりつつ、魔力操作などの基礎的なことも行っていくらしい。

初めてやる人は疲れてしまうから早く寝るように、とレリアさんにも注意されてしまった。


「ふふ。明日からも楽しみだなぁ」


思わずえみが零れてしまう。

魔法を使えるのをどれだけ待ち望んでいたか。

その興奮を抑えながら、今日は眠りについた。

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