第6話 現れた希望
開けっ放しにされていた扉の前には薄い青長髪の女性であり、私が冷たく拒絶してしまったレリアさんが立っていた。
どこから来たのか、なぜこの場所が分かったのかなど、聞きたいことは沢山あるが、今は知り合いが来てくれたことが嬉しかった。
「ああ?なんだてめえ?」
リーダー格の男が問いかける。
「私か?私は...まあしがない魔法使いだよ。そこの女の子を助けに来ただけさ。だから、彼女を受け渡してくれないかな?そうすれば、私は君達に対しては何もしないよ」
「ハッ!!いきなり現れて何を言い出すかと思ったら!!そんな条件呑めるわけねえだろ!!まず、人数を考えてみろよ?お前の方が下手に出る側なんだよ!立場を考えてモノを言えよ?」
確かにそうだ。
彼女一人に対し、相手は四人。
数の差は大きな差になるはずだ。相手を刺激しないようにお金を積んで逃げるべきはずなのに。
「下手に出る?立場を考えろ?お前らは一体なにを言っているんだ?お前ら如きが私に勝てるはずがないだろう?若者が自信を持つのはいい事だが、あまり調子に乗らないほうがいいよ?」
対してレリアさんは、何を言われているのか分からない、というようにキョトンとした顔を浮かべていた。
その顔にイラついたのか、リーダー格の男が怒鳴り声を上げた。
「だからぁ!!お前は一人、俺らは全員が魔法を使えて俺は身体強化も使えるの!!ただの魔法使いが勝てるわけねえだろ!調子に乗ってんじゃねえよ!」
「ああそういうことか。そんなことを言ってるということはこちらの要求は呑んでくれないと言うことだね、しょうがない。あまり手荒な真似はしたくなかったのだがね」
挑発されてもう我慢できないのだろう。
リーダー格の男はみるみるうちに顔を赤くし、身体強化!と言い放ち、床を思い切り蹴った。
爆発したかのような轟音が部屋に鳴り響き、それだけで床がへこんでいるのを見るに、相当な速さなのだろう。事実、私にはほとんど見えなかった。
あの男とレリアさんには五メートル程度離れていたはずだが、一瞬で接近した。
「ごちゃごちゃうるせえなぁ!!もう我慢できねぇ!さっさと死んどけやぁ!!!」
あのままでは死んでしまう。
人が傷つくのは見たくない、だから大きな声で叫んだ。
「レリアさん!!」
自分にも力が、守れる力があれば。
人生で何回も考えたことだ。今更願っても遅いはずなのに。
私のせいで人が傷つくのはもう嫌だ。
「遅い」
床を蹴った音、他の男の笑い声、うるさかった部屋だったはずなのに、その一言がやけに響いた。
閉じていた目を開けてみると、そこには信じられない光景が広がっていた。
目には見えないほどの速さの拳を、レリアさんが片手で受け止めていたのだ。
「え?」
その声は誰のものだったのだろうか。
男の声だったかもしれないし、私が漏らしてしまった声だったかもしれない。
「こんなので私を倒そうと思っていたのかい?舞い上がるのも甚だしい。それじゃあ、こちらの番といかせてもらうよ」
その声が響いた瞬間。
轟音が鳴り響き、風塵が部屋に舞い上がる。
風塵が晴れ、目を開けてみると、ありえない光景が広がっていた。
屈強な男が投げられ、白目を剥いて意識を失っていた。
そんなありえない光景を作り出したレリアさんはさも当然、というように埃を落とすために手を叩きながら残っている男を睨みながらこちらに歩いてくる。
「まずは一人。どうする君達は?まだ戦おうというなら相手になろうか?まあお前らがどう言おうが捕まるがね」
モルーテ伯爵は顔を青くしていた。圧倒的な力の差を感じたのだろう。
残っている二人の男達は、リーダーの男が倒されたのにたじろぎながらも、戦意を喪失してはいなかった。
「てめえ!ボイドさんに何をしやがった!!」
「ボイド...?ああさっきの奴か。何も特殊なことはしていないさ。ただ拳を受け止めて投げただけだよ。単純なことさ」
「そんなわけあるか!!ボイドさんの身体強化魔法は一流なんだぞ!?そんな一撃を生身で、それも片手で受け止めるなんて狂ってやがる!!化け物め!!」
「あの程度の魔法で一流?ふざけたことをほざくなよ、魔法を侮辱してるのか?それに化け物呼ばわりとは。子供を攫って売り飛ばしている君たちの方が化け物だと私は思うがね」
「俺たちのことを馬鹿にするんじゃねえ!!死ねええええ!!!!」
二人の男は痺れを切らし腰に帯びていた短剣を抜き、レリアさんに斬りかかる。
もちろんそんな攻撃が効くわけもなく。
「『水嵐』」
その声が聞こえた瞬間、豪風が吹き始めた。
...あの魔法は。間違いない。
英雄譚に載っていた魔法だったはず。
小さい頃、お父様の部屋に忍び込んで読んだ英雄譚が『水嵐』の魔女様が使っていた魔法だ。
それじゃああの人は。
あの人が、『水嵐』の魔女様...?
感動と希望でぐちゃぐちゃになり泣き出しそうな私を傍目に、レリアさんは魔法を使う。
「それじゃあね、犯罪者の屑ども。次に目が覚めたら牢屋の中だろうね」
そう言って、『水嵐』を男共に飛ばす。
それだけで、男達は吹き飛ばされ、数メートル後ろにあった壁にぶつかり、それだけでなく、壁を突き破り外に飛ばされていった。
「「ぐあああああああああああ!!!」」
「そして二人。それで、モルーテ伯爵はどうするのかな?」
モルーテ伯爵に声をかける。
顔を青褪め、何が起こっているかやっと理解できたようだ。
「あ...あ...ゆ、許してください!!俺は、俺は!!あいつらに脅されていただけなんです!!ああ、お助けください女神様あああああ!!!」
「もし仮にそうだとしよう。だが、本来民を守るための貴族がそのような態度で何になる?脅されていようと、力を以て盗賊である彼らを捕まえるのが貴族じゃないのか?それに、盗賊団に不当な援助を行い、あまつさえこの娘を助けなかった。それだけで君は貴族失格だ。『水嵐』」
「お、お待ちを!!ぐ、ぐあああああ!!」
モルーテ伯爵も吹き飛ばされた。
レリアさんは吹き飛ばした後、私の方を向いた。
そのまま私の前まで歩き、しゃがんで座り込んでいる私の目線の高さに合わせた。
「また会ったね、アルネ君。助けに来るのが遅くなってすまない。怖がらせてしまったね」
先程までの高圧的な声とは違い、子供を慰めるような優しい声で話しかけてくれた。
その優しさが、緊張状態にあった私の心をほぐし、包み込み、涙が溢れてきた。
「うう、怖かったです....!!!助けにきて、くれて、ぐすっ...ありがとうございまず...!!」
「助けに来るのは当たり前じゃないか。この国が、この世界が私は大好きだからね。それに、ハルトの子供だ。知り合いを助けるのは当たり前だ」
私を抱きしめ、背中を優しく叩いてくれる。
その優しさでより安心感を感じ、もっと涙が止まらなくなる。
「それで、も...!もう死んじゃうんだ、って思ってたがらぁああああ...!!」
そのまま、レリアさんは私が泣き止むまで、抱きしめながら優しく背中を叩いてくれた。
「よしよし。もう安全だ、私がついている限り。目一杯泣くといい。帰るのは、もう少し遅くなっても大丈夫だ」
そのまま数十分、もしかしたら一時間ぐらい泣いていたかもしれない。
そのままレリアさんと共に、気絶した盗賊とモルーテ伯爵を拘束し、屋敷の外に出た。
守衛軍に直行し、拘束した盗賊達を受け渡した。
守衛軍の人は驚いていたが、守衛軍もモルーテ伯爵は元々怪しいと思っていたらしく、レリアさんの取り調べにあまり時間はかからず、一時間ほどで終わった。
家に帰ったのはその日の夜の出来事だった。
家に帰り、ドアを開けた瞬間、お父様とお母様に強く抱きしめられ、また涙が止まらなかった。
ああ、帰ってこれたんだ。
私は、こんなにも多くの人に支えられているんだ。
その事実に改めて気が付き、冷たかった心の氷が少しずつ溶けていくのを感じた。
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