第7話 ここから
誘拐事件から五日後。
守衛軍に盗賊を引き渡し、ある程度の証拠も出てきたようだ。
アジトも突き止め、無事に全員捕まえたようだ。
しかし、盗賊は異様に資金もあり、バックに何か組織がいるのではないかという仮説があるとお父様から聞いた。
人身売買の手引きを行っていたモルーテ伯爵は爵位を剥奪され、牢屋生活らしい。
未だに怖かったという感情は消えない。
貴族という本来民を守る人々の闇の一面が見えたことも、死ぬかもしれないと感じることも。
全部が怖かった。絶望もした。
しかし、それ以上に私は興奮していた。
だって、憧れの人に出会えたんだよ!!??
もう嬉しすぎるね!!!!!
そして、私は希望をまた見出すことができたんだ。
昼食を食べ終わった後、お父様に部屋に呼ばれた。
ノックをして部屋に入る。
「アルネです。失礼します」
「おう。入れ」
お父様の声が聞こえてから、ドアを開ける。
部屋の中には、お父様以外にもう二人いた。
机奥の方の椅子にはお父様とお母様が座っている。
手前の椅子には、薄い青長髪に魔女の格好がマッチしている女性、レリアさんが座っていた。
「レリアさん、なんで!?」
「落ち着け。今日は話があるからまた呼んだんだ。というか興奮しすぎてあいさつもできてないぞ」
呆れたような声を出しながら苦笑いするお父様。
確かに忘れてしまっていた。
今更気づき、少し恥ずかしくなった。
「ああ、すみません...!!レリアさん、こんにちは。アルネ・ヴァンハートです!」
「ああ、こんにちは。そんなに畏まらなくても大丈夫だよ、アルネ君。あれから調子はどうだい?何か怖いこととか心配なことはあるかい?」
「い、いえ!特にはございません!ですが一つ、お聞きしたい事があります!」
「ほう?なんだい?」
「レリアさんは、『水嵐』の魔女様なんでしょうか!?盗賊を制圧する時に使っていた『水嵐』に、薄い青い髪。短髪とお聞きしていましたが、長髪になってましたので...」
私がそう話していると、お父様が急に立ち上がった。
「な...!?お前、人相手に『水嵐』を使ったのか!?あの技を人に向かって放ったら死人が出るぞ!?」
お父様に詰められ、レリアさんはだいぶ焦っているように見えた。
こんなレリアさんは初めて見たから少し新鮮だ。
そんなお父様を座っていたお母様が止めに入る。
「まあ、ハルト。レリアも手加減はしているはずです。それに、今回の事件で死傷者は出なかったはず。おそらくは、アルネにかっこいいところを見せたかっただけでしょう」
「ぐっ!?ハルトもセリカも酷いじゃないか!そうだよそうだよ!私はただ単にかっこいいところが見せたかっただけだよ!!」
図星を突かれて狼狽えていたレリアさんは、なんかもう開き直って子供みたいになっていた。
私には心残りがあった。
あの日、レリアさんに初めて会った日。
レリアさんを冷たく拒絶してしまったことを後悔していた。
どれだけ絶望していたとしても、嫌になっていたとしても八つ当たりはダメだ。
そのことをレリアさんにしっかり謝りたかった。
「あ、あの...!私、レリアさんに謝りたくて!!」
「うん?私にかい?」
「はい...!初めて会った日、私を見捨てないでくれたレリアさんを私は拒絶してしまいました。本当なら嫌われてもおかしくないのに...。それなのに、今回も私を助けに来てくれました...。あの時、本当に嬉しかったです。ありがとうございます!!そして、ごめんなさい...!!」
しばらく頭を下げていると頭を撫でられた。
頭を上げてみると、レリアさんが少しニコッと会いながら優しく頭を撫でてくれていた。
「なんだ、そんなことか。あれは私も無理に誘いすぎていたよ。君のことも考えずにね。それに、私も君に嫌われていたと少し心配していたところさ。あとね、一つ教えてあげよう。私は、『水嵐』の魔女として、この国を、世界を守りたいと思っている。だって、私はこの世界が好きだから」
そう語るレリアさんの声は優しかったが、表情からは並々ならぬ決意を感じ、改めて英雄として、生きる伝説である『水嵐』の魔女の凄さを感じ取れた。
自分もその場所に辿り着きたい、そう胸の内から熱い思いが湧き上がってきた。
「レリアさん。お願いがあります」
「ほう。なんだい?私にできることなら何でもしよう」
私は、上に行きたい。
人を守り、希望となれるように。
だから、私は魔法が使えるようになりたい。
「私は無属性です。だけど、今回の事件を通して、人を守れる、そんな強さが欲しいと思いました。─私は魔法が使いたい。だから、私に魔法を教えてくれませんか」
途端、レリアさんの目が細まった。
威圧感を感じる数秒。私にとっては長い時間に感じた。
そして、レリアさんはまた目を開き、
「いいだろう。君の目は、覚悟と決意を持った者の目だ。私が導き、君を強くしてみせよう。いいよね?ハルト、セリカ」
呼ばれたお父様は驚いていたが、私の決意を感じ取ったのか、呆れながらもこちらに歩いてきて、優しく抱きしめてくれた。
お母様も、私が魔法に憧れていたのを知っているからこそあまり驚いていなかった。
さっきの会話からもレリアさんとも長い付き合いなのだろう。信頼しているからこそ、私の決断を認めてくれたのだろう。
信じてくれたお父様、お母様を裏切らないよう、全力で取り組み、成長していきたい。
今日が、憧れへの第一歩なんだ。
「それじゃあ、明日から魔法の概要について教えよう。それなら、私はこの屋敷に泊まろうかな」
「は?」「え?」「うん?」
お父様、お母様、私、とそれぞれ違うリアクションをし驚いていた。
「おいおいおい!?いきなり何を言い出すんだ?」
「いやまあ、旅も落ち着いてしばらくはイレーヌ王国にいようかなと思っていたし...。それにアルネ君に魔法を教えるなら近い方がいいだろう?部屋も余っているし住ませてもらおうかなとね」
「いや確かに部屋は余ってるが...。アルネとセリカが良いと言うなら別に俺はいいが...」
「「いい!!」」
「じゃあそう言うことだ。私は少し家に帰って住めるように道具を持ってくるよ」
「はあ...騒がしい奴が来るのか...」
お父様がため息を吐いて、小声で呟いた。
こうして、師匠(推し?)との生活が始まった。
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